タラウマラの変化
モリさん、ご無沙汰しております。以前こうして往復書簡をさせてもらったときの最終第6便が2022年5月でしたので、はやくも4年が経過していますね。たかが4年、されど4年、この期間に自分自身が体験した事柄だけを思い返してみてもズシンと重いものがのしかかってくるような気がします。
まずなんと言ってもモリさんとの往復書簡を終えてまもなく、店のオープンからずっと二人三脚で切磋琢磨してきた相方のマリヲくんが退職しました。彼はいまタクシードライバーとしてきちんと社会に立脚し、文筆家/音楽家としても活躍しています。そしてもうひとつの大きな変化と言えば、何を隠そうタラウマラが自転車屋ではなくなりました。これはまさに青天の霹靂、自分自身が一番驚いているかもしれません(笑)。サイクルショップすずめをやっていた10年前には処分に困るほど溢れかえっていた中古自転車が、コロナ、資材費の高騰、先の見えない円安地獄というさまざまな要素が絡まり合って、仕入れをすること自体が極めて困難になりました(実際にはいまも変わらず中古自転車は街に溢れているのですが、それを無いように見せている諸悪の根源があるのです)。運良く入荷できたとしてもかつて3,500円で販売していたママチャリに10,000円以上の価格をつけないと利益が見込めない。これではあまりにも自分のやりたいことと実務が乖離してしまいということで、苦渋の決断ではありましたが、2026年4月末に旧店舗を閉店し、いまはまた東淀川区淡路(旧店舗から徒歩3分!!)で「書斎解放戦線」と銘打って、新たに書店のような形態の店を再オープンしました。自分を見失わないために、最も大切にしていた自転車業を切り捨てたわけです。当然どこかを切ったら血が流れる、やはり痛みを伴う変化ではありましたが、いまはこれで良かったと思っています。
そして書斎をつくるにあたって、最も重要な書棚の制作をモリさんとも交流のあるBAR水車の上村一暁さんにお願いしました。約2週間に及ぶ作業期間中、本職がバーテンダーの人とは到底思えないほどの匠な仕事っぷりに感心するとともに、自分の不甲斐なさと向き合い続けなければならないという、楽しくも厳しい時間でした(笑)。圧倒的なフィジカルの強さと手先の器用さ、そして水車というかっこいい店を自営する上村さんに「お願いやから上村さんのできへんこと、苦手なことをひとつでもいいから教えて下さい、せやないと夜も眠れん!」という無様な問いかけをした僕に対して彼はしばし作業の手を止めて熟考したあと「うーん、なんでしょう、大概のことはやればできてしまうんですけど、強いて言えば洗濯物をうまく畳めないことですかね」と答えてくれました。そんなもんせやんでよろしいわ!と思わず悪態をつく僕、上村さんも笑いながらふたたび作業に戻りました(笑)。こうしていろんな想いや言葉を交わしながら過ごした日々それ自体が棚の土台を支えてくれているような気がします。これは上村さんが言うてくれた言葉なのですが「本棚の左最下段に小島信夫の『寓話』を置いた瞬間に棚は自分の手を離れて土井さんのものになった」と。そこからすべての書籍を棚に収めるまでの3時間、まるで自分の脊髄を眺めているような、過去も現在も自負も羞恥も入り乱れて「にんげん」を眺めているような不思議な体験ができました。分娩(のような作業)に立ち会ってくれた上村さんには感謝しかありません。
そして屋号の「タラウマラ」はそのままに、ロゴを新たなものに変更しました。デザインを手がけてくれたのは、これまでも自分の書籍の製本やシルクスクリーン印刷等で何度も予想を超える手捌きでこちらを驚かせてくれるマノ製作所の上田章央さん。今回はロゴに関して特別な打ち合わせをしたわけでもないのに「身体で読み、身体で書く」ことを重要視する僕の信念みたいなものを見事に反映させてくれていて素直に感激しました。「書斎解放」=「開放」=「開く」ための店、ロゴに描かれた人物もしっかりと開いています。どこか不穏で、微妙にエロチックな雰囲気を醸しているのも最高です。書籍は書いた人間の想いや念がこもっているものなので、どうしたって不穏で淫靡なものになりますから。本来は「#読書好きの人と繋がりたい」なんて気安く言えるようなものではないですよ。だからこそきちんと街に解放していきたいんです。

さらに今回は関西が誇る古本屋「古書肆 梁山泊」の島元唯我くんの力を借りて、彼特有の尖りまくった選書でタラウマラの棚の一角に反骨の精神を宿らせてくれました。淡路で梁山泊セレクトの本が買えるって、なかなかすごいことだと思うんですよね。
こうして信頼できる友人たちに仕事を依頼することから新たな店づくりがはじまりました。むしろここが一番肝心で、この時点でブレてしまったら、その後どんなに表層を取り繕っても自分の考える「かっこいい店」にはならない。あとは自分も店も鍛錬を重ねて精進する、何ならお客さんも一緒に学び成長できたら最高ですよね。そんなわけでまだまだ赤子のヨチヨチ歩きのような状態ですが、書斎タラウマラは開放されました、書籍を解放するために。
ざっくりと駆け足な概要になりましたが、ここまでがこの4年間のタラウマラに関する大きな変化です。そう言えば昨年の秋、インセクツ主催のマーケットイベント「KITAKAGAYA FLEA」でモリさんともはじめてお会いできましたよね。初参加で精神的に余裕のない僕とは違って、モリさんからは余裕と色気さえ感じました(笑)。ご自身のブースで読書をされる姿を見て、どんな状況でも本が読める気持ちの余裕というのはほんまに大事やな、たとえ戦火であっても「読む」という行為は大事なのかもしれんなって気づかされました。読んでいる間はどんな状況でも孤独になる、誰のことも攻撃/口撃できないし、その場だけは静寂が支配する。それこそが反戦の意思を紡ぐってことやん、とさえ思いました。例によっての拡大解釈、誇大妄想狂じみた発言をお許しください(笑)。
それこそモリさんは汽水空港を経営しながら鳥取県湯梨浜町の議員にもなられたわけで、前回の往復書簡のときには予想だにしなかった大きな変化と言えるのではないでしょうか? これは少し意地悪な質問になってしまいますが、北加賀屋でモリさんがおっしゃった言葉の真意を測りかねているところがあって、「議員の仕事は思っていたよりもイージーで、土井さんもご自身の街の選挙区で立候補した方が良いですよ」と言うてくれましたが、いやいや実務は絶対にイージーではないやろうし、実際のところ、どうなんですか?

DIALOGUE|小さなまちで商うふたりの往復書簡:土井政司(タラウマラ)×モリテツヤ(汽水空港)
2022年
第1便 まちに門戸をひらくということ
第2便 本屋の必要性が浮かび上がるとき
第3便 私にとっての信仰とは
第4便 言葉と出会う
第5便 小さなアジールをめざして
第6便 人生を味わうために
2026年
第7便 タラウマラの変化
第8便 DIYの延長線上にある「政治」
土井政司 / Masashi Doi
2020年1月に東淀川区淡路にタラウマラを開業。自転車の販売、修理を手がけていたが2026年4月末日に第1部「中古自転車立身編」を完結させ、同年6月に「書斎解放戦線編」を開幕。著作に『ほんまのきもち』『平凡な生活』『PATSATSHIT』『凹凸凹』など。
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