「paperC」を運営するおおさか創造千島財団が、拠点としている大阪・北加賀屋のまちの変遷や、主宰する取り組みを紹介する本コンテンツ。第2回は、本財団が毎年実施している公募助成プログラムについてご紹介。
11月中旬に開催された「すみのえ・アートビート」をフィナーレとして、北加賀屋の秋のイベントシーズンが終了し、今年も公募助成プログラムの募集がはじまった。おおさか創造千島財団の公募助成事業は、「創造活動助成 for U30」「スペース助成」、並びに「創造的場づくり助成」から成る。2011年の財団設立以来実施してきた、財団の根幹を成す事業のひとつだ。本記事では、近年のプロジェクト事例を紹介。応募にあたってのよくある質問も記事末尾にまとめているので、応募のきっかけになればと思う。
創造活動助成 for U30
「創造活動助成 for U30」は、大阪における創造活動を活発化するため、また大阪で活動する若手アーティスト、クリエイターを支援するために、活動資金の一部を交付するもので、普段から大阪を活動拠点とするアーティスト、クリエイターはもとより、大阪府外に拠点を構える方でも、大阪での活動を計画している場合は、その活動費が対象となる。ジャンルや活動の形態は問わず、社会に新たな視点や価値観を提示し、「創造活動」の定義をも問い直すような意欲的な活動を重点的にサポートしたいと考えている。毎年、30万円を3件の事業に助成する予定だ。
このプログラムのねらい通り、これまで演劇、美術、ファッション、建築などさまざまなジャンルの創造活動に支援を行うことができている。さらに、大阪府外を拠点とするアーティスト、クリエイターが助成を利用して大阪府下で活動を行うことにより、波及効果が生まれることも喜ばしい点だ。
2023年度に採択された飯島暉子は、大阪に滞在し、他県からの訪問者の視点から大阪特有の史跡・習俗のリサーチと作品制作・発表を行う計画であった。その発表の場に、大阪を拠点とするアーティストやさまざまな分野のクリエイターが参加するチーム「Birds」が、2022年に当財団の助成金を活用してオープンした拠点「NEST」が選ばれた。その結果、Birds側からの提案もあり、一般のレンタルスペースやギャラリーでは想定しにくい「日の出から日の入りまで」を鑑賞時間とするなど、コンセプトに沿ったユニークな展示となった。さらに、飯島とBirdsは展覧会終了後も交流を続けている。助成事業がアーティスト同士の交流、ネットワーク形成のきっかけとなったことは非常に喜ばしい。
展示の様子は、paperC掲載の記事「REVIEW|飯島暉子『藪』」に詳しいので、ぜひ本記事と合わせてご覧いただきたい。
スペース助成
「スペース助成」は、造船所跡地を改装したスペース「クリエイティブセンター大阪(CCO)」のなかの象徴的なスペースを、創造活動の舞台として無償で提供し、さらに活動資金も100万円交付するもので、産業遺産という特殊なポテンシャルをもつ当施設の新たな魅力を引き出すような活動を期待している。
2023年は、東京を主な活動拠点とするアーティストとキュレーターによるパフォーマンスアートプラットフォーム・Stillliveの公演「Stilllive 2024:Kinetic Net」が選出された。パフォーマンスアートのジャンルが採択されるのは、2022年の敷地理に続き2年連続であったが、それぞれに空間を読みとった迫力のある演出が見られた。クリエイティブセンター大阪を象徴する旧総合事務所棟4階のドラフティングルームでは、柱のない空間と独特の照明を効果的に使い、鑑賞者とパフォーマーの身体感覚があいまいになるような感覚を覚える。Stillliveは、木津川沿いのドック横の屋外の敷地も活用し、重機の振動と音、パフォーマーの息遣い、鑑賞者自身の身体感覚と一体となる体験を提供した。
敷地理による「Hyper Ambient Club 2023」、そして「Stilllive 2024:Kinetic Net」の公演の様子は、Photo Reportにて紹介している。
2024年は、1998年の発足以来大阪・京都を拠点にインドネシアの民族楽器・ジャワガムランを用いた表現活動を行う音楽グループ・マルガサリが採択され、2024年3月下旬の公演を予定。ドックの水面で水上ステージを組むという、舞台美術に関しても意欲的な計画だ。
創造的場づくり助成
「創造的場づくり助成」は、先の2つの助成プログラムと異なり、直接創造活動を支援するのではなく、アーティスト・クリエイターやその活動を支える人が育つ「場」、さまざまなジャンルで活動するアート関係者同士・関係者以外をつないでいく有形・無形の「場」をつくる「場づくり」に対して活動資金を交付するものだ。さらに、このプログラムは、大阪府内に物理的な拠点がある、もしくはこれから設けることを前提とする、有形の場への支援である「大阪府内の創造拠点形成・活動支援助成」と、インターネットを活用した無形の場への支援「ネットワーキング助成」に分かれる。「ネットワーキング助成」については、大阪府外を拠点とする個人や団体からの申請も受け付けている。当プログラムの予算は200万円で、それを4~5件の事業に分配することを想定している。
2023年の「大阪府内の創造拠点形成・活動支援助成」には、大阪市此花区のアーティストランスペース・FIGYAの「FIGYA 10th anniversary」が採択された。コロナ禍などもあり、スペースを維持すること自体が非常に難しい状況のなか、アーティストであり、FIGYA主催者のmizutamaは10年間大阪市此花区の拠点を運営し、大阪のクリエイティブシーンに長らく貢献してきたスペースである。節目となる本申請の活動に助成することで、FIGYAにこれまで関わりのあるアーティストだけでなく、若い世代のアーティストを含めた広い交流機会の創出につながる期待を込めた採択であった。1年を通して多様な企画を展開し、アーティスト・下道基行の此花での10年ぶりの個展「船はあの丘に登った」でフィナーレを迎えたが、同時期に此花区の各所で所縁のあるアーティストたちの展示も行われ、改めてFIGYAを起点として新たな世代のアーティスト、クリエイターが育つ「場」が形成されたと言えるだろう。
「無形の場」である「ネットワーキング助成」のひとつには、京都と滋賀の県境にある比叡山を拠点とする共同スタジオ・山中suplexの共同アトリエ・シェアミーティング「一人で行くか早く辿り着くか遠くを目指すかみんな全滅するか」が採択された。1泊2日の合宿という濃密な交流とインターネット配信を組み合わせたハイブリット型の企画で、誰もがアイデアを共有し、インスピレーションを得られるオープンな「場」が形成された。
インターネットの場で完結する取組みの例では、関東を拠点とする劇団・鳥公園による「創造活動を豊かにするためのリソースに関する公開相談会」がある。創作集団内のハラスメントや超過労働など創作環境における問題解決を目的として有識者に話を聞き、相談を行う企画だ。演劇・舞台芸術業界の状況を的確に捉えた必要性の高い活動であるとともに、Web会議システムというプラットフォームを利用することで、広く知見が共有され、アーカイブされた。paperCでは、主宰・西尾やほかメンバーの視点から相談会について振り返るインタビュー記事を掲載しているのでご覧いただきたい。
以上、近年の採択事例を紹介したが、いずれのプログラムでもジャンルは問わず、意欲的な事業を2025年1月13日(月・祝)まで募集している。
応募にあたってのよくある質問集
Q. 開催場所や招聘者が未確定です。具体的な名前を書く必要がありますか?
A. 交渉中であっても、具体的な名称が書かれている方が良いです。
Q. ほかの助成金も申請予定なのですが、申請書に記載した方が良いですか?
A. はい。申請予定の助成金、及び見込み額で構いませんので金額についても記載してください。複数の助成金を申請する等により、資金の確保に努めていることは、事業の実現性に関する評価においてもポジティブな要素になります。
Q. CCO(クリエイティブセンター大阪)の助成対象外のスペースも使用することはできるのか(パルティッタやブラックチャンバーなど)?
A. 主催者の自己負担で借りていただく事は可能です。空き状況や費用については、CCOに直接お問合せ下さい。
Q. クリエイティブセンターの下見に行きたい。
A. 施設の見学をご希望の方は、CCO(クリエイティブセンター大阪)へ直接ご連絡ください。
クリエイティブセンター大阪 問い合わせメール = cco@namura.cc
Q. 大阪府内のギャラリーやスペースを借りて展覧会やイベントを開催することを計画している。「創造的場づくり助成」で申請することは可能か?
A. その展覧会が今後継続的に同じ枠組みで開催されるなど、有形の「場」として機能すること、もしくは、オンラインを使用したネットワーク形成の取組みが必要です。創造活動の発表の場としての展覧会やイベントだけでなく、幅広いネットワーク形成に役立つ場としての役割を考察し、申請書に盛り込んでいただきたいと思います。