「重力と老い」というお題が落下してきた。
「老い」について夜ごとスルメのように舐め尽くすわたしにとって、これほど舐め甲斐のあるお題もなかなかない。スルメであれば柔らかくなりすぎて息を吹き返したイカが海に帰りたいと泣きはじめるレベルの舐めビリティである。
これから書くことを、読むのが面倒くさい人のため(時短)に一言でまとめると、「老いとは落下中に見る冗談である」というようなことだ。
そのようなことを書く。しかし書いているうちに変わってしまうこともよくある話で。
兎にも角にも書いてみよう。
まず、わたしの考える、素人の考える「重力と老い」の関係についてである。
老人は重力に負けていると。
そう思うのも仕方がない。自分の顔を鏡に映すと、はっきりと重力の仕事っぷりが見て取れて、我ながら驚く。頬はたるみ、眉毛は伸び放題、眼は半開きで、すべてが地球の重力に引っ張られて垂れ下がっている。
顔だけでない。全身の皮と皮が重力に引っ張られて垂れ下がっている。なんか皮があまって、、る? この脇の皮をぐいーっと引っ張っていくと、ムササビのように滑空できそうだ。フライング・ガビンサンである。
病院に行ったついでに『美的』などの雑誌を読む。年をとったじじいが病院や床屋にいくと、はいこれと『サライ』などを渡されるわけだが、わたしは知らない世界が見たすぎるので美容雑誌などを見る。あるいは『婦人画報』のような格調高い雑誌だ。格調の低い世界についてはこれまで十分に知りすぎているので格調高い雑誌を読む。こんなに格調高い世界が現実に存在するんだなあ。格調現実なんつって。あと美容に興味がゼロ・グラビティなわたしであるからこそ、美容雑誌を読むわけだ。
するとそこには、コレデモカ!という勢いで「重力への抗い方」が示唆されている。
重力憎むべし! 重力は帰れ! 重力は帰れ!のシュプレヒコールが聞こえてくる。
なんて可哀想な重力。
そんなに重力が嫌なら宇宙に住め!
さておき、かくいうわたしも無重力に憧れ続けて来た人間である。
おそらくこれを読む人は誰も知らないと思うが、わたしは「無重力」をテーマにした仕事を複数してきている。
最初は、ニューヨークのMoMA PS1で2001年に展示した、《Zero Gravity Sports Fuji One On One》という作品である。

これはPS1ギャラリーの一室を歪んだバスケットコートにしつらえて、いかにバスケットボールというスポーツが地球の重力に依存したものなのかということを考えたり考えなかったりした作品である。知らないだろう。わたし自身がすっかり忘れていたので、知っているわけがない。
さらにその前に、「無重力TV」という番組をNHK-BSでつくっていた。

椹木野衣さんと、乾義和さんと3人で企画した番組でかなり破天荒な番組である。
わたしは実印をスキャナーと彫刻機でコピーするというのを実演している。NHKなのに……どこが無重力なんじゃいという気もするが、当時はあらゆる常識=重力から自由になる、ということに興味があったんだろう。
加えてもうひとつ、実際に無重力飛行をしたこともある。
音楽家の山口優さんらと一緒に、なぜか無重力を体験させる飛行機に乗り、無重力というか自由落下を体験させてもらったのだ。
あれは素晴らしい体験だった。Gがかかると、全身の血が移動しまくる。わたしというものが、血という液体をたたえたスポンジのようなものだとわかった。
そして、宇宙空間での無重力はもちろんのこと、落下し続けるこの時間もまた無重力であるということが血に刻まれた体験であった。スペースシャトルが実験している無重力もまた、落下し続ける時間なわけで。この体験は、わたしの考え方に大きく影響している。
かようにわたしは、無重力というものに恋い焦がれ、追い求めてきた動物なのである。
トマス・ピンチョンは『重力の虹』において「重力」を逃れることのできないある種の権力として描写した。しかも軽妙に。
ロケットは発射とともに重力による落下が「約束」される。ロケットが飛び立つとき、それは落下に向かって一直線に時間が進んでいる。空に向かって雄々しく飛び立つのではなく、時間軸で見れば、発射からすでに落下していると言えるわけである。
これは悲しいことだろうか?
「重力と老い」を考えるとき、人は落下に想いを馳せるだろう。
あるピークをすぎると人は落下しはじめるのだと。
だけど、違うんだよね。
生まれたときから、死に向かって歩みを進めていくように、生まれた瞬間から落下していっているということに、この年になって気づく。
このことに気づいたときに、眼の前の景色が色づいた。
つまりね。
ピークを過ぎるということは、自由落下がはじまるということなんだよね。
自由落下は、すなわち無重力。
記憶があやふやになる。人間関係がどうでもよくなる。未来と過去が同じように見えるようになる。そういう自由落下=無重力を感じることは、とっても嬉しい体験なんだと思うんだ。
伊藤ガビン / Gabin Ito
編集者/京都精華大学メディア表現学部教授 京都在住。近著に『はじめての老い』Pヴァイン(2025年)。編集者・服部円とともにポッドキャスト「どこでも編集会議」を毎日配信中。
https://open.spotify.com/show/3enMRsI3RY89idC7C1vcNW?si=2b17ac688e3a4571
本記事は、2026年2月12日(木)からはじまる蓮沼執太チーム初の4都市ツアー「重力」に合わせて制作されました。ツアー詳細は以下より!
蓮沼執太チーム ツアー「重力」
結成17年、初のスタジオ音源アルバム『TEAM』のリリースを記念して、蓮沼執太チーム初の4都市ツアーが決定!蓮沼執太チーム|蓮沼執太、石塚周太(Gt)、itoken(Dr)、尾嶋優(Dr)、斉藤亮輔(Gt)
音響|葛西敏彦東京公演
日時:2026年2月12日(木)18:00開場、19:00開演
会場:東京キネマ倶楽部
料金:5,500円(税込/ドリンク代別/整理番号付)※小学生以下は無料
主催・企画制作:windandwindows
問合:ホットスタッフ・プロモーション 050-5211-6077(平日12:00〜18:00) https://www.red-hot.ne.jp/play/detail.php?pid=py27561名古屋公演
日時:2026年2月15日(日)19:30開場、20:00開演
会場:24PILLARS
料金:前売5,500円、当日6,600円、U25割4,400円(税込/ドリンク代別)※小学生以下は無料
企画・主催:LIVERARY
問合:LIVERARY info@liverary-mag.com大阪公演
日時:2026年2月16日(月)18:15開場、19:00開演
会場:梅田クラブクアトロ
料金:5,500円(税込/ドリンク代別/整理番号付)※小学生以下は無料
主催・企画制作:windandwindows
問合:清水音泉 06-6357-3666(平日15:00〜18:00) info@shimizuonsen.com福岡公演
日時:2026年2月17日(火)18:30開場、19:00開演
会場:福岡ROOMS
料金:5,500円(税込/ドリンク代別/整理番号付)※小学生以下は無料
主催・企画制作:windandwindows、mayonaka
問合:BEA 092-712-4221(平日12:00〜16:00) https://www.bea-net.com/liveinformation/artist/2602hasunumashuta.html<チケット>
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