日々さまざまな場所で開催されるライブパフォーマンスや展覧会、トークイベント、舞台公演、映画上映など。企画アイデアを頭のなかで寝かせたままにせず、自ら動いて具体化させていく個人がいてこそ、私たちはいろいろな出来事、表現に触れることができる。
そんな文化の功労者こと企画・主催者は、自身の企画を通してどんなことを考え、どんな試行錯誤をしていたのだろう。本コンテンツでは、実施後に企画を振り返り、テキストを書いてもらう。今回は、「ダンスアフターダンス」を共催する振付・演出家でダンサーの菊池航(きくち・わたる)さん。
「大阪でパフォーミングアーツを再び行う」という言葉を掲げて、今村達紀とともに「ダンスアフターダンス」初回を2024年5月に桃谷の元木材倉庫で開催した。
2000年代以降の大阪には、ダンスだけではなく音楽や美術、パフォーマンスアートなどが緩やかに交差する場が確かに存在していた。一方で近年は、そのような場やネットワークが見えにくくなり、異なる分野や世代が自然に出会う機会も少なくなったように感じていた。
初回の開催後、しばらくは自身の企画や他プロジェクトへの参加が続き、次回開催の準備に取り掛かることができなかった。しかし、開催時に寄せられた反響や継続を望む声も多く、そして何より自分たちの現状を少しでも変えたいがために、2025年秋頃から2回目に向けた構想をはじめた。
【ダンスアフターダンス 2026 ステートメント】
大阪でパフォーミングアーツを再び行う。
ダンスと思考の幅を、もう一度拡張する。
ささやかな抵抗として開催した初回から2年が経ったが、大阪とダンスを取り巻く状況にほぼ変化はない。
以前、長くダンスを観てきた知人がこう言った。
「深くダンスを観られる人と話をしたい。」
その言葉が耳に残っている。
現在のダンスの多くは、どこか「深く」見えない。
ここで扱うダンスとは、身体性、意味性、社会性、普遍性など、複数の層を自らに問いながら立ち上がる行為である。
それは必ずしも「ダンス」という形式に限られない。
そのため本企画では、あえて「パフォーミングアーツ」という言葉を用いる。
踊らなくてもダンス。
踊っていてもダンスにならない。
踊ること自体は、メディアの影響もあり以前よりも当たり前になった。
だからこそ、目の前で起こる出来事の何を「面白い」と見出すのか。
そこに作家の思考と態度が現れるはずだ。
手段は問わない。
思考を揺さぶること。
圧倒すること。
度肝を抜くこと。
そうした作品に大阪で再び多く出会える環境が生まれることを願って、この場をつくります。
ダンスに次ぐダンスを。菊池航
※タイトル参考:『マンアフターマン ― 未来の人類学』
著者:Dougal Dixon–
ダンスを観ているとき、何を考えているのだろうか。想像力はどこまで広がっていくだろうか。
ここ10年で街中でダンスを取り巻く環境は大きく変わった。そこかしこで人が踊り映像に撮りどこかにアップロードされている。
ではその一方で、目の前で何かが起こり、思考と想像力が巡る出来事はどこにいったのだろう。
物語に引っ張られずただそこにあるなにか。何者にもなろうとしないなにか。
いや何者かになってしまってもいい。そんなことはどうでもよくなるくらいそこに踊りがあれば。
物語に引っ張られたっていい。物語を追うことを忘れるくらい、いまそこにあるからだが観れたら。
そのまたたきが誰かの世界を変えることを願って。今村達紀
今回意識したのは、単に「ダンスフェスティバル」ではなく「パフォーミングアーツフェスティバル」としての側面をより強めることだった。
初回はもともとのコンテンポラリーダンスのフィールドを軸にしながらも、大阪・桃谷で私が接してきた舞台芸術界隈以外の文脈も意識したラインナップを組んだが、今回はさらに踏み込み、私としてはダンスとして面白さを認識できるが「これはダンスなのだろうか」「ダンスとして見ることもできるのではないか」という要素をもつアーティストたちも積極的に招いた。
若手、同世代、先達、そしてダンス以外の領域を主な活動の場とするアーティスト。それぞれを組み合わせることで、大阪という土地、パフォーミングアーツの時間軸を意識する。2000年代の大阪のアートシーンを知る世代と、これまでの大阪を知らない世代が同じ場に居合わせること。そのこと自体も企画の重要なテーマのひとつである。
今回主催側が初の試みとして行った「コンセプトシェア」は、今回出演の瀬戸沙門の、主に演劇フィールドの上演作品「コンベックスの男」の内容やコンセプト(身体性は多く含まれる)を、若手ダンサー2名(火野7、渡辺明日香)へ事前に共有、ワークショップを行った上で、それを受けての自身のクリエイションをそれぞれにお願いした。「ダンス」とは違う構造をもった作品のコンセプトを受けて自身の作品をつくるという前提を設けることで、一度自身のダンスと距離をもち、疑い、どう扱うかを改めて思考することを期待する。これからさまざまなダンスと出会っていって欲しいふたりへの、投げかけとして企画した。
それぞれに自身のなかでこれまでと違う感覚、方法に出会ってくれたようで、ふたりのチャレンジの姿勢にとても好感がもてた。今後の活動に生かしてくれたら本望。
また、もうひとつ主催側として振付作品を依頼したのが、中西ちさと+火楠+田中直樹だ。淡水と同じく2000年代後半から活動(もともと大学の先輩)しており、初回にも出演していただいた中西ちさと(ウミ下着)と、在住9年ほどになる私が桃谷で出会った杉田真吾に端を発するコミュニティから生まれた「淡く、揺らぐ」というユニットの火楠、田中直樹のふたりを今回はじめて紹介、クリエイションをお願いした。ダンス経験者ではないふたりが行うダンスを通して「ダンサー」という存在自体に違う視点を混ぜること。そして、踊るだけではない、言葉など直接的な踊り以外の手段も含めた作品になることも期待して、ダンス未経験者との作品やコミュニティ活動も行う中西さんに依頼した。
さすがのクリエイション、演出力でふたりのダンス未経験性をしっかり昇華し、昨今の情勢・身近な叫びを投げかけることにつなげる見応えのあるダンス作品になっていた。
いずれも、「どう踊るか」自体に主眼を置きがちに思えるようなダンス作品に対して、それ以前の「なぜ踊るのか」ということにフォーカスが向くことを意識した。
今回の公演で一番大きかったのはやはり、千日前青空ダンス倶楽部(以降、千日前)の上演を今、大阪で行えたことだろう。千日前は、長年NPO法人DANCE BOX(以降、db)のエグゼクティブプロデューサーを務め、2025年8月に急逝された大谷燠(振付家としては紅玉)が率いた舞踏カンパニーであり、dbが大阪から神戸へ移転してからは大阪では上演を観る機会はほぼなかった。大阪の地名(千日前通り)を冠した現存するカンパニーであり、大阪でも上演してほしいという想いはかなり以前からもっていたが、大谷さんが逝去されたことで今後活動の可能性が無くなるのでは、今こそやるべきだ、と強く思い、昨年末に決死の出演オファーをしたところ、ご出演いただけることとなった。
今回は大谷さん逝去以降、はじめての千日前出演の機会であり、出演決定からの熱の入り方が尋常ではなかったようだ。年明けから稽古を重ね、歴代の踊り手がはじめて集結する(!)というスペシャルバージョンとなった。今や世界で活躍する振付家・ダンサーからすでに舞台を離れていたメンバーまでもが集合。かの舞踏カンパニーがもつ確固たる世界観を、固有のメソッドを共有するメンバーの舞踏身体性、独自の統一された衣装・ビジュアル、音楽性など、さまざまな要素でつくり上げた、素晴らしいパフォーマンスだった。
この強烈な世界観・作品、パフォーマンスをこのタイミングで大阪で上演できたことは、本当に稀有な体験になったのではないか。千日前の今後の活動可能性を後押しするという意味でも、今回実現したことには価値があったように思う。こうした作品、活動がかつての大阪で生まれていたということを受け、これからを考えるきっかけのひとつにしたい。
今回ご出演いただいたほかの先達のみなさまからも、事前にステートメントに大いに賛同、感動したとの言葉をいただいていた。いずれのパフォーマンスもさらに新しい挑戦、大阪でやること、にしっかりフォーカスが当たったもので、身が引き締まる想いだった。ホントに敵わない。がんばります。
また、遠方から参加してくれたアーティストを中心に、桃谷をそれぞれに歩き土地のリサーチを行う出演者も多く、私のよく知る桃谷に多くのアーティストが短期間でも自主的に「滞在」することが起こっていたのはとても面白かった。それを通して私の知らない桃谷を教えてもらうことが多かったのも良かった。公演前1週間ほどはいろんな出演者が入れ替わり立ち代わり桃谷に訪れ、リサーチやリハを行い、毎夜呑み、食べ、話す。これぞフェスティバルの醍醐味という濃厚な1週間であった。
公演自体は1日2公演を2日間、計4公演を実施したが、全公演前売チケット完売。また出演者も自身の出演と別日にも公演を観に来た方がほとんどで、こうした試みを求めている観客・関係者が多いことを改めて実感した。アンケートの結果では、7割がはじめての来場と回答。こうしたダンス作品を観たことがなかった人や、多様な表現を見慣れていない層にも、幅広い体験を届けられたのではないか。直接感想をもらった桃谷に住む友人にも、「知らない世界がたくさんあるんやねえ」と好意的な意見をいただいた。
ダンスらしいもの、観方自体を問うもの、技術、それ以外、たくさんの手段。さまざまな可能性を今回は提示することはできたように思う。いろんな可能性があった上で、観た側がそれぞれに何を選んでいくのか、何をどう面白がれるのか、またそれを広げていけるのかを考えるきっかけになれば嬉しい。

2000年代に比べ、大阪で異分野の表現を横断するような企画を立ち上げるプロデューサーは少なくなった。それにはいろいろな要因がある。状況は悪い。しかし今、とにかくまずやることが重要に思える。思考は続ける。でもまずやってみる。トライ&エラー。一歩踏み出すと実際ちょっと変わる。
小さいながらも今できるやり方を模索し続け、さまざまなことに可能性をひらき、やり続けていくことで、こうした場をつくることができた。
今回の反響は前回よりも大きく、今後もラフな場でありながら、今観る価値のあることを、しっかりとやっていきたい。大阪に独自に存在する、ダンスに限らないサウンド、美術などと紐づいてきたオルタナティブな路線を引き受けながらも、ビビらずに、現在進行形のいろんな可能性を混在、発展させていきながらこの企画は継続を目指したい。来年春には3回目の開催を目指す。
また今回、大阪の舞台芸術関係者からアプローチもあり、今後さまざまな動き方を試行できればと思う。いずれはほかの都市にもこの企画を持ち込んで、その土地の要素と組み合わせて開催、それを大阪にフィードバックするようなことも考えられるだろう。
そうすることで、大阪でオモロいパフォーミングアーツに出会える機会を増やしていければ、少しは楽しい未来を期待できるかもしれない。
楽しみは自分たちでつくろう。
菊池航 / Wataru Kikuchi
1987年生。振付・演出家、ダンサー。2008年より自身のカンパニー淡水を主宰、振付演出を開始。日常行為もダンスと見なし、それらを主な手段としながら多層的なイメージの扱い方と身体/物体/空間/光/見る人/音/言葉/などとのオルタナティブな付き合い方を模索、ダンス、美術、演劇、サウンドなどの間をたゆたいながら場と共に作品を立ち上げる。ダンサーとしては東野祥子、桑折現、山下残、捩子ぴじんなどの作品に参加。ANTIBODIES collective、男肉duSoleilメンバー。
2024年大阪にてフェスティバル「ダンスアフターダンス」を興す。
日時:2026年5月9日(土)、10日(日)両日14:00〜/18:00〜
※昼夜同演目/入れ替え制
会場:桃谷 元木材倉庫出演:
5月9日(土)
今尾拓真(Ft. 菊池航、宮木亜菜)
瀬戸沙門
火野7
松枝熙
アサダワタル+杉田真吾
千日前青空ダンス倶楽部5月10日(日)
「Sign」
(振付|捩子ぴじん 出演|石原菜々子、今村達紀、菊池航、増田知就)
渡辺明日香
中西ちさと+ 火楠+田中直樹
池田昇太郎+江崎將史
東野祥子+ 中田粥
山下残 + 山内弘太入場料:一般前売チケット 1演目3,500円、2演目6,500円
ドネーションチケット(このイベントをより応援したい方へのチケット) 1演目5,000円、2演目10,000円スタッフ
照明:今村達紀
音響:佐藤武紀
舞台:井上和也
制作:淡水、青木雅美
記録映像:梅岡唯歩デザイン:SNJO

































