2025年3月22日(土)から23日(日)の2日間、滋賀県にある共同スタジオ「山中suplex」にて、シェアミーティング2「つぎつぎに (あつまっては) なりゆくいきほひ」が開催された。この企画は、“行政主体でもなく、営利目的でもない、市民社会からの主体的な取り組みから発生したアートシーンやそのエコシステムに着目し、お互いのノウハウを共有しながら、それぞれ学び合い、ともに持続的に活動していこうとする協働的な試み” (山中suplex Webサイトより引用)として企画されたもので、各地で活動するオルタナティブスペースや共同スタジオ、プロジェクトなどを招聘し、プレゼンテーションやディスカッションを通じてその知見を共有するというのがその趣旨だ。

2024年3月末に開催された初回のタイトルは「一人で行くか早く辿り着くか遠くを目指すかみんな全滅するか」だった。なんて強くてシニカルで少し哀しいタイトルなのだろう…と思ってしまうのは、私自身が長らくオルタナティブスペースを運営していたからだろうか。どこかにあるはずの風景を目指してぐんぐんと歩きながら、ともに歩く仲間もいたりいなかったり、途中で見つけたり別れたりしつつ活動を続けていた当時の自分。モチベーションやエネルギーはありすぎるほどあり、行動力もある一方、運営・活動の資金は運営メンバーでの持ち出しや企画単位の助成金で、金銭的な運営状況は脆弱。こういう活動だからこそできることは多くあると実感し考える一方で、しかしこのまま進んだ先はどうなるのか(全滅するのか?)ということも時折頭をよぎる、そんな状況を、このタイトルからイメージしてしまう。だからこそ、それぞれが活動のなかで見出した知見を共有し、ネットワークをつくることで、全滅せず遠くを目指すための方法を見つけるということが、第1回のテーマだったのだろう。ひとりで行くのか早く辿りつくのかは、それぞれ。でも全滅せずに遠くを目指したい。
さて、シェアミーティング2のタイトルは、「つぎつぎに (あつまっては) なりゆくいきほひ」である。シェアミーティングへの参加から1カ月が経ち、この記事を書くために振り返って考えている今、このタイトルはオルタナティブな活動のそれぞれのあり方を認めつつ、これからの希望を込めた良いタイトルだなと、考えている。参加団体の各々がそれぞれの経験や実感を持ち寄りあつまることで、その場に生まれたエネルギー(いきほひ)が確かにあったし、このシェアミーティングを介して出会ったそれぞれが、次の活動に進んでいる兆しも、すでにいくつか見えてきているからだ。
また、私自身も、この企画に参加したことであらためて、オルタナティブな活動について考えることになり、これからも見続けていきたいという想いを強くした。私がオルタナティブスペースに関わりをもつようになってからもう20年が経とうとしていて、その間に終わった活動や変わった場所もたくさん知っているが、しかしどんなに時間が経ち社会が変わっても、こういった活動はいつも新しく生まれてくる。シェアミーティング2の様子を振り返りつつ、決して無くならないこれらの活動について、考えてみたい。

多様な活動をシェアし、議論する2日間
今回のシェアミーティングは、インディペンデント・キュレーターとしてさまざまな展覧会を手がけつつ、山中suplexのプログラムディレクターを務める堤拓也と、東南アジアと日本を同時代のアート/カルチャーを通してつなぐプロジェクト「SEASUN(シーサン)」を運営する鈴木一絵が共同ディレクションを行い、団体公募枠へ応募のあった1組を含む計8組が参加した。それぞれに国を超えたリサーチやネットワークの構築、企画等の活動を行うふたりがディレクターということもあり、国内の団体だけではなくインドネシアやタイを拠点にする団体も参加している。また、前回のラインナップを見ると、アートスペースや共同スタジオといった文化的な拠点を運営する団体が中心だったように思えたが、今回はレジデンススペースやオルタナティブスペースはもちろん、ホステル、プラットフォーム、ハブ的なプロジェクトなど、形態や手法もさまざまな団体が集まった。


1日目も2日目も、それぞれ4組の団体がプレゼンテーションを行った。団体の持ち時間は質疑応答を含めて30分。途中に美味しいスイーツやドリンクが提供される休憩時間を挟みつつ、4団体のプレゼンが終わり次第、輪になってのラウンドテーブルの時間が取られた。ラウンドテーブルでは、互いのプレゼンをもとに質問を投げかけたり、テーマをもとに意見を交換したりしつつ、それぞれの活動について深く掘り下げていった。また、一般参加者に話を振る場面もあり、より広く意見を交わしながら、あらためて各自の活動のコアを確認し、オルタナティブな活動の意義やこれからを想像する時間となっていた。
1日目のプレゼンテーションは、スタジオピンクハウス+アートギャラリーミヤウチ(広島県廿日市市)、AIR motomoto(熊本県荒尾市)、TRA-TRAVEL(大阪府大阪市)、アーティスト・サポート・プロジェクト:ASP(ジョグジャカルタ、インドネシア)の4組。
どの団体もアーティストが主体となって活動をしているのが興味深い。また、拠点をもち、若いアーティストとの対話の場づくりやレジデンスプログラムを行なっている団体もあれば、特定の場所をもたず、プロジェクトごとに意識的に新しいメンバーを加えながら企画ベースでの活動を軸にしている団体もあった。自身のアーティストとしての制作活動だけではなく、それぞれがもつネットワークを外にひらきつなげることで、環境自体をよくしていこうとする視点がどのチームにもあり、そういう視点をもったアーティストが、自身の制作とは異なる分野においても横断的に動き、コーディネーター的な役割を果たしてもいた。




1日目のラウンドテーブルを終えた後は、近くの温泉施設へバスで移動し、琵琶湖湖畔の温泉を堪能。ほかほかになってスタジオに戻ると、山中suplex恒例だというBBQが用意されていて、全員で乾杯をしてからの交流タイムに。今回のイベントの参加枠には、招聘団体と同じように1泊2日でシェアミーティングをフル堪能する「一般参加枠」や、将来スペース設立に興味がある若手が割安料金で参加できる「若手未来枠」があり、BBQではそういった参加者の自己紹介の時間も設けられていた。また、BBQだけ参加する近所の方や関西の美術関係者も同じように自己紹介を行い、さまざまな人が出会い交流する場としてのシェアミーティングであることを強く感じた。



山中suplexは比叡山の麓にあるため、交通の便は良くない。たくさんの参加者が比較的長い時間をともにし、交流の時間をきちんととろうとすると、必然的にそうなったのだろう、参加者は基本的にテント泊だった。人生初めてのテント泊を体験した私は、(湯たんぽも借りることができたしダウンも来たまま寝たのもあって)想像していたほどの極寒ではないなと思いつつも、それでも想像通りには寒いテント泊、当然ながらぐっすりと眠れたわけではなかった。翌朝起きると、同じような方も多かったようで、眠そうな顔がちらほら。用意された素敵な朝食やおいしいチャイを飲み、なんとか気力と体力を充電させて、2日目が始まった。



2日目のプレゼンテーションは、バーンノーク・コラボラティブ・アーツ・アンド・カルチャー(ラチャブリー県、タイ)、6okken(山梨県富士河口湖町)、Center / Alternative Space and Hostel (栃木県鹿沼市)、一般社団法人鳥取クリエイティブプラットフォーム:TPlat(鳥取県)の4組。分野横断的なさまざまなプロジェクトを通じて社会と関わりをもちながら、教育的・文化的な活動を継続して行っているバーンノーク、アーティストの定義自体を問い直しながら対話の場をつくっている6okkenや、ホステルでありながら実験的な音楽イベントやレジデンスプログラムの実施など、さまざまな取り組みを行っているCenter、そして鳥取県内各地で活動する個人や団体をつなぐ“プラットフォーム”として誕生したTPlatと、運営形態も方向性も多様な団体によるプレゼンテーションとなった。

特に興味深かったのが、鳥取県内で活動する団体へのヒアリングや、ピア・レビューを用いた評価・検証の仕組みの整備、アートプロジェクトに関わる人の労働環境調査など、持続可能な活動のための細やかな取り組みを行っているTPlatの活動だ。近年は中間支援の重要性が認知され、各地域にアーツカウンシルが設置されるなど、文化活動に対してさまざまなサポートや助成が行われるようになっているが、TPlatのように、事業単位ではなくより俯瞰的な目線で、シーン全体の環境を整備するための取り組みをしている団体は珍しいのではないだろうか。
このように多様な形態の活動を紹介する2日目のプレゼンテーションからも、シェアミーティング2が、環境づくりやネットワークづくりについての知見を共有し、活動の持続性について考えることに焦点を当てていることが見てとれた。2日間のプレゼンの順番も、とても効果的だったように思う。

プレゼンテーションが終わると、昼食タイムを挟み、会場から徒歩10分ほどのところにある砂防ダムへ移動。まるで映画のセットのようなシチュエーションのなか、ラウンドテーブルを行った。最終日のラウンドテーブルということもあり、2日目にプレゼンをした団体だけではなく、1日目に発表した団体や観客からの質問も織り混ぜながら、時間いっぱいにさまざまな議論がなされた。





砂防ダムへの移動は少し不思議な体験だったが、太陽が眩しく輝き、ひらけていて、どこか賽の河原のようでもあるこの風景のなかで交わされた議論は、あのときの風の強さや、独特の緊張感をもったディスカッションの空気感とともにずっと自分のなかに残っているから不思議だ。こうやって記憶に残る印象的なシーンを演出するというのも、ディレクションの一環だったのだろう。忘れられない光景になった。

全体の振り返りと締めの後、全員で歩いて山中suplexに戻り、各自荷物を片付け、山を降りた。その夜には京都市内の居酒屋で打ち上げが催され、裏方で運営を担っていたためなかなか話す機会をつくれずにいた山中suplexのメンバーともお酒を酌み交わしたり、2日間のプレゼンやディスカッションをもとに、より深い議論を展開する若手がいたりと、山のなかとはまた違うコミュニケーションが生まれていた。1泊2日、山のなかで一緒に過ごし、真剣な議論を行い、ともにご飯を食べたという経験は不思議な距離の近さと連帯感を生む。この2日間での体験や、あの場所に居合わせたという経験が、それぞれのこれからにつながっていくに違いない。


山中suplexの体験から1カ月が経った。ちょうど先日、栃木県鹿沼市からシェアミーティングに参加したCenterが、振り返りトークをしていたのをオンラインで聞いた。そこでは、シェアミーティングに参加した後、もっと活動自体に関わる人を増やしていこうという気持ちになったことや、自分たちの活動にとって大事なものが何なのかをあらためて考え、態度を固めたこと、今回の参加をきっかけにつながった人たちと、また新たな動きが始まりそうだということなどが話されていた。
また、別のところでは、シェアミーティングに一般枠で参加した人が、参加団体の拠点を実際に訪問し、自身のこれからの活動を考えているという話も聞いた。少しずつだがいろいろな変化や、今後の展開の芽が見えてきている。きっと主催の山中suplexには、これからのさまざまな計画が聴こえてきているのではないだろうか。

オルタナティブな活動というものは、実は孤独だ。活動場所や関わる人によって、運営方法も方向性も異なるし、同じ機能や手法をもった場所・チームはほとんど無いといっていい。各団体のプレゼンを聞いていても、あらためてそう感じた。
そもそもこういった活動の多くは、個人の問題意識から出発している。既存の価値観や枠組みを超えた広がりのある表現や環境を求める探究心、状況を変えていこうとするモチベーション、個人で動くからこその機動力に支えられて活動が成り立っていることが多い。だからこそ、活動のなかで個人が背負う部分や、新しい方法を探して実験的に運営を進めることも多く、10組いれば10通りのやり方や方向性がある。「オルタナティブスペース」「オルタナティブな活動」と一言で表してはいるが、それは「既存のやり方を選ばずに自分たちでつくる活動」ということであり、本当に多様だ。だからこそ、それぞれが個別で、孤独なのだ。
最後のラウンドテーブルのなかで、6okkenのメンバーが、「昔の自分を勇気づけてくれる人たちが、ここにたくさんいてくれることが嬉しい」とコメントしていた。それぞれが手探りで活動を続けている分、自分と共通した態度をとっている人たちが各地にいるという実感は、自身の活動の意義を再認識させてくれるし、勇気づけてくれる。だからこそ、そこから新たなネットワークや協働が生まれてくる。今回のシェアミーティングのように、ある種の共通した態度をもつ人たちが一同に会すことはとても貴重なことだし、なにより山中suplexのような共同スタジオが主催しているということの意義は大きい。
また、こういったオルタナティブで主体的な活動は、個人から出発するからこそ、途絶えることはない。短く終わる活動はもちろんあるし、人も場所もどんどん変わっていくけれど、人が社会と関わりながら生きている限り、あとからあとから始まっていく。もちろん、一つひとつの小さな取り組みは、決して強くない。だからこそ、そういった小さな力が“あつまり”つながっていくことで、それは弱いけれど強い力(いきほひ)になっていくのではないだろうか。
これからの社会がどのように変化するのか、1年後のことだって正直想像できる状況ではない。しかし、どんなに困難な状況になったとしても、人間の主体性から生まれるオルタナティブな活動は無くならないし、そういった活動からこそ、新しい表現や、これからを生きていくための方法や力が生まれてくるのだと思う。その力が、きっと世界を少しずつ変えていく。
そんなことをあらためて感じさせてくれる機会だった。
シェアミーティングは、第3回も予定されている。現在活動している団体の動き方や視点を通して、社会の現状をとらえることができるというのも、このシェアミーティングの魅力だ。第3回ではどのような活動が紹介されるのか、楽しみにしたいと思う。

小山冴子 / Saeko Oyama
アーツカウンシル東京プログラムオフィサー。とんつーレコード主宰。2006年より福岡のオルタナティブスペース art space tetraの運営メンバーとなり、展覧会や音楽イベントを多数企画(~2022年3月まで)。2012年以降は各地のアートプロジェクトや国際芸術祭の現場、アートセンター等にて作品制作のコーディネートや企画・キュレーションを手がける。各現場にて地域と関わりつつ、福岡から別府、鳥取、鹿児島、名古屋、札幌へと移動し、2022年4月より東京拠点。現在は「東京アートポイント計画」を担当し、都内各地のアートプロジェクトの伴走支援や研究・開発プログラムの運営を行っている。

シェアミーティング2「つぎつぎに(あつまっては)なりゆくいきほひ」
日程:2025年3月22日(土)〜23日(日)(1泊2日)
会場:山中suplex
参加オルタナティブ・イニシアチブ:
AIR motomoto (熊本県荒尾市)
Center / Alternative Space and Hostel(栃木県鹿沼市)
一般社団法人鳥取クリエイティブプラットフォーム(鳥取県)
TRA-TRAVEL(大阪府大阪市)
バーンノーク・コラボラティブ・アーツ・アンド・カルチャー(ラチャブリー県、タイ)
スタジオピンクハウス+アートギャラリーミヤウチ(広島県廿日市市)
アーティスト・サポート・プロジェクト(ジョグジャカルタ、インドネシア)公募採択団体:6okken(山梨県富士河口湖町)
オブザーバー/Observer:ART JOB FAIR