
2026年7月19日(日)、吹田市のRINEN SHOPで「大川家具製作所のためのチャリティーマーケット」が開かれた。2026年1月に火災で工場と事務所、機械や道具のすべてを焼失した大川家具製作所の再起を応援するため、「つづきをつくる実行委員会」が企画したイベントだ。
2009年に設立された大川家具製作所は、2011年に大阪府箕面市にショールームを構え、2024年に兵庫県三田市へ拠点を移した。火災が起きたのは、移転から1年あまりのことだった。奈良の設計事務所「ひとともり」の長坂純明さん、大阪の設計事務所「ninkipen!」の今津康夫さん、設計施工を行う建築チーム「Dept.」、金属加工を手がける「Atelier Tuareg」ら、大川家具製作所代表の大川修平さんと仕事やものづくりを通してつながってきた人たちが実行委員会を立ち上げ、工場の修繕や木工機械、道具の再調達に向けたクラウドファンディングをはじめた。
その活動と並行して、大川さんと縁のある作家やブランドが品物を持ち寄り、売り上げを支援につなげる2つのイベントも企画された。第1回は2026年6月28日(日)に奈良のNEW LIGHT POTTERYで、第2回は大阪のRINEN SHOPで開催。家具、建築、アパレル、植物、絵、陶器と、多彩なつくり手が集った。大阪で実行委員会の話を聞く前に、私は奈良の会場を訪れていた。

開場時間から30分ほど経ってNEW LIGHT POTTERYに着くと、入口からすでに人の多さが伝わってきた。目当てのブースへ向かう人、作品を抱えてレジに並ぶ人、馴染んだ顔を見つけて声を掛け合うつくり手たち。展示を見るときの静かな集中とは異なり、人の動きも会話も途切れない。場内には売り買いのにぎわいと、久しぶりの人に会えた喜びが混ざっていた。

「チャリティーイベント」と聞いて思い浮かべていた光景とは、少し違った。支援の必要性を説く言葉が前に出ているわけではない。好きな作家の作品を見たい人、応援している店やブランドに会いに来る人。それぞれが楽しみながら場に加わり、ものづくりを囲んだ祭りのようだった。
子どもと一緒だったため長居はできなかったが、会場で「tam(タム)」の椀を2つ注文した。加藤正基氏がデザインし、福井県のろくろ舎が制作しているもので、今回の取り組みに共鳴して特別に出品されたという。以前から気になっていた椀だった。オーダー品が届くのを待つ楽しみがあり、その買い物が少しでも大川さんの力に変わる。寄付をしたというより、欲しかったものを手に取る先に、別の循環が生まれているように感じた。
会場を出たあとには、小さな疑問が残った。大川さんを直接知らない人もいるはずだ。それでも、なぜこれほどの人が集まったのだろう。その答えを聞きたくて、約3週間後、大阪会場へ向かった。

午後2時を過ぎたRINEN SHOPには、奈良とは異なる時間が流れていた。入口のあたりで言葉を交わす人がいて、店内の各ブースでは、来場者とつくり手のやりとりがゆっくりと続いている。作品を見てすぐに次へ移るのではなく、その場に留まる人が多い。奈良で見たのが人の動きと熱量だとすれば、大阪で目に入ったのは、人と人の距離の近さだった。

ここで、実行委員会のメンバーにプロジェクトのはじまりについて聞いた。火災の知らせを受け、今津さんは現地へ向かい、Atelier Tuaregの岡崎裕司さんは「何か手伝えることはないか」と仲間に連絡を取った。長坂さんも翌朝には現地を訪れた。そして、大川さんと最初に交わしたのは、具体的な再建計画ではなく、「ものづくり、やめることはないよね」という言葉だった。
「どんな状況でも続けると思います」。大川さんの答えを聞き、「じゃあ、僕らに考えがあるから、やれることをやらせて」とプロジェクトが始動した。はじめからチャリティイベントというアイデアがあったわけではない。クラウドファンディングをどう進めるか、会場をどうするか、誰に声をかけるか。わからないまま相談し、それぞれができることを持ち寄った。
会場を用意する人、出店者へ連絡する人、グラフィックをつくる人、クラウドファンディングの方法を調べる人。役割を割り振るのではなく、それぞれが自分の領域でできることを持ち寄っていく。その積み重ねが、イベントのかたちになった。
実行委員会の意志は、やがて大川さんだけでなく「次の誰か」にも及んだ。工具や機械を扱い、屋外や工事中の現場で作業することもあるものづくりの現場では、火災だけでなく、事故や病気によって仕事の継続が突然危うくなる。ロゴを手がけた看太郎も、「誰かに何かあったときに助け合う」プロジェクトであり、「ひとりではないと感じられるように」と言葉を添えている。
長坂さんは、以前、身近なつくり手が資金繰りで苦労していたときのことを振り返った。「相談したらええのに、って思うんですよ」。状況を知れば、手を貸そうと思う友人はいる。少し笑いながら加えた。「勝手に潰れんといて」という言葉に、同じフィールドでものづくりを続けてきた相手との距離が表れていた。
助ける側と助けられる側を固定しないことも、このプロジェクトでは大切にされている。岡崎さんは大川さんに、集まったお金を工場の再建に限らず、もう一度はじめるために必要なことに使ってほしいと伝えたという。そして、今回を大川さんのための支援で終わらせず、今後、ものづくりをしている誰かに何かがあったときのモデルケースにしたい、と話したそうだ。

大川さんは当初、人前に立ち、自分のために支援を受けることへ戸惑いがあった。「こういうことって、あまり得意じゃないんです」。けれど、「次の誰か」へつながる取り組みだと聞き、「助けてもらおうって、素直に思いました」と受け止め方が変わった。イベントでは、面識のなかった同業者と話し、家具を納めた客から直接、応援の言葉を受け取る機会も生まれた。
プロジェクトでつくられたロゴは、同じような状況が生じたときにも使えるように考えられている。クラウドファンディングで利用したサービスやイベントの進め方も、次に動く人へ手渡していく。ただし、残そうとしているのは完成したマニュアルではない。
「かたちにすると硬直する」。今後について尋ねると、そんな言葉が出た。今回の方法を繰り返すのではなく、そのとき集まった人が、面白いと思える方法を見つければいい。「ヨットレースでもいいし、たこ揚げ大会でもいい」。長坂さんがそう言うと、話の輪のなかに笑いが起きた。誰かに何かがあったとき、「何する?」と集まれること。それが残ればいいという。
チャリティーという響きは、時に支援する側とされる側の距離をはっきりさせる。知らない誰かのために、自分はどこまで関われるのか。けれど2つの会場では、作品を買う、つくり手と話す、友人に会う、運営を手伝うといった個々の動機が、誰かの再出発につながっていた。
奈良で感じた“チャリティー”と異なる体感は、むしろこのイベントの特徴だったのかもしれない。大川さんを知らなくても、好きなつくり手を入口に参加でき、作品や時間、出会いを持ち帰ることができる。ものづくりを続けてほしいという想いが、売り買いや会話を通して行き来していた。
取材の終わりに、大川さんは「今度は、自分が助ける側になりたい」と話した。支えられた経験が、次に誰かを支える意志へ変わる。その言葉を聞くと、「つづきをつくる」という名前が、工房や家具づくりの再開だけを指していないことがわかる。人とのつながりが途切れず、立場を入れ替えながら先へ続いていく未来も、このプロジェクトがつくろうとしているものなのだろう。

本稿執筆時点で、クラウドファンディングは当初の目標金額に到達し、実行委員会は次のステップを検討している。工場の修繕や機械・道具の再調達には、なお時間がかかる。ロゴや進め方を次の誰かへどう手渡すかも、まだ決まっていない。それでも、火災の翌日に交わされた「ものづくり、やめることはないよね」という問いへの返事は、多くの人がそれぞれのかたちで応えはじめている。その先にどんな景色が生まれるのか。そのつづきは、これからつくられていく。
日時:2026年7月19日(日)11:00〜17:00
会場:RINEN SHOP



