グラフィックデザイナー・小林一毅の個展「Play Time」が、2022年8月6日(土)から14日(日)までATAKAにて開催された。小林が新たに取り組む、立体表現から生まれた玩具を中心に発表する展覧会で、7月16日(土)に皮切りとなった金沢会場のTORIから、大阪を経て東京のdessinへと巡回。空間構成はインテリアスタイリストの竹内優介(Laboratoryy)が、ディレクションはATAKAが担当した。
紙媒体を中心に、作図や作字を伴う造形的なグラフィックデザインを手がける小林。2015年に多摩美術大学グラフィックデザイン学科を卒業後、同年に入社した資生堂クリエイティブ本部を経て2019年に独立した。資生堂在籍時から自主創作にも取り組み、2019年にはJAGDA新人賞を受賞。クライアントワークにとどまらない表現活動を積極的に行っており、大阪では昨年に、同じくATAKAで開催された個展「Between black&white」が記憶に新しい。
「Play Time」では、2020年に子どもが生まれ、生活環境が大きく変化したという小林が、子どもと過ごす時間から生まれたアイデアを起点とした玩具を展示。新作5点が家具とともに配置され、子どもが実際に玩具に触れて遊び、大人も住空間のなかに存在する玩具をイメージできるよう意識した空間構成となっている。
本展開催のきっかけは、およそ2年前。TORIの店主である梨野が、ATAKA代表の安宅に企画相談を持ちかけたことに遡る。小林がこれまでATAKAのロゴや展覧会DMのグラフィックなどを手がけてきたことや、TORIとATAKA双方に親交があったことから、話は着々と巡回展へと発展。タイトルの「Play Time」は、直訳すると「遊びの時間」。子どもへ向けたこのテーマには、生活環境すべてをクリエイティブに生かしたいという小林の想いが詰まっている。
「制作の姿勢として、そのときにしかつくれないものを大事にしたいと思っています。本展を企画したのは、ちょうど子どもが生まれ、日常が大きく変化しはじめた頃。どんな玩具を面白がってくれるだろうかと探しているタイミングでもあり、『Play Time』は僕自身が一番興味のあるテーマでした」と彼は話す。
今回、はじめて立体表現に取り組むにあたって、小林は兼ねてより信頼を置くディスプレイ制作会社・現代工房に協力を依頼したという。つくりたい玩具の作図と、自身のイメージに近い玩具をサンプルに、職人とコミュニケーションを重ね、最初に生まれたのが「熊の積み木」だ。
小林の原画をもとに、職人の技術と思想によって導かれたサイズ・厚みは、子どもの手にも取りやすい。また、オブジェとしても美しい形状は、空間とも調和する。パズルとしての機能も持ち合わせており、バラバラにすると大人でも組み立てることが難しいのだが、触っていると心地よく収まり、その仕掛けにも職人の工夫が滲む。ウレタン塗装で仕上げた明快な色彩とフラットな質感には、彼がこれまでにグラフィック表現で培った感性が宿るようだ。
この制作を通して感覚を掴んだ小林は、さらにアイデアを派生させ、「鴨の車」、「Between black&white」の個展で発表した図案を積み木にした「16 ANIMALI」、白色のピースのみで構成された「陰影のパズル」の玩具4点、そして男女が抱き合う姿を表した「“抱擁”ポスター」1点を制作した。
「『熊の積み木』以外はほぼ同時進行で制作しました。当時僕と子どもがハマっていた遊びや、玩具を調べていくうちに興味が湧いたことがヒントになりましたね。たとえば、寺内貞夫やアントニオ・ヴィタリの動く玩具の構造を見ると、それを参考につくってみたくなって」と小林。
現在、小林は“子育てを軸に生活を充実させたい”という想いを最優先に掲げ、仕事のスタイルを立て直し、自分の仕事や興味、子どもが求めるものをリンクさせながら、日常と仕事の相関性について模索している。今回の制作には、子どもと過ごす日々から得た経験が大きく反映されたが、ここ数年の生活は彼のデザインにどのように影響したのだろうか。
小林はこのように話してくれた。「暮らしのなかで得た発見のひとつに、子どもたちはどんなものでも、何かに見立てられるということがありました。この間、けん玉を買ったのですが、それを使って犬のように散歩させたり、ごはんをあげたりする素振りで遊んでいて。はじめて見るものでも、自分の経験や見た目の佇まいから、想像を膨らませてくれるんです。だからこそ、今回つくった玩具は、わざわざわかりやすい形にはしませんでした。大人の自分たちがいいと思う形状や色を子どもに渡し、それを子どもがさらに拡大解釈して遊んでくれる。そういった可能性に期待してデザインしましたね」
信頼する職人やクリエイターとチームを組み挑んだ本展では、形や色、素材の選定まで仕様を追求した。そのぶん、完成した玩具の価格は、一般的な市場の相場とはかけ離れたものとなった。しかし、それは今後の活動を見据えた、小林の意思表明でもある。
「タイミング一つひとつを大切にしていきたいので、しばらくは子どもの成長と合わせた創作をしていこうと思っています。もう少し子どもが大きくなって、『おしゃれしたい』と言いはじめたら、もしかすると子ども服をつくっているかもしれません。でも、それを本当に実現させるにも、一緒につくってくれる職人さんやパタンナーさんという存在が必要です。縁を生むには、自分から種を蒔いていくしかない。だから、クオリティの高いものをつくり、発表することが重要なんです。そうした一歩から、僕のものづくりに共感してくれる方と、出会っていけるといいなと思っています」と彼は語る。
小林の姿勢やこれまでの創作活動に惹かれ、ともに立ち上がった人々とのプロジェクトも、すでにいくつか進行中とのこと。子ども連れの来場者も多く見られた今回の展示では、子どもたちに優しく声をかけ、一緒に遊ぶ彼の姿がとても印象的だった。小林から感じた、実直に創作に取り組む芯の強さと、子どもたちに向けるまなざしから生まれるものは、今度どのように変化していくのか。これからの彼の興味、活動に注目していきたい。
Play Time|IKKI KOBAYASHI
金沢会場
会期:2022年7月16日(土)~7月24日(日)
会場:TORI
時間:平日13:00~17:00、土・日曜および祝日11:00~17:00大阪会場
会期:2022年8月6日(土)~8月14日(日)
会場:ATAKA
時間:13:00~19:00東京会場
会期:2022年8月19日(金)~9月4日(日)
会場:dessin
時間:13:00~18:00
火曜定休
空間構成:竹内優介(Laboratoryy)
問合:info@ataka-jp.com(ATAKA)
展示協力:
HOTTA CARPET
Vitra
KEY-KILT ※金沢会場のみ
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