おやつを食べるときみたいにサクッと、作品をつくったり、交流したり、見せられたりする展示会があったらいいな。そうした想いから生まれたイベントが「SNACKS」だ。2016年にスタートしてから、毎年定期開催されている。
2024年9月7日(日)に株式会社ZIZOオフィスの芝生スペースで開催された「SNACKS Vol.6」に足を運んだ。“デジタル・メディアアート作家たちの小さな作品展”という説明文が手渡されたDMに書かれていたが、内容は想像力を大きく広げた、ユーモアに富んだものだらけだった。
主催は、インスタ部。大阪・京都を中心に関西で活動するデジタル・インスタレーションをつくるコミュニティで、Webプログラマーやアプリ開発、デザインディレクター、デザイナーとして働いている社会人や学生たちが参加している。
SNACKSは、習作やプロトタイプ、日々の研究や勉強から生まれた成果物など、小さな創作のかけらを持ち寄って発表する展示会だ。メディアアートやインタラクティブ・アートなど、コンピューター技術やデジタルメディアを駆使して、ヒト、モノ、コトの新しい関係を表現し、思考することに重きを置いた作品展示が行われている。ちなみに今回で6回目となるが、主催メンバー以外の作家は回ごとに入れ替わっており、新陳代謝を繰り返しているという。
こちらはZIZOさんによる作品《BREAK THE FOURTH WALL》。iPadに表示された映像が、風や声などの刺激を感知して、こちらに反応してくる。この場合は、髪型を整えている人に扇風機で風を送ると、髪が乱れて怒られるという流れ。動画で見せられないのが悔しい!
続いて、ミウラセナさんの作品《不潔な認知》。VRゴーグルをつけると、目の前にいる人にくしゃみをされ、それと同時に水がかかる。「自分自身が同じ体験をしたことがあって、感じた不快感をそのまま作品にしました」とミウラさん。
京都精華大学電子工作部とインスタ部との共作《typo 筋-terface》は、ゲームのコントローラーを、筋トレ運動で操作するという作品だ。ダンベルやバランスボールに装具をつけることで、反応するという仕組み。否が応でも運動してしまう。「運動不足だからつくってみました」と制作者である京都精華大学メディア表現学部4年の平山さんは言う。
大西拓人さんによる《赤外線リモコンの信号を身体性を伴って再現する》は、リモコンのオン/オフが赤外線で行われていることに着想を得た作品。赤外線はバーコードを読み取ることでデジタル信号に置き換わり、オン/オフを命じて切り替えている。この作品はその信号を鑑賞者の手やつげくし、3Dプリントされたスリットなどを用いて再現しようとする展示だ。
木村彰秀さんによる《Moccori》は、石(もどき)を押すと、モニターの画面がモニョモニョ動いて音が鳴る。木村さんによると「もっこり」の音らしい。
ほかにもまだ展示されていたが、どれもくすっと笑えるような作品が多かった。凝りに凝ったというより、試してみた、という言葉がぴったりくる。
インスタ部の活動は年2️回で、今回の「SNACKS」と「HOMEWORKS」がある。後者はインスタレーションがメインで作品規模も大きくなる。SNACKSでプロトタイプを出してみて、「HOMEWORKS」にブラッシュアップした作品を出す、という流れで制作をしている作家もいるそうだ。もともと「HOMEWORKS」だけだったが、作品を出しにくいという声があったため、もっと気軽に発表できる場として「SNACKS」が誕生したという経緯だ。
「プログラマー界隈の展示会と言えば、メーカーフェアなどが挙げられます。それよりも一度つくってみて人前に出してからブラッシュアップできるような、余白のある場を目指しています。個人でデジタル・インスタレーション作品を発表するのは、ハードルも高いので、それならみんなでやればいいじゃん!というスタートでしたね」とhoehoeさん。毎年テーマはあえて決めないスタイル。作家たちがそのときにやりたいものを、自由に表現できるようにするためだ。
現在東京で働いている佐々木さんは、イベント主催の動機について、この場でしか得られない栄養があると語る。「仕事のクリエイションでは、プロジェクトごとに目標や条件を見据えアウトプットしていきますが、ここでは自由につくれるので、単純に楽しいです(笑)。こういう発散が結構大事だと思っていて、その体験が仕事でのクリエイションに生かされることもあります」
大阪で開催し続ける意味について、大西さんは「東京には発表の場所も機会もあるから」と語る。「大阪にはこういったデジタル・インスタレーション作品を見せられる場がないから、やる意味がある気がしています。定期的に開催してきたことで、コミュニティとしても徐々に育っていますし、インスタ部は所属というより、共同体みたいなイメージ。ゆるくつながって刺激し合える、そんな場になっています」
16時から閉場までは交流会「スナックタイム」の時間。その名の通り、スナック菓子をつまみながら缶チューハイを片手に、談笑がはじまっていた。名刺を交換し合うというより、個性あふれる作品を出展者同士がそれぞれに体験しながら、自己紹介がてら盛り上がるといった感じだ。「今後は、府外を含めほかの地域でもやってみたい」と主催者たちも楽しそうに話していた。
肩ひじを張らない雰囲気が、このイベントの最大の魅力に感じた。長く続いてきたからか、受け皿の広い安定感もある。プログラミングやデジタル系のお仕事をされている人、自分なりの表現を自由に模索したい人は、なんだか余裕のある、インスタ部という場を利用してみてはいかがだろうか。発表するまでの過程のなかで、きっとものづくりを楽しむ気持ちが解放されていくはずだ。
日時:2024年9月7日(土)12:00〜19:00
会場:ZIZO 3F 芝生スペース
次回のイベント開催
HOMEWORKS 2024
日程:2024年12月21日(土)、22日(日)
会場:Blend Studio