イメージの曖昧さを描き出す“ゆらぎ”の絵画で、人間の性と世界の有様を表現する画家、黒宮菜菜の個展「カタストロフの器」がGallery Nomartにて開催している。
これまでに、人間の身体に着目した油彩画、画仙紙や染料の特性を模索した幻想的な絵画などを制作してきた黒宮。本展を構成する近作と新作は、キャンバスにアクリル絵具で額縁のような土手をつくり、油絵具で絵を描き、そこに画用液を注いで絵具を溶かすことで滲みや消失を生じさせる手法で表されている。また、キャンバスにはスクリーンプリントも施され、絵具をはじいた最下層のモチーフが、上層に独特な奥行きを浮かび上がらせる。そうして導き出されるのは、観る者の感覚を揺さぶり、想像力を喚起させるおぼろげなイメージだ。
黒宮の作品は、小説の場面や登場人物、自身が思い描く情景など、物語性をテーマにしている点も特徴的だ。たとえば、新作シリーズ「崖の上」「橋の上」は、物語に転機が訪れるシーンを象徴する崖、橋という場所に着想を得ている。そして、それは彼女の独特の手法と結びつき、挫折や絶望の不穏さを漂わせるとともに、未来へと向かう兆しをも感じさせる。
今回は、VOCA展2020で佳作賞を受賞した200号の大作《Image-終わりし道の標べに》も展示。本作は関西で初公開となる。期間は9月12日(土)まで。
作家コメント
『カタストロフの器』によせて
「カタストロフ」とは、予期せぬ破滅や悲劇を意味する言葉であるが、そこには、破滅や破綻があったからこそ未来の再生や生命の華やぎを想起する契機としての意味も含まれていると考える。悲劇を転換させる起点としてあるのもまたカタストロフではないだろうか。
今回の展覧会では、このカタストロフとそれを受ける「器」という言葉をタイトルに入れた。わたしの近年の油彩作品には、キャンバスの周りに額縁のような形態の厚い絵具層の土手がある。これは、キャンバスを寝かせた状態にして、画用液を上から注ぎ込んだとき、液がキャンバスの側面からこぼれ落ちてしまわないように導入した方法である。制作の過程上表れたこの土手は、ヒタヒタに注いだ画用液を留まらせる役目を果たしており、その姿はまるで器のようだ。よって、タイトルにある「器」は、わたしにとっての絵そのものを意味する。
カタストロフが絵の中にある状態。
わたしの絵は、ある種の物語性(小説、悲劇、喜劇、登場人物、人間の性、生と死)をモチーフとしているが、絵具で描いたイメージは画用液の侵入によって消えたり、滲んだり、ぼやけたりと破綻を繰り返す。予測のつかないイメージの崩壊と、それを別の形へと再生しようとする自身の意思。その相互関係によって絵は完成していく。カタストロフの状態が物語という側面と技法的な側面との両方を孕んで絵の中で蠢いている感覚である。
本展覧会では、新しいイメージの展開として「崖の上」シリーズと「橋の上」シリーズも発表する予定だ。これら一連のイメージは、サスペンスドラマによく登場する崖の上でのクライマックスシーンや物語に転機が訪れる橋の上のシーンから着想を得たものである。追う者、追われる者、暴く者、語りかける者、思いとどまる者、とどまれない者、傍観者。そして秘密や告白や挫折や希望。人間の性が様々な形で行き交う場所。メタファーとしての崖の上と橋の上である。
黒宮菜菜 Nana Kuromiya
(Gallery Nomart Webサイトより引用)
日時:2020年8月1日(土)〜9月12日(土)13:00〜19:00
休廊:日曜日・祝日、8月13日(木)〜15日(土)
会場:Gallery Nomart
関連イベント
Closing Live「Catastrophe」
日時:2020年9月12日(土)開場19:00、開演19:30
料金:2,000円 ※予約制(定員10名)
出演:.es(ドットエス:橋本孝之&sara)