「絵に近づきたい」
「人間以外の見え方」
「花の立場」
「歯医者で流れているような音楽を写真でつくってみたい」
「逆に写真に見られている感覚の空間」
「感情がぐらぐら」
「写真を葬る」
「天使もオバケもおもしろい」
これは写真家・赤鹿麻耶がオープニングトークで語った言葉。現在、大阪中之島美術館の「Osaka Directory」と題された、新進気鋭のアーティストを紹介する企画の第1期として彼女の写真展が開催されている。
会場は2階のロビー、というか多目的スペースで、作品は180×120cmの超大判の写真が15点と、映像が1点。2016年から2022年までの作品を本人の手によってセレクト、空間構成も自身でディレクションしたという。
過去に展示会場として、銭湯跡地(浴槽に写真を浮かべたり)や、鶴橋の路地の空き地(作品が気持ちが悪いと周辺住人から怒られたり)を自ら選んできた赤鹿。つまり、ホワイトキューブを飛び出す実験を果敢に行ってきた。というところで、美術館での展示はいささか物足りない?と思われる向きもあるかもしれない。加えて、今回の展示では小さなスペース内に壁がランダムに設置され、ちょっとした迷路のような空間となっているため、大判作品を引きで、というこれまでのインパクトある見せ方とは少々異なっている。しかし、今回は新たなるチャレンジなのだそうだ。
それは、写真作品のなかに小さな写真をコラージュする(いわく「ピクチャー・イン・ピクチャー」)だけでなく、写真以外(ぬいぐるみやラジカセ、手紙など)も写真とともに配置するなど、写真そのもののみならず、それらインスタレーションとともに空間全体を演出する、という試みである。実際、ファンシーでときにコントの1コマのようなポートレイト作品も、誰かの部屋のポスターのようにも見えてくる。先の彼女の言葉にもあるように、作品を見せると同時に、こちらが「見られている」状況だともいえる。それは被写体と鑑賞者の関係をつくっていくような。ともかく、ますます写真家というカテゴリーからはみ出していく、そんな初々しさと頼もしさがいい。
赤鹿いわく、今回のテーマは「不在の感覚」。まるで幽霊の気分で、という感じかもしれない。ただただスプリンクラーが水を撒く様子を定点でとらえた映像作品を眺めていると、そんな気持ちになってくる。
「2019年に中国のゴーストタウンに行ったとき、不在の感覚にピンと来て。それからコロナ禍になって、そのときの奇妙な感覚を日本でも思い出して。人間がいない世界や、自分の気配を消すような写真。そんな写真で空間をつくることに、今はときめくというか」
オープニングトークは、彼女が歩きながら作品の背景を説明していく、というものであったが、開始から40分が過ぎ、ちょうどオバケに関する話をしていたときのこと。あるハプニングもあって急遽イベントは終了となった。
なにが起こるかわからないこのご時世、筆者から言えるのは、熱中症にはまだまだ気をつけて、大阪の写真家による“写真”の枠を軽やかに越えていく展示空間をぜひとも体感されたし。入場は無料。
会期:2022年8月6日(土)~9月11日(日)※月曜日休館(開館日は開場)
会場:大阪中之島美術館 2F 多目的スペース
観覧料:無料
主催:大阪中之島美術館、公益財団法人 関西・大阪21世紀協会【設立40周年記念事業】
関連プログラム:
アーティスト・トーク
登壇者:赤鹿麻耶
モデレーター:大下裕司(大阪中之島美術館学芸員)
日時:8月6日(土)14:00〜15:00
会場:大阪中之島美術館 2階 多目的スペース
赤鹿麻耶 / Maya Akashika
1985年、大阪府生まれ。2008年、関西大学卒業。10年、ビジュアルアーツ大阪写真学科卒業。11年、作品《風を食べる》で第34回写真新世紀グランプリ受賞。大阪を拠点に海外を含む各地で個展、グループ展を開催。夢について語られた言葉、写真、絵や音など多様なイメージを共感覚的に行き来しながら、現実とファンタジーが混交する独自の物語世界を紡ぐ。主な展覧会に「あしたのひかり 日本の新進作家 vol.17」(東京都写真美術館、東京、2020年)、「赤鹿麻耶写真展『ときめきのテレパシー』」(キヤノンギャラリー、東京、2021年)などがある。