本特集の共同編集者・小田香さんが、この特集に寄せておすすめの映画・本を紹介。各記事を読む前、読んだ後に、ぜひあわせて楽しんでもらいたい。
MOVIE
『二重のまち/交代地のうたを編む』
映像作家の小森はるかと画家で作家の瀬尾夏美が協働して制作した「継承」のはじまりの記録。2018年、陸前高田に4人の旅人がやって来る。彼らは東日本大震災発災時、東北から離れた場所で幼少期・青年期を過ごしていた若者たちだ。風景に出会い、人々の話に耳を澄ませ、瀬尾が紡いだ2031年の暮らしの物語『二重のまち』の朗読を通して、見聞きしたものや考えたことについて言葉にしようとする。彼らが出会ったなにかは、彼らの身体を通ることで、彼らの言葉として語り直されている。震災において当事者という括りにいない旅人が、語り直しによって当事者性を回復していく。私はこの映画を観て、己が非当事者であると同時に当事者であることを許された気がした。(小田)
監督:小森はるか+瀬尾夏美
出演:古田春花、米川幸リオン、坂井遥香、三浦碧至
配給:東風
制作・公開年:2019 79分/日本
『マルメロの陽光』
画家のアントニオ・ロペスがマルメロの木を描く過程をエリセがおさめる。エリセの映像はアントニオ・ロペスのモチーフとの向かい合い方と呼応している。映画作家のスタイルのみが映像言語を生むのではなく、被写体との対話によって生まれることを感じさせてくれる。実に落ちる朝の一瞬の光をとらえたいロペスは精密なデッサンを試みるが、実が太れば枝はしなり、季節が移ろえばマルメロの実は地面に落ちる。出来事の積み重なりである時間と、それら照らす優しい光が、あたたかい記憶のような映画を立ち上げている。(小田)
監督:ビクトル・エリセ
制作・公開年:1992 139分/スペイン
『As I Was Moving Ahead Occasionally I Saw Brief Glimpses of Beauty』
メカスが彼の日常を断片的に撮影した日記映画。棚にあるフィルムを手に取った順につないでいったんだよと彼は言う。人生のある一部がどこに属するかわからないんだから、まったくの偶然によって編まれたらいいのだと。それでもある種の秩序が存在しているが、それが何なのかは理解できないし、理解したいとも思わないのだとも。作品を編集する際、偶然に身を任せたときに現れる思いがけないなにかについて考えさせてくれる。(小田)
監督:ジョナス・メカス
制作・公開年:2000 288分/アメリカ
[DVD]
販売:RE:VOIR
※2021年9月現在は在庫なし。2022年に同販売元が新版を制作予定
BOOKS
『日常という名の鏡―ドキュメンタリー映画の界隈』
タルコフスキーが『鏡』におけるモンタージュについて語った部分を引用しながら、佐藤真は『阿賀に生きる』の編集過程を振り返る。映画の時間は、ショットのなかにすでに存在している。ショットに内在するものに耳を傾ければ、素材の方が自らの位置を見出す。映画には独自の時間が存在していること、並びは素材自体がすでに知っていることを感じてはいたが、『鏡』や『阿賀に生きる』の実例を示しながら言語化してもらうことで、映画の時間についてのぼんやりした所感が整理できた。(小田)
佐藤真 著 凱風社(1997)
小田香 / Kaori Oda
1987年大阪生まれ。フィルムメーカー。
2016年タル・ベーラが陣頭指揮するfilm.factoryを修了。第一長編作『鉱 ARAGANE』が山形国際ドキュメンタリー映画祭アジア千波万波部門にて特別賞受賞。
2019年『セノーテ』がロッテルダム国際映画祭などを巡回。
2020年第1回大島渚賞受賞。
2021年第71回芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。twitter https://twitter.com/_kaori_oda