大阪のアートハブ・TRA-TRAVELが実施するアーティスト・イン・レジデンス企画「AIRΔ」のショートリサーチレジデンス作家として来日している、ポルトガル人ビジュアルアーティスト/ライターのアナ・メンデス(Ana Mendes)を迎えてのトークイベントが、萩之茶屋のDOYANEN HOTELS BAKUROにて開催される。
メンデスは、ロンドンとストックホルムを拠点に活動。ストックホルム王立美術大学ではビデオアートを学び、2011年英国ゴールドスミスカレッジで修士課程を修了。
世界中のさまざまな⺠族博物館を調査し、ポストコロニアリズム、記憶、アイデンティティについて問うリサーチプロジェクト「The People’s Collection」を実施、世界中の博物館の展示品や所蔵品、路上彫刻などをポストコロニアルな視点から再解釈している。
日本で行う「The People’s collection」では、博物館の所蔵品などを通じて、日本や周辺国との過去や現在の関係性を読み解こうとしており、大阪の国立民族学博物館もリサーチ対象となっている。
なお、TRA-TRAVELのQenji Yoshidaが行ったアーティストへのインタビュー記録が届いたので、以下に掲載する。
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Qenji Yoshida(以下QY): アナさんはこれまで様々な地域で活動をされています。 その中でも世界各地の博物館などで「The People’s Collection」というプロジェクトを行われており、今回の日本滞在でも実施されていますが、本プロジェクトの概要を教えてもらえますか?
Ana Mendes(以下AM):「The People’s Collection」は、コロニアルな経験を持つ国の出身者が、民族学博物館のコレクションを見学しながら、自分たちのアイデンティティについて考える参加型アートプロジェクトです。 コロニアリズムとは、ある国が他の国を侵略し、その国の言語や文化などを支配しようとする運動だと私は理解しています。ただ、実際には多くの国が植民支配を行った経験や同時に植民地化される経験を持っています。 本プロジェクトは、参加者のアイデンティティに焦点をあてており、博物館を訪れることが、祖先を含む自身のアイデンティティを認識することに繋がると考えています。
QY:このプロジェクトは、ヨーロッパやアジアなど、異なる文化圏で実施されていますが、プロジェクトの成果や受け止め方は文化圏で異なりますか?
AM:前提として、2014年にアフリカで開催されたビエンナーレのコミッションワークとして本プロジェクトは始まっています。西洋の民族学博物館が展示物の本国送還という問題に直面する瞬間や、その後に何が起こるかを捉えることを、そこでは考えていました。 受け取られ方の違いですが、まず欧米諸国で全体的に言えることは、美術館はトレンドを追うため、どこも似たようなものになりがちです。ただそこに来る人は異なります。参加者の反応だけでなく、美術館のスタッフ(ガードマンなど)も変わりますし、ロンドン、パリ、ニューヨークのような多文化都市では、複数のルーツを持つ方が多く、このプロジェクトをある種の遊びと捉え、興味を示される方が多いです。 アジアでは、歴史的な理由から状況が異なります。植民地化の波(中国、日本、ロシア、ヨーロッパ)があり、また自主的な西洋化・近代化の動きもありました。また、台湾や日本の先住民の存在も忘れてはなりません。アニミズム、神道、仏教など、この地域の伝統も関わるため、アジアでは植民地主義という概念やその周辺概念は西洋とは異なるものであると感じています。
QY:それを聞くと日本に住む者として、アナさんのプロジェクトが日本内外の歴史やその複雑さをどのように写すのか、そこからどんな発見ができるのか、とても興味深いです。逆に地域や文化圏を越えた共通の傾向のようなものはありましたか?
AM:アーティストが作品を作るとき、そのすべての結果を想定することはできません。私は、コロニアルな背景を持つ人々のアイデンティティを考えて「The People’s Collection」を制作しましたが、その逆、つまり地域に住む方々も自分のアイデンティティや歴史を見直すことができると想像しています。アイデンティティとは「構築されるプロセス」自体であると私は捉えており、それゆえ私たちは皆自分自身を理解しようと試み続けているんだと思います。
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AIRΔ vol.5 Ana Mendes
トークイベント「Re: 博物館 – ポストコロニアルな視点から見た収集品 -」日時:2023年6月3日(土) 16:00〜18:00
会場:DOYANEN HOTELS BAKURO 1F カフェスペース
料金:入場無料 ※予約不要
主催:TRA-TRAVEL
共催:DOYANEN HOTELS
助成:大阪市
協力:一般社団法人アラヤシキ
大阪市西成区萩之茶屋2-8-12