「暮しに役立つシックな装い」をコンセプトに大阪の服飾ブランド・futatsukukuriから新ライン「暮chic(クラシック)」が誕生した。11月より展示受注会が、東京、大阪、京都、岡山の各地で順次開催される。大阪会場は中央区淡路町のNEW PURE + Chika No Akichiで、2021年12月11日(土)〜25日(土)まで。
futatsukukuriがこれまで育ててきた従来のデザインを元に色や素材、サイズ感などをアップデートした「ボーンブラウス」や「セーラー縛りワンピース」、そして暮chicとして新たにデザインした「月のスカート」や「星のワンピース」などシックで叙情的、どこか乙女心をくすぐるアイテム計10型が会場に並びます。
写真はブランドが始まって間もない頃から縁のある写真家・木村和平さん、モデルは近年衣装提供などでも深い繋がりのあるシンガーソングライター・カネコアヤノさん。撮り下ろし写真は会場にてご覧いただけます。
(「暮chic」ウェブサイトより引用)
「暮chic」の立ち上げについて、futatsukukuri・デザイナーの谷内香衣にインタビューを行った。
――新ラインの「暮chic(クラシック)」はどういう経緯で生まれましたか? 長年温めていた計画ですか?
自分が着たい服をつくってきたはずなのに、気づけば着られなくなっていました。子育てをしている間に着飾ることをできなくなっていたし、自分自身も歳を重ねてきてこのままfutatsukukuriとしてエッセイ【1】をどんどん進めていくか、もうひとつ道をつくるか悩みました。今までもエッセイとして進めてきましたが、いつも当時のfutatsukukuriに後ろ髪を引かれてるような感じがしていて、振り切れないところがありました。もうひとつ道をつくることによって、futatsukukuriを永遠に少女として隅に置いておくことができるなぁと思い、分ける方を選びました。
「暮chic」自体は構想から3年くらい経っています。その間にもデザインが削ぎ落とされたり、周りのいろんなことが変わっていきました。コンセプトについては、私自身が子どもの式典や親戚の集まりなどに着ていく服に悩んでいたこともあり、「暮しに役立つシックな装い」と定めました。一般的なフォーマルではないけれど、これまでfutatsukukuriを着て一緒に成長してきた人にとってフォーマルになったり、シックな服しか着ないような初めましての人にも届くといいなと思っています。
「futatsukukuri」と「暮chic」、完璧に分けるのではなくて時と場合によって仲良くやっていけたらいいなと思っています。
【1】エッセイ
結婚して以降のコレクション2015年冬春「花嫁ブラウス」あたりから、futatsukukuriは「エッセイ」というテーマを意識的に打ち出している。デザインの幅を広げるためにもタグに「エッセイ」と記されている。
――「暮chic」では衣装提供を行っているシンガーソングライターのカネコアヤノさんがモデルを務め、2017冬春 「庭へ」の撮影を担当した木村和平さんが写真家として参加しています。モデルや写真家はどのように選んでいますか?
その時々で縁のある方にお願いしています。最初は周りの友だちや知り合いからはじまりました。モデルはイメージに合う人がいないときは道でスカウトしたり、募集したりもしました。今回の場合は、私の生活にじんわりと深く関わりはじめて、それを受け入れるように必然的におふたりにお願いしようと思いました。それが2年くらい前です。
――カネコアヤノさんについての印象を教えてください。好きな曲や歌詞はありますか?
カネコアヤノちゃんをはじめて知ったのはYouTubeでした。若いのに自分と同じように苦悩している人がいると思って(笑)ずっと聴いていました。その矢先に和平くんからレコードの撮影をするので衣装を貸してほしいと連絡がきて。それが『群れたち』(2017年)です。アヤノちゃんにはその少し後にはじめて会って、一緒に串カツ屋さんに行きました。なんだろう、全然違う生活をしてきたはずなのに会った瞬間に同志だと思いました。
好きな曲については本当に語りきれないのですが……「朝になって夢からさめて」という曲の「あなたと出会ってしまったね」という一節が好きです。その辺りから『よすが』(2021年)までの全部が愛おしく思います。
――木村和平さんについての印象を教えてください。出会ったきっかけは?
和平くんとはじめて出会ったのは2012年頃だったと思います。当時渋谷にあったミキリハッシンで、山口壮大さんに「人気ファッションブロガーのかずへりんです」と紹介されて衝撃受けたのを覚えています(笑)。その頃から多分ずっとfutatsukukuriを見てくれていたのではないかと思っています。気づけばいつも側で見守ってくれている守り神のような存在です。彼自身の印象は物静かなんだけど、後に残る残像のようなものがめちゃ強い……それは作品についても同じことを思います。
――撮影は福島県にある木村和平さんの祖父母宅で行われたと聞きました。「暮chic」の世界観を実現するために、どのように打ち合わせをしましたか? 苦労したことはありますか?
和平くんからの提案で、カネコアヤノちゃんの「やさしい生活」MVを撮った福島にあるおじいちゃんのお家がもうすぐほかの人に渡ってしまうというのでそこで最後に撮れないかと。二つ返事でやりましょうと言いました。このチームのことを信頼していたので安心して撮影に臨むことができました。
苦労したことは、自分と真っ当に向き合う時間をつくることです。ひとりのときとは違ってどうしても時間が細切れになってしまい、そのなかで1歩進んでは2歩下がったりしながら最後まで辿り着けるのか不安でした。長い長いマラソンを走ってるような気分でした。
――今回の「暮chic」もそうですが、過去コレクションの「水色時代」「みだしなみ」「幽子」、前述の「エッセイ」など言葉を丁寧に扱っている印象を受けます。そのようなインスピレーションはどこに由来しますか? 最近好きな言葉はありますか?
専門学校の卒業制作で、中原中也の「サーカス」をブランド名に「服作り×言葉遊び=シュールレアリスム」というコンセプトでブランドを作りました。膝が笑えば私も笑う「ケラケラパンツ」とか、入れ歯がバレッタになった「イレバレッタ」とかちょっとギャグのようにも取れる服づくりをしていました。思えばその頃から言葉と服の関係性について考えていますね。
インスピレーションを高めるために特別に何かをするということはないのですが、日本語の音楽や映画、絵本、料理本、エッセイ、詩集などは好きです。あ、少女漫画も!
最近は、茨木のり子さんの詩で「だいたいお母さんてものはさ/しいん/としたとこがなくちゃいけないんだ」という文の、「しいん」という言葉にぐっときました。
futatsukukuri / フタツククリ
デザイナー 谷内香衣
1984年、大阪生まれ。 小学六年生の卒業文集に将来の夢はデザイナーと書く。
2003年、マロニエファッションデザイン専門学校
オートクチュール科入学。 デザイン批評の授業でカエルをモチーフにした衣装デザインを褒め られ覚醒する。卒業後も講師の先生(同校現校長)や先輩のもとで縫製を学び、 劇団や映画の衣装に携わる。 2009年、futatsukukuriを立ち上げ「
記憶や憧れにデザインを加えて新しい価値を生み出す」 をコンセプトに雑居ビルの一室で服作りに没頭する。 2014年、結婚と二度の出産を経て日々の暮らしをヒントにしたエッセイのよ
うな作品作りを展開。 2021年、futatsukukuriより「
暮しに役立つシックな装い」をコンセプトにした新ライン「暮chic」を立ち上げる。 ふたつくくりとは子供の頃に憧れていた髪型。
会期:2021年12月11日(土)〜25日(土)※12月15日(水)は休業
時間:13:00〜19:00
会場:NEW PURE + Chika No Akichi
休業:12月15日(水)
問合:06-6226-8574 pure-plus@hotmail.co.jp
大阪市中央区淡路町1-1-4