右足が落ち葉にはまり、そこから藪蚊が湧いてくる。
肌を隠す。拒まれているようだった。
− 飯島 暉子
この度、NEST(ネスト)では、飯島 暉子(いいじま あきこ)による個展 “藪”を開催致します。
これまで飯島は、身体感覚を通して周囲の環境を捉え直すアプローチを、様々な観点から行ってきました。その意識は、飯島自身が作家として関わる手前の状態や、任意の自然な環境に対して向けられており、そういった状況に意識的であるからこそ、〈作品化する≒残す〉ということに対して自覚的なアウトプットが選択されています。そのきわめてささやかな行為を特定の場所に配置する所作や、時間の変化に伴って生成/消失される微細な変化の可視化は、作品として強く存在を残そうとする、モニュメンタルな彫刻的意識とは対極にあるアプローチであると言えるでしょう。
同様にそれは、素材の選択という段階にも明確に表れています。例えば“埃(ほこり)”は飯島作品にしばしば用いられる素材ですが、作家自身は「埃という素材は無価値なものとしてある一方で、痕跡としては多弁な存在」と語っています。端的にゴミとして扱われる存在が、一方では時間の堆積であり、身体の痕跡であり、複数の事象の集合体であり、、というように、物質を多面的に捉える視座がそこにはあり、“配置による違和感”を生み出す点においても、展示空間を仮設的に捉える手法と親和性の高い、一貫した素材の選択を見て取ることができます。
今回、飯島は大阪府内の一部地域にある「両墓制」という風習の跡地を訪問し、そこで得た体験や慣習にまつわる考察を経て、NESTの展示空間とそれらを重ね合わせる表現を試みます。遺体が一時的に(即ち、“仮設的に”)埋葬される行為や、希薄さを伴った場所性といったリサーチにおける諸要素を、エファメラルな素材を用いてNESTの展示環境の中で立ち上がらせます。
尚、その内容に伴い、本展覧会は日の出を開廊時間、日没を閉廊時間として自然光の中で開催されます。そのような展示におけるフォーマットの選択もまた、飯島の恒久的なものの強度に対する疑問の表れであり、ギャラリーや美術館では難しい、NESTという場であるからこその作品鑑賞を体験いただけると考えています。是非、今回のテンポラリーな観賞空間に足をお運び頂けますと幸いです。
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飯島 暉子|Akiko IIJIMA (Instagram)
1994年神奈川県生まれ。2021年東京藝術大学院修士課程修了。 ものだけでなく、空間そのものに掃除や整理、配置などの極めて細やかな行為を施す。
そこで生まれた微細な変化を行為の残滓として作品化している。過去の個展に、「室内経験」(文華連邦内Marginal Studio/ 東京/ 2021)
グループ展に、「ファンダメンタルズフェス」(東京大学駒場博物館/東京/2023)、「三菱商事アート・ゲート・プログラム2021-2022 支援アーティスト6組による新作展」(代官山ヒルサイドフォーラム/東京/2023)
会期:2024年3月8日(金)〜3月17日(日)※会期中無休
会場:NEST
時間:日の出から日の入りまで
(開催日によって開廊時間が異なります)
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トークイベント「配置と生死の空間論」
ゲスト:下田元毅(大手前大学 建築&芸術学部 講師)
日時:3月16日(土)14:00〜
会場:NEST
予約方法:こちらから
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下田 元毅
大手前大学 建築&芸術学部 講師。建築・インテリアを中心に内・外部空間との関係性までを含めた、空間デザイン手法に関する研究をおこなう。縮退時代を迎え、新しく建てるだけではない空間設計のあり方が求められていることから、空間デザイン(リノベーション・コンバージョン含)の研究・実践を通して、今日的デザイン手法と概念を導き出そうと試みる。 漁村ごとに異なる景観や町並みを文化的側面から研究し、かつて使われていた取水装置を再起動させる災害対策の事前復興計画を練ることや、場所のもつ不利益を教訓と捉えて民話や習慣と重ね合わせるなど、多方面から場を探る。 論文『集落共同墓地と生活空間の立地選定の特徴に関する考察:三重県志摩地方の神島,菅島,石鏡の集落を事例に』(2012)
NEST
大阪府天王寺区寺田町2丁目1-16 三隅ビル2階