本特集では、ドキュメンタリーとフィクションの関係やその境界について向き合いました。それは、「事実」「作為」「理解」というような言葉の定義や、それらに付随する葛藤の輪郭をなぞっていくような作業であり、あらためてドキュメンタリーとフィクションの境界というものがいかに流動的で、相互的関係にあるかを感じています。 人が食べるという行為をインタビューを通して観察・分析してきた独立人類学者の磯野真穂さんとの対談では、他者を理解することについて言葉を交わしました。また、現代フランス哲学、芸術学、映像論をフィールドに文筆業を行う福尾匠さん、同じく、映画や文芸を中心とした評論・文筆活動を行う五所純子さん、そして、劇団「ゆうめい」を主宰し、自身の体験を二次創作的に作品化する脚本&演出家・池田亮さんの寄稿では、立場の異なる三者の視点からドキュメンタリーとフィクションの地平の先になにを見るのかを言葉にしていただきました。 対岸の風景を可視化していくこと、まだ見ぬ世界を知覚すること、その先に結ばれた像が唯一絶対の真実から開放してくれることを信じて。そして、今日もわたしは石をなぞる。 小田香 Kaori Oda ー 1987年大阪生まれ。フィルムメーカー。2016年、タル・ベーラが陣頭指揮するfilm.factoryを修了。第一長編作『鉱 ARAGANE』が山形国際ドキュメンタリー映画祭アジア千波万波部門にて特別賞受賞。2019年、『セノーテ』がロッテルダム国際映画祭などを巡回。2020年、第1回大島渚賞受賞。2021年、第71回芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。
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2022.10.05
#エル・ライブラリー#松見拓也#谷合佳代子#BOOK#CRAFT#DESIGN#EDUCATION#LITERATURE#PHILOSOPHY#PHOTO#PHOTO REPORT

PHOTO REPORT|エル・ライブラリー

撮影: 松見拓也[写真家] / 文・構成: 永江大[MUESUM]
PHOTO REPORT|エル・ライブラリー

2022年9月初旬、京阪線・谷町線「天満橋」駅を降りて徒歩5分ほどの、エル・おおさか4階にある「エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)」を訪れた。公益財団法人大阪社会運動協会が運営し、広く大阪の「労働」「社会運動」に関する資料をアーカイブ、一般に貸出など(要会費)も行っている私設図書館だ。

エレベーターを上がって正面奥に進むと、開かれた扉の奥に閲覧室が見える。入口には運営の費用にあてるため、寄付で得た本やCD、キーホルダーから食器までさまざまなものが売られており、左手に雑誌類の面出しが、奥には書架が並ぶ。「こんにちは〜」と声をかけると、受付にいた谷合佳代子(たにあい・かよこ)館長が応えてくれた。

この日、書庫にある貴重な資料を見せてもらうため、谷合さん解説による見学ツアーをお願いしていた。夕方に開始した書庫巡りは、閉館時間を超えて夜にまで及んだ(感謝)。膨大な量の資料に圧倒されつつ、それを語る谷合さんの熱量にぐいぐいと引っ張られていく、濃密な時間となった。

PHOTO REPORT|エル・ライブラリー
PHOTO REPORT|エル・ライブラリー

最初に、エル・ライブラリーの成り立ちとこれまでを谷合さんの言葉とともに紹介したい。

エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)を設置運営する公益財団法人大阪社会運動協会は、1978年設立。『大阪社会労働運動史』の編纂を目的に、大阪の社会運動史に関する資料を収集してきた。2000年からは大阪府の委託を受け、「大阪府労働情報総合プラザ」(以下、プラザ)を運営するも、2008年に就任した橋下大阪府知事の財政改革によってプラザは廃止され、補助金もすべて打ち切られることになる。

「本当に大きな転機でした」と谷合さん。「蔵書をどうするか。運営費をどう確保するか。私ひとりだけでもボランティアで残って、資料を引き取ってくれるところを探そうかとか。いろんな可能性を模索しながらも、給料1円も出されへんと思うし、半ば存続を諦めかけていました。そのとき、今も一緒に働いている館長補佐の千本沢子(ちもと・さわこ)と腹を割って話をして。今は世間も私たちに注目して署名運動などに協力してくれるけれど、時間が経てば経つほどどうしたって忘れられる。なるべく早く新たに図書館をつくって、回していかないと資料を守られへん。だからやろう、頑張ろうって千本が言ってくれました

そうして、廃棄される運命にあったプラザの蔵書約17,000冊と、大阪社会運動協会の蔵書・資料を統合し、次世代へと引き継いでいくための私設図書館設立に向け準備。2008年10月21日、多くの個人・団体の支援によって、エル・ライブラリーが開館した。「今年で15年目。常勤スタッフは私と千本だけだから、本当に、市民のみなさんのボランティアと寄付でここまで支えられてきたんだなと。感謝しかないです」

PHOTO REPORT|エル・ライブラリー
エル・ライブラリー館長の谷合佳代子さん

ここからはツアーの様子を写真とともに紹介する。キャプションに谷合さんのコメントを併記しているので、参考までに。なお、この日にまわることができたのは6つある書庫のうち4つのみ。未整理の資料も多く、今回紹介するのは氷山の一角と思って見ていただきたい。

ひとつ目の書庫。部屋に入ってすぐ目に入るのは、館長補佐の千本さん発案のアーカイブズ活動。資料単体で分類するのではなく、出所尊重の原則に従って、提供者ごとに1箱にまとめていく。ボランティアの方々とともに、日々地道な整理が行われている
「資料をバラバラにしてしまうと、それらが一緒になって提供された、あるいはまとめられていたという、資料と資料のあいだにある文脈や来歴自体が失われてしまう。提供者がきっちり整理していなくても、整理していないということもひとつの文脈なんですね。それも含めて保管していきます」と谷合さん
「だから、箱ごとに内容量が全然違う。箱を開けたら紙ペラ1枚のときも。上にある箱は軽いものにしたいですね。これは重いから……ほかのものと交換かな。これだけ量があると、評価選別して廃棄するものも出てきます。未来に何を残すか。それも私たちの大事な仕事のひとつ」
棚から引っ張り出された長細い箱のなかには、手書きの要望書が。1959(昭和34)年、大阪府立旭高等学校の校長に向けて、同校の教師から宛てられたものだという
1958年、教職員組合を中心に全国的に展開された「勤務評定反対闘争」。公選制から任命制に変わった教育委員会制度のもと、教員の勤務評定が強行され、教職員のなかに分断を生んだことがきっかけとなる
「この要望書、普通は文部省に宛てるところを、校長先生に向けて『職員会議が開かれない』『校長の性格が悪い』などの抗議をしている。ひと言で言えば、校長の性格が悪いからどうにかしてくれという(笑)。勤評闘争のなかにも、こういった活動もあったという資料ですね」
要望書は校長室前の廊下に張り出されていたため、教師だけではなく生徒も内容を見ていたのだという。また、日常的に教師が朝の校門で抗議をしていたことを示す資料や、それを見ていた生徒の感想文なども、当時、教師だった方の提供により保管されている
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同じく、長筒のなかから出てきたのは、手書きの日本窒素肥料株式会社水俣工場俯瞰図(複製)。工場の配置だけでなく、周辺にある水俣駅や河川などの記載も。原本は水俣病センター相思社が保管
「これは1984年に、鬼塚巌(おにつか・いわお)さんという、水俣病の原因企業の元労働者の方が、水俣で起きた公害問題のことを『忘れたらあかん』と、図に書き出したというもの。1943(昭和18)年4月から1945(昭和20)年春にかけての自身の記憶をたどる、すさまじい内容です」
「鬼塚さんは大変な記録魔だったのでしょうね。当時、使用していた工具品名がずらっと並んでいたり。また、ご自身で水俣の記録写真も撮影されていて、『おるが水俣』(現代書館、1986年)という本に、この俯瞰図だけでなくいろんな資料が収録されています」
整理された資料がきっちりと収まっている棚もある。当時の民社党の大阪事務所にあった資料だ。選挙関連の会議や活動に関わるものを、書記局の方がすべて残しており、それを譲り受けたとのこと
「横山ノックさんといえば、芸人から大阪知事になった人ですが、知事のときにセクハラで訴えられて辞職しました。この資料は知事になる前のものですが、こういった記事のコピーも細やかに保管されているんです」
民社党の支持母体である「全日本労働総同盟大阪地方同盟」発行のかべ新聞『大阪同盟』(1983年)
「これは、横山ノックさんの街宣車をまわすルートが書かれた地図。大阪は一方通行が多いので、うまくやらないと効率よくまわれない。あと、面白いのが通天閣で昼食のたこ焼きを食べることも記述されています。こういったパフォーマンスの跡も、こと細かに残されているんです」
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「1935年頃につくられた日本労働総連盟映画従業員組合本部の旗。これは映画館ごとに組織された労働組合で、誰が組合長だったかというと、当時のカツベン(活動写真弁士)なんですね。サイレント映画からトーキー映画へと変化していく1930年代、カツベンや楽士は仕事を失っていく。どんどんクビになるから、労働組合をつくり抵抗していたわけです」
保護ケースのなかには、手紙や名刺、メダルなどさまざまな資料が保管されている
そのなかのひとつに古いパスポートがあった。「神戸の久留弘三(ひさとめ・こうぞう)さんという方のものです。紙面には『英国、蘭国、ベルギー、スイス、および米国、以下余白』と手書きであって、これは記載の国のみ渡航を許す、というもの。何の目的で渡航したかというと、スイスのジュネーブで開かれる国際労働機関の総会にオブザーバー参加するためです」
「1枚のパスポートだけではその奥にある情報はわからないから、いろんな資料や当時の新聞記事を読んで解読していく時間が必要です。さきほどのパスポートの持ち主はインテリで、著書も残していたからそういうのを読んだり」
「これは約100年前、藤永田造船所の労働争議で当時の労働組合が工場所長に宛てたものです。最初『嘆願書』を渡して、それが蹴られたから次は『要求書』。中身はほとんど一緒なんですが、要求書のほうが字に勢いがある(笑)」
「現代は労働組合団体交渉権が憲法で保証されているんですが、当時はそもそも交渉のルールがないので、労働組合側も猛烈なことをたくさんしていたりします。会社重役の家に鳥の生首投げ込んだり(笑)」
「1959〜1960年の三池争議で全国から動員されてくる労働組合員に配られた『お土産』の意味もあった、ホッパー・パイプです。護身用に持っていたんですよ。これで人を殴れるんですけど」
「ゲバ棒だと、警察に捕まるから、棒の中心に穴を開ける。そうしてタバコを吸うためのパイプですよ、という体にするんですね。ただ、いざ決戦のときには先端を削ってピンピンにしていたという……恐ろしい逸話も残っています」
1933年、現在の中之島公園で行われていたメーデーの練習風景。市バスや路面電車の運転士、女性車掌(バス・ガール)などが参加していたという
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PHOTO REPORT|エル・ライブラリー

書庫巡りも半ば、施錠の時間もあって閲覧室に戻る。

先人たちがこれまで大小さまざまな工夫を凝らし、生きるために抗ってきた痕跡を、資料のなかから感じ取っていくようなツアーだった。最後、谷合さんに質問をしてみる。そもそも、なぜ『大阪社会労働運動史』を編纂することになったのか。

「1978年、最初に編纂しようと思った人たちは、実際に戦前期を生きてきた人たち。戦前・戦中の、弾圧・戦火を生き延びた自分たちが、自分たちの歴史を後世に残したいと思いはったんですね。そこを出発点にしているというのが大きい。私は、最初に協会へバイトに来て40年経ちますが、今になってやっと自分の使命みたいなものがわかったというか。『あ、これを引き受けなあかんねんなぁ』って」

PHOTO REPORT|エル・ライブラリー
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この場所に拠点を移して15年。「図書館」という場所の可能性についても聞いてみた。

「みんなが集えるし、助け合えるし、知恵を出し合える。生きていくことがしんどかったらどうしたらいいかを考える場所。まぁ、直接の解決にはならないかもしれないけれど。だから、100円入れたらすぐ缶コーヒーが出てくる世界じゃなくて、今日も100円、明日も100円、その先もずっと入れていったら、10年後にきっと違うものが見えてくる。そのくらいの長いスパンで図書館やその活動を考えていくしかない。それは教育や文化もそうでしょう。

大阪市には昔、関一という首長がいて、100年後のことを考えて大阪に地下鉄をつくったという有名な話があります。次代のことも考えるって、これはほんまに知恵がいるなと思いますわ。前の世代が何をしてきたかをちゃんと知らないといけない。その中継に、私たちが立ってるんだなぁと思っています」

PHOTO REPORT|エル・ライブラリー

谷合佳代子 / Kayoko Taniai

1982年、財団法人大阪社会運動協会(社運協、2012年より公益財団法人)にて資料収集のアルバイトを開始。2000年、大阪府の委託により大阪府労働情報総合プラザの運営開始(社運協の非公開資料も公開可能に)、2008年、橋下徹知事による社運協への補助金全廃、労働情報総合プラザの廃止が決定。同年10月、エル・ライブラリー開館、館長就任。2013年「第15回図書館サポートフォーラム賞」受賞、2016年「Library of the Year 2016 優秀賞」受賞。

https://shaunkyo.jp/

エル・ライブラリーの今後の催し

 

「スクリーンに息づく愛しき人びと 熊沢誠さんと映画を語る会」

日時:2022年10月29日(土)13:30~16:30

開場:13:00

会場:エル・おおさか(大阪府立労働センター)本館5階 研修室2

講師:熊沢誠

司会:日比野敏陽(京都新聞記者)

資料代:500円(カンパ歓迎)

定員:50人

申込:https://shaunkyo.jp/contact/

 ※問合ページにて、お名前、メールアドレス、本文に「映画の会申し込み」と記載

 

「晴野まゆみさん講演会 日本初のセクハラ裁判から30年」

日時:2022年10月25日(火)18:30~20:30

開場:18:00

会場:エル・おおさか(大阪府立労働センター)606号室

参加費:1,000円(資料代込み)

定員:70人

共催:晴野まゆみさん講演会実行委員会、エル・ライブラリー

申込:https://shaunkyo.jp/contact/

 ※問合ページにて、お名前、メールアドレス、本文に「晴野さん講演会申し込み」と記載

 

「ウクライナ南部のいま 戦時下の子どもと女性たち」玉本英子現地取材報告会

日時:2022年11月11日(金)19:00~20:30

開場:18:30

会場:エル・おおさか(大阪府立労働センター)701号室

参加費:1,000円(資料代込み)

定員:30名

主催:玉本英子さんとジャーナリズムを考える会実行委員会

後援:エル・ライブラリー

問合・予約:https://l-library.hatenablog.com/entry/2022/09/24/175844

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