
近況が気になるあの人に「最近どう?」という軽い気持ちで、声をかけていく本企画。第30回は、九条に書店「MoMoBooks」を構える松井良太さん・桃子さんです。聞き手は、京都で出版社・書店「烽火書房/hoka books」を営む嶋田翔伍さん。同業者の目線から、お店のあり方・運営についてお聞きしました。
大阪メトロ九条駅から徒歩5分、築70年余の長屋にMoMoBooksはある。1階に書棚があり、2階は展示やイベントのスペース。松井良太さんと桃子さんのふたりが2023年3月に開いた新刊書店だ。ほど近くにはミニシアターのシネ・ヌーヴォや大衆演劇場の九条 笑楽座もあり、このまちに住む人やよく通うカルチャー好きにとっては待望のオープンだったかもしれない。
筆者も、おふたりの人柄と空間に惹かれ何度も同店に通っている。同じ書店主としてブックマーケットでもよく顔を合わせているが、こうしてじっくりお話しするのははじめて。オープンから3年が経過したMoMoBooksのふたりに、開店当時のことから最近の事柄まで、たっぷり伺ってみた。

オープンな場所をつくる
——さて、最近どうですか? 春はブックイベントが数多く開催されていますが、今年はどんな感じでしたか。
松井良太(以下、松井):6月にエースホテル京都であったイベント「Queer Book Fair」に出させてもらいました。東京のLoneliness Booksさんが主催で、京都の本屋メガホンさんを通じて声をかけていただいて。
ただ、この春全体で言うと出店はそんなに多くないんですよ。声をかけてもらっても、うちでやるイベントと日程がかぶってしまったりして。いつも申し訳ないなと思いながらも、店のことで手一杯、という感じでしたね。
——店のイベントで立て込んでいたんですね。企画は松井さんから打診することが多いんですか?
松井:こちらから声をかけるものと、出版社さんや著者さんから「そちらでやりたい」と連絡をもらうものと、両方ちょっとずつ増えてきていていますね。最近だと、持ち込みで漫画家さんのサイン会が続きました。3年半やってきて、やっとちょっとずつ知ってもらえてきたかな、という実感はなんとなくあります。
——オープンのときからいろんなところでお店の名前を聞いていたので、知名度が高いように感じていました。
松井:いや、全然そんなことないんです。場所が場所なので、通りすがりで入ってくる人はなかなかいない。店をはじめたばかりの頃はお客さんがまったく来ない日もありました。それが最近は、「関東でお店を知りました」とか「SNSをずっと見てました」とか、府外から来てくれる人も増えて。これはすごく嬉しいですね。
——在庫数も、この3年半でずいぶん増えたんじゃないですか?
松井:そうですね。今年3周年のイベントで、昔の写真を見る配信をしたんです。それで写真を漁っていたら、オープン当時は冊数も少ないし仕入れる本もその並べ方も全然違う。自我が強いというか、まだ青かったな、と思いました(笑)。
——せっかくなので、その「青かった」という頃まで時間を巻き戻して聞きたいんですけど、そもそも本屋をはじめられた経緯はなんだったんですか?
松井:もともと僕も桃さんもトークライブハウスで働いてたんです。でも、イベントを毎日やって生計を立てるのって、しんどいんですよ。毎日がハレの日じゃないとあかん感じで。そこにコロナがきて収入がストップした。やっぱり、収入口がひとつしかないのはきついよなと実感しましたね。そんななかで配信をはじめたら、観てくれる人も増えて、こっちもやり方を覚えていった。これやったら会場の広さみたいな物理的な制限を超越できるし、チケットもいくらでも出せるから、自分たちでもできるんちゃうかと。それで、前職を2020年末に辞めました。
——ライブハウスから本屋って、少し距離がある気もしますけど。
松井:ライブハウスって、ファンの方がチケットを買って観に来るクローズドな場所で、その閉じている感じはすごく好きやった反面、もうちょっと誰でも入ってこられる商売をやってみたいとも思っていたんです。極端に言えば、スーパーとかもいいんじゃないかと。
——たしかに、たいていの店は入ったら何かしら払わないといけないけれど、小売店は入って出るだけでもいいですもんね。
松井:そう、涼みに行くだけでもいいしね。そういう商売っていいよなと。本は本で前の仕事とも近い領域にあったし、人並み程度には読んでいたので、できるかもしれないなと。ただ、イベントはやれるだろうと思っていたけど、本屋と名乗るなら本にちゃんと向き合わなあかんよね、というのはあったので、そこはすごく不安でした。だから1年ほど大型書店でバイトもして、勉強しましたね。
松井桃子(以下、桃子):場所をつくるのは面白そうやし、場所さえあればなんらかできそうやなという感覚はありました。でも、それで食べていけるのかという心配も大きくて。経験もないし、思いつきでできるものではないやろうと。1回やってみてダメだったらやめよう、みたいな感じでしたね。
——潔い(笑)。物件はどうやって見つけたんですか?
桃子:最初は商店街のなかで探していたんですけど、ちょっと高くて手が出なかった。それで探し続けていたら、たまたまここの大家さんと知り合って。
松井:商店街にずっと唾をつけてた物件があったんですよ。2階にも住めるし、めっちゃいいなと思っていて。でも、カレー屋さんが入ってしまった。今でもそこでカレーを食べながら「ほんまは俺らが入るはずやったのに」って(笑)。
自分たちの悩みから本を選ぶ
——選書の雰囲気も、この3年半で変わってきたように見えますね。
松井:お客さんのことがわかるようになってきたのが大きいと思います。最初は、展示でもイベントでも本の並べ方でも、こちらから提示するしかない。でも、続けていくうちに、来てくれた人が「こういう本が欲しい」と教えてくれるようになったんですね。たとえばこの辺のマンションの若いご家族に「絵本はありますか」と聞かれることが多くて、絵本の棚もオープンしてからつくったんです。それまで絵本の需要なんて知らなかったんですよ。新刊情報を見ていて「これ、あの人買うかな」と顔が思い浮かぶこともあります。
——棚を眺めていて、危険生物の図鑑のような実用性のある本が置いてあるのも少し珍しいなと思いました。インディペンデントな書店では、紙の質感や造本そのものに意匠を凝らした質感の本がよく置いてあるので。
松井:棚って一部で成り立つものじゃなくて、全体なんですよね。そのなかで幅をもたせたいという感覚があるので、そういうものも入れたりします。こんなことを言ったら怒られるかもしれませんけど、ZINEと一般流通の書籍もわりと同列に考えていて。買う人は「ZINEだから買う」わけでもないんじゃないかと思うし、書籍も今や全然重版がかからないこともある。出会える場所って本当にその場しかないので、その場でピンときたときに、ZINEか書籍かどうかは関係ないのかなと。
——選書の軸みたいなものって、あるんですか?
松井:自分が何かを面白そうやなと思う感覚は、たぶんずっと変わってない。あとは、今、何が必要とされているかを考えることが多いかもしれません。ニュースで社会問題のトピックを見ていて、「これに答えられる本ってなんかあるかな」と探す。イランによるホルムズ海峡封鎖のニュースが出たときは、流通のことが気になって、コンテナ船の物流について書かれた本を仕入れたり。別に新刊でもないし、海峡の話をしているわけでもないんですけど。

——ニュースで取り上げられるトピックそのままではなくて、視野を広げてくれる本。
松井:そうそう。「海峡が閉じるだけで状況が変わるんや、じゃあそもそも物ってどうやって運ばれてるんだろう?」って、自分が考えてしまったので。興味が出たら、つい探してしまうんですよね。
——もう何冊か注目されている本や雑誌を教えてもらえますか。
松井:東本願寺出版さんが出している雑誌『同朋』に、僕らはすごく食らったんです。去年知ったんですけど、「こんな雑誌があるんや」と。出版社の名前からすると仏教の専門誌っぽいですけど、現代社会に合ったテーマ設定、誰にインタビューするかなど、打ち出し方がすごいなと。この時代に雑誌としてまっすぐ取り組んでいるのがいいんですよね。今度うちでイベントもするんですけど、制作の裏側を僕が聞こうと思ってます。
——そこまで食らう雑誌があるっていうのが面白い。どのあたりに惹かれたんでしょう。
松井:印象に残ってるのは、「『男性』を生きることのこれから」という特集(2026年2月号)かな。いわゆるジェンダーを語る専門家じゃなくて、映画ライターの人なども記事執筆の面々に入っている。その幅の広さというか、見ている世界観がわりと自分たちにも似ているなと思いました。編集の方ももともとサブカルチャーがお好きだそうで、そういう切り口から今のいろんな価値観をどう取り上げていくか、というアプローチにシンパシーを感じるのかもしれません。
——専門分野からひらいていく感じは、この店の棚とも通じますよね。社会的なテーマの本や展示が多いのは、社会課題と向き合いたい、解決したいという意志があるからなんでしょうか。
松井:いや、そんなに大げさなことでもなくて、たぶん自分たちの悩みとつながっているんだと思います。男性性についてはずっと僕自身の悩みでもあるし、フェミニズムを知ってすごく肩の荷が下りた感覚もあった。あとは仕事を辞めて雇用形態が変わって、非正規ってこんなにしんどいんやとあらためて思ったとか。「なんで自分はこんなにしんどいんやろう」という実感が基本にあると思います。
——本が自分たちにとっての味方になるわけですね。選書にもその目線が生きています?
松井:そうですね。自分も知らないことが多いし、社会問題って知ることがはじまりやったりしますよね。だから専門書はあまり置いてなくて、入り口みたいな本が多いような気がします。人文書でも哲学書でも、自分が知らなかったことを最初に知るための一冊、というものを仕入れています。
桃子:問題って結構つながっているので。「これも同じ目線の本だな」って手に取っていくと、いろんな問題の関係性に気がついていくんです。
飛び道具としてのイベント、数珠つなぎのまち
——ところで、おふたりの役割分担は、どうなっているんですか。
松井:内装もビジュアルもほぼ全部、桃さんがやってくれていますね。店の真ん中にある棚も、サイズを測って手づくりして。僕は字が下手なので、ポップも書いてもらっています。SNSを見て来てくれるお客さんは、たぶん桃さんのビジュアルを見て、という方というのが多いので、そこはすごくありがたい。ライブハウスの頃からずっとチラシを担当していたので、イベントのビジュアルをつくるときも、タイトルと出演者だけでニュアンスをわかってくれるんですよね。
——自分たちで広報物をつくることができれば、経費も抑えられるし、コンスタントに開催されるイベントにもすぐ対応できますよね。
桃子:そうですね。あと、こんな場所なので、できるだけ入りやすくしたいという想いもあります。どうしても自分たちはどんくさいところがある。でも、それが入りやすさになってたらいいなと思います。

——緊張感のあるお店って、たしかにありますよね。
桃子:お店の側が意識して漂わせているものではないんでしょうけど、こっちが勝手に緊張感を覚えてしまうことがあるじゃないですか。それはできるだけもたせないようにしたい。2階もイベントのないときは、休憩がてらお茶を飲みに来てもらえるだけで全然いいので。このやり方が正解なのかどうか、私たちもわかっていないですけどね。自分たちでできることをやっている、という感じで。
——2階のイベントは、「月に何回はやりたい」という目標はあるんですか。
松井:イベントばかりをやりたいわけでもないよなとは、常に思っているんですよ。イベントをやると2階はクローズドになるし、こちらも手が回らなくなる。本屋の営業に多少差し支えるところもあるんですよね。土日に遠くから来てくれたお客さんが「今日は2階を見られないんですか」とおっしゃることも実際にあるので、土日にはあまりイベントを入れたくないと個人的には思っています。トークイベントも、チケットが売れても本が全然売れないと、それはそれで意味がないなとも思いますし。やっぱり本が売れたほうがテンションが上がる。本屋ですから。
——意外です。ご経歴もあって、イベントをかなりプッシュされていると思っていたので。
松井:やると疲れるけど、パワーももらうので嬉しいんですけどね。ただ、それだけとも言えないなと。イベントはあくまで飛び道具というか、本屋のなかのイベントとしてやりたい。とはいえ新刊が出て「この人ってどんな人なんやろう。面白そうやな」と思ったら自分たちから声をかけるし、逆に「MoMobooksでやりたい」とわざわざ連絡をくれる人がいたら、何かかたちにしたいなと思ってやる。本を仕入れている限り、常に新しい情報が入ってくるので、やりだすとキリがなくなるんですけど。
——映画について参加者が語り合う場「九条なまけもの会」も、ここで行っていますよね。
松井:シネ・ヌーヴォ支配人の山崎紀子さんとライターの木津毅さん、元シネマート心斎橋支配人の横田陽子さんが、「映画を観た人が集って、ゆっくり話をする場所があったらいいよね」という話をされてたらしくて。山崎さんはうちにもずっと来てくれていて、シネ・ヌーヴォにもMoMobooksの本を販売する棚を置いてもらっているので、じゃあここでやろうかとなったんです。
——展示の企画は、どのようにはじまったんですか。
松井:イベントのやり方はわかっていたけど、展示のやり方は全然知らなくて。最初は店でブックフェアを開いたことがきっかけで、近所の方が「こういう人がいるよ」と、パレスチナ戦争抗議ポスターの原画を持っている知人の方を紹介して、企画を持ち込んでくれたんです。それが「VISIT PALESTINE poster exhibition @MoMobooks パレスチナポスター展」でした。展示物の配置とか細かな展示方法もそこで学んで、具体的にイメージできるようになりましたね。あの経験は大きかったです。
桃子:いろいろやってきて自分たちの勉強にもなって、解像度が上がっていった感じがあります。展示を見てくれた方からの口コミで、万博のパレスチナ館で働いていた子たちが来てくれたり、京セラドームでK-POPのライブがあったときに、遠征で来た人が寄ってくれたり。
松井:企画をやるとき、僕らがその分野を100%知っているわけじゃないんですよ。開催することで、お客さんもそうやけど、僕らもすごく理解が深まる。「じゃあ次はもうちょっと違う方向でできるんちゃうか」と思える。お客さんが実は誰々の知り合いで、と数珠つなぎ的に縁ができていくことも多いですね。
——本屋ならではのつながりかもしれませんね。
松井:ほんまにそうですね。僕らももう7、8年は九条に住んでいるんですけど、近所の人のこと、全然知らなかったんですよ。
桃子:スーパーですれ違っていたかもしれないけど、おじいちゃんおばあちゃんとも、子ども連れのお母さんたちとも、そんなに関わらない生活をしていたので。
松井:生活者としては、わりと年配のまちやなという印象があったんですけど、本屋をはじめてみたら若い人が結構多いことに気づきました。アメ村まで自転車で15分なので、そっちで働いて生活はこっち(九条)という人も結構いる。クローズドじゃないことをやっていると、いろんな人が入ってきて「これありますか」と言ってくれる。本屋ってすごいなと、やりながらずっと思いますね。本屋に来る時点で、その人にとって大事なテーマとか、想いみたいなものがある気がして。
——最後に、今後やってみたいことも聞かせてもらえますか。
松井:うちでも本をつくりたいですね。本屋をやって、イベントもやって、次は書くこともやっていかなあかんなと。毎月、新聞みたいなものをつくりたいという話をよくしています。あとは、近所の人とZINEをつくろうかという話も。イベントで喋ることはよくしているんですけど、書くアウトプットってまた違うじゃないですか。上手い下手は別にして、それはしたいなと思います。
——本屋さんがZINEや本をつくることも増えてますもんね。
松井:必要なものが肌感としてわかるし、レジに立っているので、ここに置く分には全然浮かないものになるのかなと。九条に来られる方に「この辺でご飯食べるところないですか」とよく聞かれるので、そういうのも紹介できたら。はじめて来た人が、次にもう一回来てくれたら嬉しいですよね。

2026年7月15日(水)、MoMoBooksにて収録(取材:嶋田翔伍、鈴木瑠理子[MUESUM])
松井良太さん・桃子さんの最近気になる〇〇
飲み物=タカラ焼酎ハイボールドライお店が終わって家に帰るまで、ゆっくり歩きながら飲んでいます。今日あった出来事をふわふわ考えたり、京セラドームでのライブや野球帰りの人々の楽しそうな表情を見たりするのが好きです。帰りのスーパーで食材を買い、どんな晩御飯にしようかなあと考えたりもしています。晩御飯前にちょうどいい飲み物です(松井良太)
動物=亀
店でイシガメを飼っています。飼いはじめて1年くらい経ったある日、急に懐いてくれるようになりました。とても可愛いのですが、何を考えているかわからないところがあります。喜んでいるのか嫌がっているのか何がしたいのか、ついついこっそり眺めては時間を潰してしまいます(松井桃子)
営業時間:火〜日曜 11:00〜20:00(月曜日定休ほか不定休)
問合:[email protected]
大阪市西区本田4-9-13


