カラフルなメイクにビスチェ、水玉柄やスパンコールのドレス。大阪中之島美術館に奇抜な衣装を身にまとった人々が集まってきました。「Ball(ボール)」に出場する参加者たちです。

去る2026年1月11日、大阪中之島美術館にて「TENCHAN 007 PRESENTS THE MUSEUM OF ART KIKIBALL 2026」が開催されました。本イベントは、同館で開催中の「Osaka Directory 11 Supported by RICHARD MILLE 天牛 美矢子」展の会期中に実施された関連企画。天牛氏自身がダンスおよび衣装制作などで深く関わるクィアカルチャー*「Ballroom(ボールルーム)」、通称Ballのパーティーです。通常はナイトクラブなどで開催されることの多いBallが、美術館でどのように展開されるのか、わくわくしながら参加しました。
*性的マイノリティ(LGBTQ+など)の人々が共有する独自の文化や社会運動、歴史、表現方法などを指す言葉

イベントはトークから幕を開けます。まず、天牛氏より展示期間中のBall開催の経緯として、「排除されてきた者」をテーマに制作を続けてきたアーティストの意向が語られました。そして、シーンにおいて先駆的な存在であるKinshasa 007氏、日本のBallの立役者でもある「House of Mizrahi」のオーバーオール・マザーKOPPI Pinklady氏による、Ballroomがどのような場であるか、その成り立ちを含めたレクチャーへと続きます。
Ballroomは、ヴォーギングを中心としたパフォーマンス文化が実践される空間、またはその文化体系全体を指します。1970年代にニューヨークの黒人・ラテン系LGBTQA+コミュニティで誕生し、差別を受けた人々が安全に自己表現できる場として形成されてきました。1972年にトランスジェンダー女性のクリスタル・ラベイジャが率いた有色人種中心のBallroomが現在のシーンの基礎であり、以降、人種や性別に限定されない交差的な場が開かれてきたことがKOPPI氏により解説されました。

表現形態であるヴォーギングとは、ファッション誌『VOGUE』のモデルのポーズを参照したパフォーマンスのこと。単なるダンス技術ではなく、自己の存在やアイデンティティを可視化し、差別や社会的排除に対抗する表現行為としての側面をもちます。
歩き方やファッションの美しさを競う「Runway」、顔の美しさを競う「Face」、性的マイノリティのパフォーマーたちが、異性愛中心の性別二元論に基づく社会に溶け込んでいる自分を表現する「Realness」など、複数のカテゴリで競い合う点もBallの特徴です。
今回のイベントでは、2部制で12カテゴリに分かれ、エントリーした参加者によるパフォーマンスが繰り広げられました。
各カテゴリには、美術作品と関連するドレスコードが設けられており、絵画などのエッセンスを取り入れたファッションを身にまとい参加します。先述のKOPPI氏、世界を舞台に活躍し、House of NINJAのJapan Chapter MotherであるChise Telfar氏、House of OricciのJapan Chapter Fatherを任されるShowta 007氏が参加者を判定するジャッジ(審査員)を担いました。

「Face」カテゴリはフェルメール《真珠の耳飾りの少女》がテーマ。ドレスコードはパールのアクセサリーです。額縁から飛び出てきたようなパフォーマーが、ジャッジの目の前でその顔の美しさをアピールしました。

「Runway」カテゴリでは、15世紀末フランドルで織られたとされるタペストリー《貴婦人と一角獣》をモチーフに、ユニコーンの角をつけたパフォーマーが颯爽と目の前を闊歩しました。
音楽に合わせたダイナミックなポーズが決まるたびに、会場からは何度も歓声が上がり続けました。参加者、ジャッジ、鑑賞者の垣根はなく、会場が徐々に一帯となっていったのが印象的でした。


先述の通り、性的マイノリティのパフォーマーたちが、異性愛中心の性別二元論に基づく社会に溶け込んでいる自分を表現する「Realness」では、画家のジャン=ミシェル・バスキアをテーマにストリートウェアに身を包んだ出場者たちが自らを表現しました。また、そのほかにもデビッド・ホックニー《大きな水しぶき》や、ゲルダ・ヴィーグナー《リリー》などがドレスコードに。


「Ball」は、出生時とは異なる性自認をもつ人や、性的マイノリティの人など、当事者がパフォーマンスを通じてカミングアウトする場にもなります。KOPPI氏は「参加者はすべてのカテゴリに出るわけではない。どのカテゴリに参加するか決めるということ自体、とても勇気が必要であることを考えてほしい」と語りました。
「Ballroom」は、当事者たちが獲得してきた「生き延びるための場」であるとも言えます。一方で、美術館はクラブのようにパフォーマンスを披露する想定をして設計された施設ではありません。今回、天牛氏は作品を通じて、このふたつの場を接続しました。「Ball」の開催場所は単に展示空間と近い、階段を降りた位置にあるホールというわけではなく、天牛氏の《よろしゅうおあがり》作品空間そのものであったのではないでしょうか。
作品のハンドアウトには、こう記されています。
よ 世の中
ろ ろくでもなく
し しんどいことばかり
ゆ 夢さえ見れない夜は
う うちにおいでよ
お おいしいものを食べよう
あ あしたのこともあの日のことも祈って
が 願掛けしながら組んだ指
り 料理しよ一緒に
作品が展示されている2階へ上がると、舞台装置の吊り幕を想起させる作品の内部で、パフォーマーたちが入れ替わり立ち代わり撮影を行っていました。仏教における八大地獄をモチーフに、8つのレイヤーで表現する本作。「地獄」のほかに「迷宮」「内臓」「食べ物の記憶」「クィア」といった要素が、テキスタイルに散りばめられています。この作品は、8つの幕に囲まれた中央に「自分らしさを表現した者」が立つことで完成するのかもしれません。規範にまみれた地獄のような「世の中」を生き抜くためのヒントが、そこに隠されているのではないかと感じました。願わくば、私も天牛氏の舞台で、夢を見ながら踊ってみたいという想いを胸に、美術館を後にしました。

アフリーダ・オー・ブラート / Afreeda Obreat
緒方江美 / Emi Ogata2004年にドラァグクイーンデビュー。1989年に京都メトロで始動した日本初のドラァグクイーン&DJオーガナイズパーティ「DIAMONDS ARE FOREVER」にレジデンツメンバーとして出演中。2017年よりフリーランスのアートマネージャー。展覧会「LGBTQ ART LABORATORY」のコーディネート、「装いの力―異性装の日本史」展アーティストマネジメント、などを担う。最近はドラァグクイーンの文化をどうアーカイブできるかを画策中。大阪芸術大学准教授、京都芸術大学非常勤講師。
DIAMONDS ARE FOREVER
https://www.metro.ne.jp/diamonds-are-forever/AFREEDA
https://afreedaobreat.wixsite.com/afreedaInstagram & X
@afreedaobreat
Osaka Directory 11 Supported by RICHARD MILLE 天牛 美矢子
会期:2025年12月20日(土)〜2026年1月18日(日)
会場:大阪中之島美術館 2階多目的スペース
休館:月曜(1月12日は開館)、12月30日(火)〜2026年1月1日(木・祝)、1月13日(火)
料金:観覧無料
関連プログラム:
アーティスト・トーク
日時:2025年12月20日(土) 11:00〜12:00
会場:大阪中之島美術館 2階多目的スペース
登壇:天牛美矢子
モデレーター:大下裕司(大阪中之島美術館学芸員)
定員:30名程度
参加費:無料 ※事前申込不要The Museum of Art Kiki Ball
日時:2026年1月11日(日) 13:00〜19:00(開場12:30)
会場:大阪中之島美術館 1階ホール
参加費:無料 ※事前申込不要、出入り自由主催:大阪中之島美術館、公益財団法人 関西・大阪21世紀協会
Supported by:RICHARD MILLE
協賛:サントリーホールディングス株式会社、ロート製薬株式会社、NTT西日本株式会社、ダイキン工業株式会社、株式会社丹青社、株式会社モンベル、株式会社エキスプレス、京阪ホールディングス株式会社
協力:COHJU




