ドイツ・ベルリン在住のアーティスト、Satoko Kakoの個展が、天満橋のアシタノシカク ASITA_ROOMにて開催される。
Satoko Kakoは東京生まれ、2005年にベルリンへ移住。2014年にAkademie der Bildenden Künste Münchenを卒業し、以後ベルリンを拠点に活動している。
本展は三重県・いなべの岩田商店からの巡回。大きい陶芸作品や絵画作品に加え、三重の会場では販売していないマグカップや花瓶も多数出展される。
„Berlin, Winter, I thought of spring“
冬のベルリンでは、みんな笑わなくなる。いつも不機嫌なスーパーのおばさんが、さらに不機嫌になる。みんな、笑ったら罰金取られるのか!?というくらい笑わない。ベルリンの冬は長く暗く、鬱鬱としている。
今回の個展をするにあたり、岩田商店の松本さんと一年前からInstagram上でやり取りをしてきた。日本ではなかなか発表する機会のない、絵画作品や大きな陶芸作品を岩田商店で見せたいという気持ちがあった。冬、やっと時間に余裕ができたので、作品をつくりはじめた。誰も笑わなくなった、冬のベルリンで、私はいったことのない、いなべの春を想うことにした。みたことのない山、みたことのない春の草花、みたことのない春の小川を想った。一歩外に出たら、どんよりとしたグレーの空が街を覆っているのに、スタジオにいる間は、目の前に私の知らないはずの、いなべの春があった。
私には、6歳になる息子がいる。息子は毎日飽きもせず、せっせと石と棒を家に持ち帰ってくる。玩具箱がごちゃごちゃになるので、私はこっそりと小石や棒を捨てていた。ある日の午後、ふと息子の拾った小石を一つ一つ眺めていたら、あることに気づいた。
息子は、公園にある無数の小石の中から、厳選して、自分が特別だと思うものをきちんと選んで持ち帰っていたのだ。彼にとって、この小石や棒は、大切な宝もので、一つ一つ確実に違うものなのだ。私も、子供の頃は砂場で熱心に石を探す子供だった。私は、いつからか、特別な石を判別する能力を失い。一つ一つ個性のある石達を、「ごみ」としてしかみれない人間になってしまった。その日、私は、毎日石を拾ってくる息子を、石はごみではなかったと思い出した自分を忘れないために、作品に残そうと思った。一つ一つの石には物語があり、その物語は、きっと二、三年したら石を拾ってこなくなる息子への時間を超えた手紙の様になってくれるのではないかと考えた。ドイツで暮らし始めて約20年。
今ここにはない、何かに想いを馳せることで、辛く厳しい冬を乗り越えるスキルを、知らない間に身につけていた。そのスキルは、私が特別な人間であるという証ではなく。どんな人も、通り過ぎる日々の中で、石を拾い、春に思いを馳せて、生きているのだ。(作家によるテキスト)
Satoko Kako solo exhibition 「Berlin, Winter, I thought of spring.」
会期:2023年7月1日(土)〜9日(日)
※作家在廊:7月1、2、8、9日場所:アシタノシカク・ASITA_ROOM
時間:平日12:00~20:00、休日12:00~18:00
料金:入場無料
大阪市中央区北浜東1−12
千歳第一ビル2F