paperC編集部が、月に一度行っている編集会議。その場をメディアに携わる実践者へひらき、お互いの見識を交えることから、企画・運営にまつわるヒントを探っていきます。第1回目は、雑誌編集を経て本や冊子、Webコンテンツまで幅広く企画制作を手がける編集者の竹内厚さんをお迎えし、記事のつくり方/届け方について考えました。

収録日:2025年5月12日(月)
場所:千鳥文化
参加:竹内厚(編集者)、北村智子(paperC運営事務局)、堀美知(おおさか創造千島財団 事務局長)・宇野好美(おおさか創造千島財団 広報)、多田智美・永江大・鈴木瑠理子(編集者/MUESUM)
竹内さんから見た「paperC」
永江:まずは、paperCの企画編集やWebメディアとしてのあり方などを、率直にどのように見ているか聞きたいです。
竹内:paperCは、何らかの流れで記事が断片的に飛び込んでくることもあるし、読みたい記事があって覗くこともあるし、折にふれて見ています。初期はある程度限られたギャラリーの展示情報などをレギュラー的に掲載している印象でしたが、今はアートに限らず、いろんな情報がどんどん増えてきていているように感じますね。あと、職業柄、執筆などを誰に依頼しているかにも注目してます。特に「つくり手と7日間」は、ジャンルを越えてフレッシュな顔ぶれが紹介されていて、「こういう人がいるんや」と知るきっかけにもなるので。
永江:「つくり手と7日間」は、竹内さんが、Webマガジン「カリグラシマガジン うちまちだんち」(旧「OURS. KARIGURASHI MAGAZINE」)で展開されていた企画「7 DAYS SCENE」じゃないですけど、エリアにおける登場人物がわかるといいなというところからはじまったんです。
竹内:発想はちょっと近いかもしれないですね。でもpaperCは、もっと自由度があるからうらやましい。「7 DAYS SCENE」という企画は、最初、写真家やイラストレーターが団地を独自に撮影・スケッチする企画だったけど、アーティストが着目するものって、やっぱりイレギュラーで尖っていて強すぎる、わからないと感じる人もいて。そのWebマガジンはUR都市機構と運営しているものなので、より親しみやすい企画として一般の方にも登場してもらい、日記を1週間ずつリレー形式で書く企画(「みんなの日記」)もはじめました。文芸誌などでおなじみのやり方ですけど、これだと1年間で52人が書くことになって、アーティストはそのうちの1/3ぐらいだったと思う。
こういうのでもっと記憶を遡ると、Lマガジン編集部に所属していたとき、小さなコラム欄を担当していて、予算がほとんどない代わりに誰に何を書いてもらうかもわりと自由で、外国人に書いてもらったり、銭湯の店主に書いてもらったり、果ては気になる店のおかん、おとんに書いてもらったり。そのときに思ったのは、たとえば日記のような編集方針をとると、著名人も一般人もそんなに読み心地に差がないということ。知人のおかんが実は映画に詳しかったり、銭湯の店主が哲学書を読んでたりして、って実は当たり前なんですけど、どんな人にも歴史と背景がある。だからというわけではないけど、「つくり手と7日間」も、エッジを立てていく一方で、アーティストやクリエイターに限らない肩書きっていうか、一般の人が同列に登場しても面白いのかなと思います。
永江:paperCがWebに移行した当初、媒体のアートディレクションを務めるUMA/design farmの原田祐馬さんが、「文化芸術がインフラとして認知されるための活動として、paperCが位置づけられたら」と言っていて、たしかにそうだなと。アート関係者だけでなく、もう少しいろんな人に届けられる企画があるといいなあと、「インフラ化していく」ってどういうことだろうと考えています。

編集課題①:どこまでを「クリエイティブ」とする?
多田:おおさか創造千島財団(以下、財団)の目的として、“大阪府下のクリエイティブな活動をしている人を応援する”という前提がある。だから、幅広くいろんな人に声をかけていこうとはしているけれど、「クリエイティブ」という解釈の範囲をどこまで拡張するかは課題のひとつです。
竹内:「クリエイティブ」は、つくり手だけのものではないですよね。自分自身も表現を見る観客側にいて、つくり手ではないけど、見るのが上手な人ってたくさんいると思うんですよ。めっちゃ数を見ている人とか、数はそれほどでも大事に見ている人とか。映画はもちろん、落語やクラシックの公演だと、つくり手じゃない観客、純粋観客が当たり前にいる一方で、演劇やダンス、現代美術展は、つくり手や関係者が観客を兼ねてることが多いかも。paperCは、その前者の情報が載っている印象はあんまりないかな。
北村:オーソドックスなイベントというより、どこかエッジの効いたものを求める傾向はあります……。
竹内:僕、新聞好きで毎日楽しみにしてるんですけど、朝日新聞は夕刊で週に1回、映画や舞台芸術のレビューが3、4本載っているんですよ。担当記者にもよるので、今は映画とクラシック音楽が充実していて。レビューに加えてインタビュー記事や各分野のコラムが定期的に掲載されたりもして、だいぶコアな情報もある。劇評は、古典芸能もあれば現代演劇も混ざってランダムですが、載っていれば楽しみに読みます。やっぱり、ほとんどないんですよね、「今関西で何がやってるか」とそのレビューを掲載する媒体って。
鈴木:paperCには、大阪府下の文化芸術活動、大阪ゆかりの作家による取り組みであるという基準もありますよね。ただ、たとえば映画で言うと、面白そうな新作の上映が大阪に巡回してくるけど、監督が東京や海外を拠点にしているという場合もたくさんある。紹介できるとよさそうだけど、と少し悩ましさを感じることもあります。
竹内:それも、つくり手が軸になっていると思うんですよ。観客の目線に立ってみると、大阪でやっていれば、誰がつくっていてもいい。もちろん、財団として応援したい立場がつくり手側であるということはわかりますけど。
北村:paperCをWebにした背景には、いかに大阪のアート関係者が活動を継続することができるか、という課題があるんです。とにかくみんな広報がうまくいかなくて、人が来ない、お金が回らない、活動が続けられないという、そもそもの悪いループがあって。それを打破するためにWebへ移行したので、おっしゃるとおり、観客をどんどん開拓していかなければいけないのですが、なかなか難しい。
竹内:いずれにしても全部を網羅するのは無理。どの媒体もそうですが、載せられる数に限りはありますし。いくつかの情報を同時に掲載するなかで、記事の大小をメッセージにするというのは手かもしれません。たとえば、マーベル映画をあえて小さな記事にして、インディペンデントな作品を大にするとか。その両方が載っていることで、間口は広くなるはず。観客側のことを考えたときに、「これは載せない」って決めちゃうと、間口としては厳しくなってくる感じがする。
編集課題②:出来事の残し方と伝え方のメリハリ
永江:さっき話していた朝日新聞の批評は、各ジャンルに担当者がいて、それぞれが記事を書くことで、コンテンツの厚みがつくられているのかなと。paperCの場合、あるトピックについて、誰にレビューをお願いしたら面白そうかという視点で書き手を選んでいるので、結構毎回頭を悩ませていて。
多田:木村直さんの展覧会「大阪にあったハンセン病療養所」について、ハンセン病後遺症を抱える男性と、その妻をとらえたドキュメンタリーの撮影を担当された小田香さんに書いてもらったり(「REVIEW|もう見えないが、川や土はまだそこにある——木村直「大阪にあったハンセン病療養所」千鳥文化ホール」参照)、アーティスト・リサーチユニット「ねる neru」の展覧会について、インターフェイス研究者の水野勝仁さんに書いてもらったり(「REVIEW|展示をめぐるフレーム──非意識的空間と無意識に至るトンネル」参照)。どちらも企画内容×執筆者を意識していて、組み合わせの妙が生まれたなと思います。あえて職業ライターでない方にお願いしてみているのですが、それぞれの専門性をベースにしながらも、その人がどう見たかを残していく面白さがあるなと。ただ、取材・執筆のやりとりを丁寧に重ねていくプロセスは必要になりますね。
竹内:レビューに力を入れるのは、ずっと残る読みものにしたいということやんね。でも同時に、時間を含め編集的なコストがかかる。月に2本だけ記事を更新するのならそれでいいと思うけど、2本だけで大阪の文化芸術の領域をカバーするのはもちろん無理。だから、だから、1人の書き手が10本の記事を書けるような軽い枠を用意するといったメリハリも必要なんじゃないかな。批評要素のあるレビューに比べて、プレビューは期待値と書き手の経験をもとにすればレビューとはまた違った観客を呼び込む記事がつくりやすいと思うんですよ。さっきの日記の話に似て、レビューは書けないけどプレビューなら書けるという人が結構いそう。
多田:え、それって、「◯◯をやっていたあの人が、ここでついに!?」みたいに、期待を込めて書くような?
竹内:無理に盛り上げなくても、淡々とでもいいけど。プレスリリースやチラシみたいな、情報が収まりよくまとめられているところから、面白さをどう見つけられるかどうかなので。作品を発表する側には、今なぜこれをやるのかという意義やコンセプトはもちろんあるだろうけど、必ずしもそれで人は集まらなくて、誰が音楽や衣装をやっているというスタッフクレジットに惹かれることもある。そこを読み解いてまた別の角度から伝え直すことも、メディアの仕事としてあると思うんですね。プレスリリースのコピペ的な記事があふれているけど、それだと公式発表ばかりになって、実は見る側にとってのフックが減ってるんじゃないかな。
永江:ちなみに竹内さん、イベントとか展示には、月にどのぐらい行っているんですか?
竹内:その時々やけど、20、30くらいで、本当に気まぐれ。SNSや何かサイトを定期的にチェックするでもなく、紙のDMとかフライヤーで気になるものを取って、家に持ち帰ってから行く行かないをあらためて判断したり。DMとかフライヤーって、「この場所でこのテイスト、今までにないなあ」とか、書かれた情報以外で判断できる要素も多いから頼りにしてたのにかなり減ってしまった。だからこそ、個人で自分勝手なフライヤーをつくってる展示やイベントはガッツを感じます。


編集課題③:複雑で大きなものごとを軽やかに伝えるには?
永江:竹内さんは万博行きました?
竹内:開催前に取材で行ったんやけど、はじまってからはまだ行けてない。
北村:1970年万博は、文化芸術への期待がものすごくあったのかなと思ったのですが、実際今はどんな感じなのかなって。
宇野:立体作品やパブリックアートがあちこちにあるんですけど、ポン、ポンと置いてあるので、気づいて写真を撮る人もいれば、通りすぎる人もいれば、という感じでした。私が行ったのは開始から1週間後で、万博もいろいろ言われていましたが、大屋根リングは建築としても面白いし、各国のパビリオンで見せ方も違って、世界旅行しているような感じは普通に楽しめたんですけど。
堀:SNSを見ていて、「こんな有名な作品が各国来てるよ」という情報が文化芸術方面で全体的になかったのが、万博の科学と文化芸術に対する差のつけ方、文化芸術軽視の表れだ、といった見方があって。世界的に有名な作品が日本に来るんだったら、もっと事前に宣伝されていてもよかったのかな、という声には、たしかにそうだなと。もちろん、万博そのものに帝国主義的な側面があって、それに対する構造批判として反万博という姿勢もあるし、「《ファルネーゼのアトラス》来たからなんやねん」というのもあるかもしれないんですけど。EXPOという枠組みに加えて、PRするものが、最新技術と有名人とおいしいものなんだっていうのは、個人的にも感じるなと思います。
竹内:万博にもプレスリリース問題があって、たぶん広報担当が各参加国、参加企業へ一律な質問、「見どころ教えてください」とかを投げて、それで集まったものをそのまま発信してるだけじゃないかな。そうすると、ヒアリングが足りていないとか、そもそもの設定質問がぬるいとか、で、いざ回答が集まっても熱も面白さもかなり失われてしまっていて。それは万博に限らず、規模の大きいイベントだとそうなりがちだと思うんですけど。でも、万博は会期が長いから、どこで何が飲めるっていうビールマップとか、個人のSNSレビューが出てくる点が救いですよね。みんながいいところ、ダメなところを探して公式とはまた別の情報が伝わっていくんだけど、paperCが扱うのは万博じゃないからそこまで長い期間やっているものはなくて、ユーザー側で補完されにくいところが残念というか。
永江:paperCでも、70年万博のコラム(「INSIGHT|反博運動とは何だったのか——1970年以後の未来のために」参照)が出ているんですけど、それは2025年の万博を考えるために過去をどう見るかという切り口でもあるので、今、どう考えているかという切り口は、いろんな人の反応を見ながら考えたいなと。
竹内:見てみてどうやったか?っていうのは純粋に知りたいと思う。スズキナオさんの集英社の連載(「それから」の大阪)でも万博の見物記を書いてましたよね。そんなふうに、いろんな人の声を知りたい。でも、いざ書いてって言われたら、構えてしまうでしょうね。やっぱり今のpaperCだと「万博、ちょっと行ってきたよ」みたいなタイトルでもつけて依頼しないと、批評せなあかんのかなって受け取られると思うから。楽しかったこと、つまらなかったことを箇条書きで3つずつ挙げてもらって、そこに補足の文章をちょっと足すだけとか。枠組み自体が「軽くていいですよ」っていうものだったら書きやすそう。あくまで“私の”所感でいいから、いろんな意見が読んでみたい。
本日の振り返り
多田:今日の前半は、わりと観客創造っていうか、どうやってファンをつくっていくか、いろんな層にどうアプローチしていくかという、間口の広げ方について話してきました。一方で、先日、paperCでもレビューを書いてくださっている執筆者の方から、「今の大阪の文化芸術の状況をどう考えていますか?」と、編集部とのディスカッションの申し出をもらったんですよ。
鈴木:紹介したいと思う展覧会の数が少なく、素晴らしいものがあっても、それをレビューする人がいない。かつ、そういう状況下にありつつ、あんまり危機感がなく、それに対する意識情勢もあんまりなされない環境などについて、体感や想いを話してくださいましたよね。そこから、活動発信や助成を促していく中間支援的な層の厚みが必要なのかも、といった話をしていって。
北村:リソースの分配が適材適所じゃないんじゃないかといった問題意識を持っておられて、「もう本当にそうなんです……!」という。レビューする人もそうなのですが、アートマネージャーやプロデューサーで読み解きができる人も少ない。さっきのプレスリリースの話ではないけれど、アーティストのやっていることを理解して、噛み砕いて伝えていくっていうところですよね。
竹内:僕が思うのは、定期刊行物のように、締め切りが毎月来るっていうのもすごく大事。じゃないと書かないし、書けない。「あなたにレビューを年12本頼みます」とか決めたほうが回っていくのでは。しかも、そうすると「毎月20日には3人のレビューが上がりますよ」といったかたちでスパンを固定できるし、書く側にも読む側にも動線ができる。名古屋の芸術批評誌『REAR』って、もう50号近く続いていますよね。あそこには名古屋のシーンがなんとなく、まとまっているなっていう安心感があるというか。紙メディアだからできるところもあると思うんだけど、定期刊行物ならではの強さがある。だから、paperCにも、誰が書くっていうのを1年間だけでも決めて頼む枠があってほしい。永江さんにも、毎月書いてほしいけどね。
永江:そうですね(笑)。自分たちでも書かないといけないなと思いつつ。
多田:でも……軽やかじゃないんですよね、私たちが。企画を練って、アウトプットするまでに時間がかかる。
竹内:枠組みのつくり方によるんじゃないですかね。ガチッとしてるものばっかりじゃなくて、さっきの「万博ちょっと行ってきたよ」じゃないけど、「今月これ行きました」とかでも。
多田:やっぱり竹内さんは、書く側をどう軽やかにしていくかのプロですね。なおかつ面白く読めるっていうのがすごい。今後は、そういう企画も考えていけるといいな。
竹内さんを交えた編集会議をもとに、「今月どこいく?リスト」という企画をはじめました。paperC編集部とゲストが、月ごとに「これ行こうかな〜」というイベントや展覧会、ライブなどの情報をリストアップ。ぜひ覗いてみてください。
今月どこ行く?リスト[12月:田原奈央子+paperC編集部選]
今月どこ行く?リスト[11月:竹内厚+paperC編集部選]
今月どこ行く?リスト[10月:paperC編集部選]



