石すもうのはじまり
かつて大阪・西九条にあったオルタナティブスペース「FLOAT」で第1回の石すもうを行ってから、まもなく11年が経ちます。はじまりは共同主催者の江崎將史(アキビンオオケストラ、popoなど)へ、石による対決を申し込んだことをきっかけに、「とりあえずやってみよう」というテンションでスタートしました。それからさまざまな人たちに後押しされ、とうとうこのような文章を書かせていただけるまでになってしまいました。
この機に、つまり石すもうとは一体なんなのか、私自身のなかであらためて向き合ってみたいと思います。
2013年3月9日(土)、先述のFLOATにて開催された「アキビンオオケストラ祭2013〜川口貴大来阪記念編〜」の一部企画として、大宜見vs江崎による一騎打ち対決を試みました。このときはまだ「石すもう」という名前もなく、便宜的に「石対決」と銘打ち、成立以来の専属行司・貝つぶによる進行と、当日の出演者に審査員を務めてもらうかたちで進めていきました。
江崎による紹介文を引用すると、「石すもうとは、各地の石愛好家が集い、自慢の石を対戦相手と見せ合う競技。……1試合に5個ほどの石を用意し、3個先取すれば勝ちとなる」というものです。第1回のこのときは、ほとんど何も決まっていない状態で、かろうじて「それぞれの石を見せ合って、まわりに判断してもらう」「数はまあなんとなく5個くらいで、3勝できれば勝ち」ということだけを決め、進めていきました。
第1回 石すもうFLOAT場所
試合は両者とも引かず、接戦が続きました。審査員の票もその都度割れ、とうとうこの1石で勝負が決まる……!というときになり、小休止ついでに話し合いを設け、お互いに悔いを残さないようにと、これまでの審査員に加え、会場のお客さんにもジャッジをしてもらうことになりました。
仕切り直して再開します。土俵に出した最後の石を客席へ回すと、お客さんは思い思いに石を眺めたり重さを確かめたり頭上に掲げてみたりして、自分なりの石への理解をそこで整理しているようでした(石を観察し、そのうえジャッジを下すというのは、おそらく会場にいる全員がはじめての経験だったのではないでしょうか)。
すべての人の手に渡ったあと、石が土俵に戻ってきました。審査員にジャッジを求めます。行司より、どちらかよいと思った石に拍手をするように指示が入り、それぞれの名前がコールされます。「江崎関の石がいいと思った人は拍手をお願いします!」「大宜見関の石がよいと思った人……!」
まずは江崎に票が集まりました。この時点で私自身はだいぶ追い詰められた心持ちになってしまっています。次はお客さんにジャッジを求めます。先ほどと同様に、行司のコールが入ります。「江崎関……!」「大宜見関……!」
ここでは私に票が入りました。そこから審議に入ります。先ほどの審査員の票も考慮に入れたうえで、この戦いは私の勝利となりました。初の試みにおいての初優勝です。このとき審査をしてくださったみなさま、本当にありがとうございました。ちなみに私が勝利を収めた石は、直径1cmにもならない、卵型ごましお柄の石でした。
この最後の、観客参加型による試合形式が、以降石すもうの基本形となっています。
石すもうとは何か
では、そもそも石すもうとはなんなのか。文頭でも少し触れましたが、その起こりはとあるイベント会場で、江崎の「石売り」(Ezaki&TheFamilyStone)を見た私(大宜見)が、石による対決を申し込んだことからはじまります。
石好きにより厳選され収集された石は、そこにあるだけで強さをもつものですが、ではその強さを決める方法はあるのか、それは決定的な強さなのか、それらが戦った場合どうなるのか、と考えた結果でした。そうして江崎による名付けと競技の具体的な肉付けをもって、「石すもう」が出来上がりました。
何らかのかたちで関わる人たちは、ほぼもれなく石すもうがもつ面白み(集まってきた選手たちがつくり上げたり、「すもう」という競技自体がもっていたりするもの)にはまり込んでいくようです。この面白みは、何によってもたらされるのか。それは主に、①「石を選ぶ基準」②「すもうのとり方」③「だれも傷つかない戦い」④「けれども全員本気の戦い」の4つの要素が大きく関わっているように思います。
①「石を選ぶ基準」
選手の個人的な石集めはもちろん、石すもうの場で勝敗のジャッジに関わる観客も、各々が個人的な好みで決めることができます。厳密な判断基準を設けていないので、「どっちがより好きか」を考えるだけでよいのです(これまでには、「果たしてこれは石ととらえていいのか……?」となる場面もありましたが、その疑問も含んだうえで、好きな石を選んでもらいました)。
②「すもうのとり方」
選手のこだわりが強く出る部分であり、いくつか技も存在します。そして観客は、石の好みだけでなく、すもうのとり方の好みによっても選ぶことができます。
たとえば、技のひとつに「おしめり」があります(名前があるのはこの技のみ、自然発生的に生まれました)。石の表面を水で濡らし、質感を変えて視覚的に訴えます。まずは乾燥した状態で石を出し、ある程度見てもらったあとで「おしめり」を繰り出し、その変化を楽しんでもらったり、観客から希望が入ることもあります。
もうひとつ、名前はまだありませんが、透過性の高い鉱物を含む石の場合、光を当てることで美しく輝かせることもできます。
ほかにもその石との出会いを語るエピソードトークや、石一つひとつに自身で名付けを施している選手もいます。何より、相手の石に対してどの石を出すかが最大の見どころともなり、特に選手の個性が現れます。タイプの似た石を出すのか、まったく異なるものを出すのか。土俵に上がった石のどちらを選ぶことも難しく感じたあるひとりの観客からは、「なぜ戦わなければいけないのか……!」と苦悩の声が上がったこともありました。
③「だれも傷つかない戦い」
厳密に言えば、敗北を喫した選手はそこそこ傷ついていますので、少し語弊が出てしまいます。ただし故意に傷つけたり、攻撃することはありません。会場を満たすのは石への愛で、勝敗の基準も愛であったりするので、勝った方はその誇りをさらに強くし、負けた方は労いをもって、愛を深めて試合を終えます。かなり精神的な話になってしまいましたが、これも石すもうの大きな特徴のひとつです。
④「けれども全員本気の戦い」
③でおわかりのとおり、愛をもっての戦いは、もちろん常に全力の勝負となり、そしてその熱意に押され観客にも必然的に力が入ります。全力の1試合を終えたときには、選手・観客ともにヘトヘトになっています。
以上を総括すると、「自由・平等・平和・愛」と、まるで人類のテーマのような、運動会の標語のような、誰もが望む努力目標がギュッと詰まっているものが石すもうであって、まさにそれが愛される所以かな、とこの記事を書きながら考えたりしていました。
石を拾うこと
石すもう選手たちは、それぞれに石へのこだわりをもっており、すもうで出される石たちも個性に満ち満ちているので、土俵に上がった石を見た観客からはため息や歓声がその都度上がったりしますが、たとえば、何を基準に選んでいるのか、選ぶうえでゆずれない・外せないポイントなどはあるのか、いつから・どういったきっかけで集めはじめたのか、なぜ石に惹かれるのか、とかそういったことをゆっくり聞いたことはほとんどありません。
ただ、「(その)石に呼ばれたような気がする」とたびたび聞くことがあり、私自身も同様の経験をしたことがあります。どんなメカニズムなのか、思い過ごしか、それとも石を拾うごとに、その美を見極める心眼が目覚めていっているのか、はっきりしたことはわかりませんが、「これだ」と思うものに出会ったときの感動や興奮は、なかなか別の場面では得られない、一種の無敵感があります。
もちろんそれは石すもうにおいての無敵感だったりしますが、幼少期や石すもう成立前に拾った石についても、同じような無敵感や、守ってくれそうな安心感を感じていたのも確かなのです。
石には自然とそういった強さや包容力が備えられいて(これは私が石に惹かれるポイントでもあります)、それを拾うということは、その力を一部身につける(分けてもらう)、呪術に似た行為になるのかなと思います。
石すもうに溢れる愛とは、そういったものを背景にしているのではないか。愛と一口に言っても、敬意や畏れから来るもので、選手たちは石を敬う気持ち、畏れる気持ちとともに、戦いに挑んでいるのかもしれません。少なくとも、私自身にはどこかそういった想いがあります。
石すもうのこれまでとこれから
第1回石すもうからかなり間があきつつも、これまでにartgallery opaltimes(粉浜)、音ビル(北加賀屋)、LVDB BOOKS(田辺)、四貫島住吉神社(千鳥橋)、クリエイティブセンター大阪(北加賀屋)、シカク(梅香)などの会場で開催してきました。
少しずつ認知度が上がっていくなかで、「ウチでもやってほしい」「参加してみたい」「一度石すもうを見てみたい」という声も多くなり、ありがたいことだと思うと同時に、ぜひどこか違う場所、違う人々でそのときなりの石すもうを開催してほしいなとも思っています。
そうして長い年月をかけて、地域ごとの石すもうが存在するようになり、いつかまた私たちのもとにあらためて届いたときに、「私も実は昔……」とものすごい石を出してくる老人になっていたい。ファンタジーの様相を呈して来ましたが、そうなるとすごくいいなと考えて、楽しくなったりしています。
石すもう発案・主催。石にまつわる一番古い記憶は、いとこからもらったアメリカ土産の「ワシントン塔の石」(小学校2年生くらい?)。外国の石という未知のパワーも相まって、その日からお守りになった。石のエピソードも収集しており、ふだんまったく石に興味を持っていないような人がとても面白い話を持っていたりすることに驚いている。
次回の石すもう
さくらまつり場所(シカク場所決勝戦)
日時:2024年3月24日(日)11:00〜
会場:千鳥橋 四貫島住吉神社
これまでの石すもうと関連企画
第1回 石すもうFLOAT場所
日付:2013年3月9日(土)
会場:西九条 FLOAT
行司:貝つぶ
DJ:DJごはん
第2回 石すもう夏場所
日付:2019年9月7日(土)
会場:粉浜 artgallery opaltimes
行司:貝つぶ
DJ:oboco
第3回 石すもう冬場所
日付:2019年12月1日(土)
会場:北加賀屋 音ビル
行司:船川翔司、みやけをしんいち
DJ:oboco
第4回 石すもう秋場所
日付:2022年9月25日(日)
会場:田辺 LVDB BOOKS
行司:貝つぶ
DJ:DJスプーン
石すもう(プレ)此花・黒目画廊場所
日付:2023年3月7日(火)
会場:此花 黒目画廊
行司:辺口芳典(詩人)
石すもう番外編 このはなさくらまつり場所
日付:2023年3月26日(日)
会場:千鳥橋 四貫島住吉神社
行司:辺口芳典(詩人)
石と石にまつわる展示
「タイガー・ウッズはコーヒーを飲む、そのまわりにはたくさんの石が」
日付:2023年8月26日(土)
会場:四貫島 PORT
石すもうLVDB2023場所
日付:2023年9月24日(日)
会場:田辺 LVDB BOOKS
行司:貝つぶ
DJ:epyon3 a.k.a. 江崎將史
石すもうキタカガヤフリー場所
日付:2023年10月28日(土)、29日(日)
会場:北加賀屋 クリエイティブセンター大阪
行司:貝つぶ(両日)
DJ:oboco(28日)、DJ自炊(29日)
現場監督:江崎將史(28日)、大宜見由布(29日)
※初日のダイジェスト映像あり
撮影・編集:うえにしさち
新春石すもうシカク場所
日付:2024年1月27日(土)
会場:梅香 シカク http://uguilab.com/shikaku/
行司:貝つぶ
DJ:oboco
新春石すもうシカク場所エクストラ
日付:2024年1月27日(土)
会場:四貫島 PORT
行司:貝つぶ