私的な記憶や語りをアーカイブとして残すことで、その個人史から歴史や社会をとらえ直す取り組みが、いま世界の各地で精力的に行われている。
武庫川女子大学附属総合ミュージアムで開催中の展覧会「モノの棲み家、ヒトの棲み家-中田静さんの『自宅』より」は、個人の自宅に遺された生活財や日用品を展示し、その人そのものではなく、その人が所有していた「物」から生活史に光をあてた試みである。本展では、かつて大阪の美章園という場所で暮らしていた、中田静という女性の家に遺されたおびただしい「物」を紹介する。
印象的なのは、衣服とその購買記録だ。記録した帳面には、イラスト付きでいつ、どこで買ったものかが事細かに記されている。買ってうきうきしている心持ちが伝わってくるようだが、中にはタグが付いたまま遺された、実際には着用しなかったであろう服もある。購入した衣服とともに「とうふ」「牛乳」「トマト」などと食品を購入した履歴が一緒に載っている帳面もあり、すべての買う行為が日常の営みとしてパッケージされている。
このほか、仏壇に保管されていた、出征し、現地で死を迎えることとなった兄の手紙や外邦図なども。また、鍋や器のセットなどが百貨店の包み紙でくるみ直されている一群、大量の箱入り、缶入りの砂糖などの物量にも驚かされる。物は、人が語り伝えた事柄のように、個人個人の実際の意図や感情を直接話しはしないが、展示から強く感じるのは、圧倒的な一個人の痕跡、生きてきた証しである。戦中~戦後を生き抜いた大阪の市井の人々の生活史を垣間見られる展示に、ぜひ足を運んでみてほしい。
武庫川女子大学附属総合ミュージアム
「モノの棲み家、ヒトの棲み家-中田静さんの「自宅」より」会期:2023年5月31日(水)~7月12日(水)
会場:武庫川女子大学学術研究交流館(IR館)5階ギャラリー 武庫川女子大学附属総合ミュージアム
開館時間:平日10:00~16:30、土曜10:00~15:00
休館: 日曜(ただし、6月25日・7月9日は10:00~15:00開館)
料金:無料
共催:武庫川女子大学生活美学研究所
武庫川女子大学学術研究交流館
兵庫県西宮市鳴尾町1-10