パーティーは失われている。私たちの生活からパーティーに類するものが失われてしまった。人々の意識の変化は驚くほどに早く、もう二度とああした濃厚接触のひとときは還ってこないのではないかという気さえする。いや、むしろ人生にそんなものが無かったとしても、平穏に過ごしていけるのではないか。無駄で不要不急、その最たるものであるパーティーとは、その意義とは、何だったのだろう。
建築家ユニットdot architectsとアーティストユニットcontact Gonzoはパンデミック開始以来、2年をかけてこのパーティーをめぐる問いに取り組み、その探求の成果をアートエリアB1で「GDP(Gonzo dot party)」として発表した。1年目の2020年には、パーティーなるものの概念を探り、輸送や物流、貨幣といった経済システムへの考察を結びつけて、展示会場でパーティーを9回実施している。だがそれは、会場でたくさんの人を動員するいわゆるアートイベントではなかった。来場者は、彼らのパーティーの痕跡がありありと残る人気のない会場を目撃した。狂乱の夢から醒めた廃墟のような展示である(またオンライン上では会場の定点カメラから24時間ライブ配信され、パーティーへの到達不可能性が時間と距離の二側面から示されることとなった)。
実にそこで試みられていたのはパーティー概念の抽出実験らしく、20世紀前半のシュルレアリストの思想家・ジョルジュ・バタイユの普遍経済学を参照した非合理な行いの数々だ。
「経済合理性や生産消費の範疇に収まらない蕩尽・祝祭・芸術などが、人間の生の全体性、有用性に従属しない至高性を回復する活動として位置付ける」(バタイユ『呪われた部分-普遍経済学の試み』)
お金の音を聞く、刻んだ丸太を判型にしてオリジナル貨幣(「パーツィー」)を制作するファクトリーをつくる、パーティーをストライキしてあらゆることに「NO」を唱える……こうしたダダ的身振りのパーティーは、contact Gonzoの普段のパフォーマンスに通じているかもしれない。というよりも、彼らの活動とはそもそもパーティーだったのではないか。喪失に気づいて身震いをしても”接触”は取り戻せない……私たちは本当に、このままパーティーを失ってしまうのだろうか?
「GDP」は、そうはさせない。2年目となる今回の展示において、彼らはパーティー概念の宇宙保存計画を目論む。それが「ギャラクティック運輸の初仕事」である。上場企業となったdot architectsが設立した新会社「ギャラクティック運輸」は、京阪電車の中古車両を宇宙船に改造し、contact Gonzoのメンバーも乗組員に迎え、地球上で失われつつある概念=”パーティー”を箱に詰めて、はるか宇宙の彼方で保全するためのミッションを遂行する(最近の富豪って宇宙を目指しがち?)——という壮大なあらすじ。この思考実験を基にした映画撮影が、今回のプロジェクトらしい。
展示期間中は、会場に映画のセットがつくられて撮影が行われ、すぐさま編集された映画が会期後半にその会場で上映された。この驚異的な段取りからもわかるように、物語はあれど、いわゆる(「映画」を目的とした)劇映画ではなく、映画制作という行為自体に本質があるようだ。ゆえに、撮影や編集にも専門スタッフを迎えずメンバーのDIYで映画がつくられており、絶妙にローファイな特撮が笑いを誘う(とはいえDIYの域を超えていて、純粋に映画として見ても興味深いクオリティ)。またしても本展の中心にあるのは映画撮影という行為が行われた痕跡であり、それは前年のパーティーの痕跡展示と同じ構造なのである。
行為と痕跡、そして映像(複製技術)。戦後の美術においてたびたび取り沙汰されてきたこれらのテーマの総合体に、私たちがパーティーを伝えていくための方策がある気がしてならない。というのは、アートエリアB1からさほど遠くない国立国際美術館で「ボイス+パレルモ」展が行われていたから。こちらの展示の冒頭では、ヨーゼフ・ボイスの伝説的パフォーマンス《ユーラシアの杖》の映像と、パフォーマンスで用いられた長い柱と杖の同名作品(1968/1969、日本初展示)が象徴的に並べられていた。映像中のボイスの振る舞いや表情から、またその構図から、このパフォーマンスは映像化して残されることを念頭に行われたものと推測される。アクションの巨匠は、記録(映像)と痕跡(用いられた物品)をたくみに駆使してそのレジェンドを補強してきたとも考えられないだろうか。
「GDP」に話を戻すと、彼らがパーティーを保存するために映画を制作した理由とは、その痕跡に伝説を付与することだったと言えるかもしれない。物語を伝える映像とその痕跡によって、行為(パーティー)を伝達する。上手く保存していくためには3つの要素が揃うことが重要であり、なかでも物質的媒介である痕跡が欠かせない。やがてその遺物に、どこかの誰かが出会うとき、保存されたパーティーが発芽するだろう。「奪われた想像力を取り戻すためのフィジカルな出会いこそがパーティーなのである。」(家成俊勝「ギャラクティック運輸についての一つの考察」より)
参考:「GDP THE MOVIE~ギャラクティック運輸の初仕事」特別パンフレット(アートエリアB1、2021)
はがみちこ / Michiko Haga
アート・メディエーター。1985年岡山県生まれ。2011年京都大学大学院修士課程修了(人間・環境学)。『美術手帖』第16回芸術評論募集にて「『二人の耕平』における愛」が佳作入選。主な企画・コーディネーションとして「THE BOX OF MEMORY-Yukio Fujimoto」(kumagusuku、2015)、「國府理「水中エンジン」再制作プロジェクト」(2017〜)、菅かおる個展「光と海」(長性院、Gallery PARC、2019)など。京都精華大学等にて非常勤講師。浄土複合ライティング・スクール講師。
鉄道芸術祭 vol.10「GDP THE MOVIE〜ギャラクティック運輸の初仕事〜」
メインアーティスト:contact Gonzo(アーティストユニット)、dot architects(建築家ユニット)
会期:開催中〜2022年2月27日(日)
会場: アートエリア B1
時間:12:00〜19:00 *映画上映:13:00/15:00/17:00(上映時間 約90分)
休館 : 月曜日(祝日の場合は翌日)
料金:無料
主催:アートエリア B1【大阪大学+NPO法人ダンスボックス+京阪ホールディングス株式会社】
問合:06-6226-4006
大阪市北区中之島1-1-1
京阪電車なにわ橋駅B1F