
大阪・北加賀屋に2026年4月29日(水)、複合スペース「B.O.H.(Behind Objects & Humans)」がオープンした。1階にはギャラリーとショップ、2階には家具ストック、3階には大阪を拠点に活動するギャラリー・MUYOによる展示スペース「passage」が併設されている。日本各地でホテルや飲食店の企画・運営を行うStapleのクリエイティブチーム「Staple Studio」が手がけるこの場所では、家具やプロダクトの展示・販売に加え、国内外のデザイナーやアーティストによる企画展が開催されている。
私が最初にB.O.H.を訪れたのは、オープニング企画となった、1931年にイギリスで設立された合板家具メーカー・ISOKONによる「Forms Across Time (Products of Modernism)」展だった。

大阪には家具を扱うショップやギャラリーは数多くある。しかし、ひとつの家具ブランドに焦点を当て、その背景にある思想や歴史までを含めて体験できる場所は多くない。B.O.H.の展示室は約220㎡の広々とした空間。大物の複数の家具がゆったりと並び、モダニズム建築に根ざす意匠やブランドが歩んできた時間を読み解いていく展示を前に、「こんな場所が大阪にもできたんだ」と驚いたことを覚えている。
そして、第2回となる企画展として開催されたのが、ロサンゼルスを拠点に活動する家具・オブジェクトプロジェクト「WAKA WAKA」と、コンセプトスペース「iko iko」による「Between Two」である。

もともと家具倉庫だった建物は、その躯体を生かしながらギャラリーへと整えられている。倉庫らしいラフな空気を残しつつ、その内部には白壁が立ち上がり、展示空間としての輪郭をつくっていた。いわゆるホワイトキューブのような均質さではない。自然光が主役となる空間でもない。それでも、スポットライトに照らされた家具は静かに浮かび上がり、鏡面の展示台がプロポーションを映し返すことで、一脚一脚の存在感を際立たせていた。家具店とも美術館とも異なる距離感は、作品として眺めることもできるし、暮らしのなかに置かれた姿も想像させる。
最初に目を引いたのは、やはりWAKA WAKAを代表する「Cylinder Back Chair」だった。

WAKA WAKAを主宰する奥田慎一郎氏が長年向き合ってきたバルティックバーチプライウッドによるこのシリーズは、ブランドを象徴する存在でもある。木目や素材感を強く主張するのではなく、癖の少ない均質な合板を用いることで、フォルムそのものを際立たせる。そのミニマルな造形に、これまで何度も魅了されてきた。だからこそ今回、その印象の違いに自然と足が止まった。
見慣れたプライウッドの背もたれには、ヴィンテージのデッドストックファブリック。脚元は、小さなニットソックスを履いている。その愛らしい装いに思わず笑みがこぼれた。フォルムは変わらない。それでも、異なる色柄や素材感が加わるだけで、家具の印象は驚くほど変化する。これまでCylinder Back Chairにはどこかストイックな美しさを感じていたが、暮らしや人の気配が立ち上がり、誰かの生活に寄り添う家具の姿として映った。


展示された12脚には、それぞれ異なるデッドストックファブリックが用いられている。同じ図面から生まれた家具でありながら、一脚として同じ表情はない。
今回が初となるWAKA WAKAとiko ikoの協働では、既存のプロダクトをベースに一点ものの作品が制作された。奥田氏のパートナーであり、iko ikoを主宰するKristin Dickson-Okuda氏は、素材の質感や色彩、身体との距離感を大切にしながら活動を続けている。その感覚が重なることで、均質だった家具に、一脚ごとの個性や身体性が宿っていた。
展示タイトルの「Between Two」は、ふたりの協働を表す言葉だ。しかし実際に展示を見ていると、その「あいだ」にあるものは、人と人だけではないように思えてくる。デザインと素材。作品と暮らし。均質さと個性。家具は、その「あいだ」を行き来しながら、新しい表情を獲得していた。

展示を見終えたあと、あらためてB.O.H.についてStaple Studio・伴 恵里香氏に話を聞いた。この場所は、当初からギャラリーとして計画されていたわけではないという。きっかけは、Stapleがホテルで使用する家具やプロダクトのストックを保管するスペースを探していたことだった。ホテルづくりをともに進める千島土地株式会社から、この建物を紹介されたことを機に、新たな可能性が生まれた。

運営するStaple Studioは、日本各地でホテルや飲食店の企画・運営を行うStapleのクリエイティブチームだ。空間設計をはじめ、家具やプロダクト、フードメニュー、香りの演出までを一貫して手がけ、その土地で活動する職人やつくり手と協働しながら、土地の文化や風景を読み解き、ひとつの体験として編集してきた。


ホテルづくりを続けるなかで、自然と全国各地のデザイナーやアーティストとのつながりも生まれていった。そのクリエイションを、ホテルという場だけで終わらせるのではなく、より多くの人へ紹介できる場所をつくれないだろうか。そうして生まれたのがB.O.H.だった。
B.O.H.は「Behind Objects & Humans」の頭文字から名づけられている。ホテルにおけるバックヤードを意味する「Back of House」にも重ねながら、ものづくりの背後にある人や思想、まちの様相、そこに流れる時間へ光を当てること。その考え方は、これまで開催された展示にも通底している。
オープニングを飾ったISOKONの展示では、家具そのものというより、デザイン思想、そして時代を超えて受け継がれてきた価値を紹介した。一方、今回のWAKA WAKA × iko iko展では、奥田氏が長年向き合ってきたバルティックバーチという素材、パートナーであるKristin Dickson-Okudaとの関係性、そしてふたりの対話から生まれるものづくりに焦点が当てられていた。どちらの展示でも、取り上げているのは完成したプロダクトではなく、人や思考、制作のプロセスであった。展示を重ねるごとに、B.O.H.という場所の性質も少しずつ見えてくるようだ。
ホテルという枠組みを超え、各地で出会ったクリエイターたちの仕事や、その背景にある物語をひらいていくこと。B.O.H.は、Stapleがこれまで育んできた編集や協働のあり方を、展示という手法を通して共有していく実験の場でもある。
現在は、EETALによる「SHE / ME」展を開催中だ。一枚の鉄板を起点に生まれた6つのコレクションを通して、素材や技術、デザイナーや職人との関わりを見つめ直すという。その視点もまた、B.O.H.が取り組んできた「ものづくりの背景をひらく」という姿勢と重なる。
クリエイターとの対話を積み重ねながら、場のあり方自体を更新し続けていく。そのプロセスこそが、B.O.H.の魅力なのかもしれない。
WAKA WAKA × iko iko Exhibition
会期:2026年6月13日(土)〜7月26日(日)
会場:B.O.H.(Behind Objects & Humans)
時間:13:00〜18:00
定休:月〜金曜
B.O.H.(Behind Objects & Humans)
大阪市住之江区北加賀屋5-4-19
Kagoo内



