2022年9月初旬、京阪線・谷町線「天満橋」駅を降りて徒歩5分ほどの、エル・おおさか4階にある「エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)」を訪れた。公益財団法人大阪社会運動協会が運営し、広く大阪の「労働」「社会運動」に関する資料をアーカイブ、一般に貸出など(要会費)も行っている私設図書館だ。
エレベーターを上がって正面奥に進むと、開かれた扉の奥に閲覧室が見える。入口には運営の費用にあてるため、寄付で得た本やCD、キーホルダーから食器までさまざまなものが売られており、左手に雑誌類の面出しが、奥には書架が並ぶ。「こんにちは〜」と声をかけると、受付にいた谷合佳代子(たにあい・かよこ)館長が応えてくれた。
この日、書庫にある貴重な資料を見せてもらうため、谷合さん解説による見学ツアーをお願いしていた。夕方に開始した書庫巡りは、閉館時間を超えて夜にまで及んだ(感謝)。膨大な量の資料に圧倒されつつ、それを語る谷合さんの熱量にぐいぐいと引っ張られていく、濃密な時間となった。
最初に、エル・ライブラリーの成り立ちとこれまでを谷合さんの言葉とともに紹介したい。
エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)を設置運営する公益財団法人大阪社会運動協会は、1978年設立。『大阪社会労働運動史』の編纂を目的に、大阪の社会運動史に関する資料を収集してきた。2000年からは大阪府の委託を受け、「大阪府労働情報総合プラザ」(以下、プラザ)を運営するも、2008年に就任した橋下大阪府知事の財政改革によってプラザは廃止され、補助金もすべて打ち切られることになる。
「本当に大きな転機でした」と谷合さん。「蔵書をどうするか。運営費をどう確保するか。私ひとりだけでもボランティアで残って、資料を引き取ってくれるところを探そうかとか。いろんな可能性を模索しながらも、給料1円も出されへんと思うし、半ば存続を諦めかけていました。そのとき、今も一緒に働いている館長補佐の千本沢子(ちもと・さわこ)と腹を割って話をして。今は世間も私たちに注目して署名運動などに協力してくれるけれど、時間が経てば経つほどどうしたって忘れられる。なるべく早く新たに図書館をつくって、回していかないと資料を守られへん。だからやろう、頑張ろうって千本が言ってくれました」
そうして、廃棄される運命にあったプラザの蔵書約17,000冊と、大阪社会運動協会の蔵書・資料を統合し、次世代へと引き継いでいくための私設図書館設立に向け準備。2008年10月21日、多くの個人・団体の支援によって、エル・ライブラリーが開館した。「今年で15年目。常勤スタッフは私と千本だけだから、本当に、市民のみなさんのボランティアと寄付でここまで支えられてきたんだなと。感謝しかないです」
ここからはツアーの様子を写真とともに紹介する。キャプションに谷合さんのコメントを併記しているので、参考までに。なお、この日にまわることができたのは6つある書庫のうち4つのみ。未整理の資料も多く、今回紹介するのは氷山の一角と思って見ていただきたい。
書庫巡りも半ば、施錠の時間もあって閲覧室に戻る。
先人たちがこれまで大小さまざまな工夫を凝らし、生きるために抗ってきた痕跡を、資料のなかから感じ取っていくようなツアーだった。最後、谷合さんに質問をしてみる。そもそも、なぜ『大阪社会労働運動史』を編纂することになったのか。
「1978年、最初に編纂しようと思った人たちは、実際に戦前期を生きてきた人たち。戦前・戦中の、弾圧・戦火を生き延びた自分たちが、自分たちの歴史を後世に残したいと思いはったんですね。そこを出発点にしているというのが大きい。私は、最初に協会へバイトに来て40年経ちますが、今になってやっと自分の使命みたいなものがわかったというか。『あ、これを引き受けなあかんねんなぁ』って」
この場所に拠点を移して15年。「図書館」という場所の可能性についても聞いてみた。
「みんなが集えるし、助け合えるし、知恵を出し合える。生きていくことがしんどかったらどうしたらいいかを考える場所。まぁ、直接の解決にはならないかもしれないけれど。だから、100円入れたらすぐ缶コーヒーが出てくる世界じゃなくて、今日も100円、明日も100円、その先もずっと入れていったら、10年後にきっと違うものが見えてくる。そのくらいの長いスパンで図書館やその活動を考えていくしかない。それは教育や文化もそうでしょう。
大阪市には昔、関一という首長がいて、100年後のことを考えて大阪に地下鉄をつくったという有名な話があります。次代のことも考えるって、これはほんまに知恵がいるなと思いますわ。前の世代が何をしてきたかをちゃんと知らないといけない。その中継に、私たちが立ってるんだなぁと思っています」
谷合佳代子 / Kayoko Taniai
1982年、財団法人大阪社会運動協会(社運協、2012年より公益財団法人)にて資料収集のアルバイトを開始。2000年、大阪府の委託により大阪府労働情報総合プラザの運営開始(社運協の非公開資料も公開可能に)、2008年、橋下徹知事による社運協への補助金全廃、労働情報総合プラザの廃止が決定。同年10月、エル・ライブラリー開館、館長就任。2013年「第15回図書館サポートフォーラム賞」受賞、2016年「Library of the Year 2016 優秀賞」受賞。
エル・ライブラリーの今後の催し
「スクリーンに息づく愛しき人びと 熊沢誠さんと映画を語る会」
日時:2022年10月29日(土)13:30~16:30
開場:13:00
会場:エル・おおさか(大阪府立労働センター)本館5階 研修室2
講師:熊沢誠
司会:日比野敏陽(京都新聞記者)
資料代:500円(カンパ歓迎)
定員:50人
申込:https://shaunkyo.jp/contact/
※問合ページにて、お名前、メールアドレス、本文に「映画の会申し込み」と記載
日時:2022年10月25日(火)18:30~20:30
開場:18:00
会場:エル・おおさか(大阪府立労働センター)606号室
参加費:1,000円(資料代込み)
定員:70人
共催:晴野まゆみさん講演会実行委員会、エル・ライブラリー
申込:https://shaunkyo.jp/contact/
※問合ページにて、お名前、メールアドレス、本文に「晴野さん講演会申し込み」と記載
「ウクライナ南部のいま 戦時下の子どもと女性たち」玉本英子現地取材報告会
日時:2022年11月11日(金)19:00~20:30
開場:18:30
会場:エル・おおさか(大阪府立労働センター)701号室
参加費:1,000円(資料代込み)
定員:30名
主催:玉本英子さんとジャーナリズムを考える会実行委員会
後援:エル・ライブラリー
問合・予約:https://l-library.hatenablog.com/entry/2022/09/24/175844