2024年5月、「大阪でパフォーミングアーツを再び行う」ことを企図したイベント「ダンスアフターダンス」が開催された。本イベントを企画した菊池航は、ステイトメントでかつて大阪にあったコンテンポラリーダンスのシーンを振り返る。
かつて大阪では実験的、先駆的な独自のコンテンポラリーダンスシーンがあった。
当時関東で観たダンスは流行を追うかのように個性が薄く感じ、関西・大阪の独自性の強さを強く思っていた。
新今宮フェスティバルゲートにあった劇場db(ダンスボックス)では毎週「ダンスサーカス」が行われ、さらに実験的音楽ライブハウスBRIDGE、詩人の立ち上げたであいと表現の場ココルームが同じ施設内に位置しジャンルの垣根無く交わる活動も生まれ、一方では阿倍野ロクソドンタブラックでも定期的に「ダンスの時間」が開催、コンテンポラリーダンスのショーケースイベントが複数存在した。
大阪アンダーグラウンドミュージックと深く結びついた活動を行っていたBABY-Q(現ANTIBODIES collectiveは京都拠点)の存在や、contact gonzoは扇町公園で屋外活動をスタート。
活動を挙げればキリがなく、それらから派生するたくさんの流れが浮かんでは消えていったように思う。
そして現在。コンテンポラリーダンスはショーダンス的なものが主流となり、実験的にダンスやパフォーミングアーツ自体を深化して思考するコンテンポラリーな活動の場も機会も隙間もほぼ絶滅してしまった。
しかし我々は大阪という都市、場に未だ大きな魅力を感じている。まるで芸術自体を排除するかのような流れが強い中、小さくとも逆流するように多様な可能性の「面白い」を追求する場をつくりたい。
ダンスが、舞台が「やり尽く」され、かつ絶滅した今の大阪で、我々は一体これからどんなダンスを立ち上げるのか。「ダンス」と呼べるものの幅はもっともっと多様だったはずだ。
今からダンスを始めていく世代と私が背中を追ってきた世代とともに、これまでとこれからを、走りながら考えていきたい。
菊池自身も大阪を拠点に活躍するダンサーであり、振付演出家である。菊池の共同経営するイベントスペース併設の飲食店・オルタナキッチンOooze(うーず/渦)でも多様なパフォーマンスの上演イベントが開催されているが、上記のステイトメントからはより多くの人に開かれた場から新たなシーンをつくっていこうという決意が読み取れる。出演者を決定するに際しては、若手からシーンを象徴するダンサー、そして普段から同スペースのある桃谷でともに即興のイベントをつくってきたパフォーマーと、幅広く声をかけたという。
5月10日(金)、11日(土)、桃谷の元木材倉庫に、関西圏を拠点とするダンサー、パフォーマーが一堂に会した。開放感のある空間が、シャッターの開閉によって、時に密室的な場面へと変化する。
1日目は五月女侑希からはじまった。その日のパフォーマンスにおいて、現実/非現実と身体が向き合うやりとりが提示された。
パフォーマーたちは、自らに語りかけたり、目の前にいる他者と対話しながら、あるいは、目に見えない誰かとのやりとりを想像させる動きを繰り返しながら、身体をその場に定着させていく。
最後に登場した淡水は倉庫の外へ。現在は駐車場となっているが、元は長屋が連なる場所であったという。「ダンスアフターダンス」というタイトルは、ドゥーガル・ディクソン著『マンアフターマン:未来の人類学』からとったという。「マンアフターマン」たちは、駐車場のアスファルトに体を横たえ、木のまわりを廻る。人類の未来のありようとして崩れ果てた姿形をした彼らがこの地に立ち続けることは、「ダンスが何か別のかたちとなっても絶滅せずに生きながらえている」ことを私たちに想起させる。
2日目は、パフォーマーたちが所作と向き合う時間と対峙する。それは、ダンスを観ていて感じる、「所作は偶然生み出されるのか、それともオペレーションなのか」という疑問を解きほぐしていくような時間となる。
〈即興〉はどこにあるのか。その、ひとつの明快な回答は、山下残の『せきをしてもひとり』なのかもしれない。すべての所作が定められていることを観客にテキストとして見せるこの作品を最後に観ることで、私たちは〈振付〉と〈即興〉の間柄へ思いを巡らせながら、帰途につく。ダンサーたちの身体は、さまざまな記憶を引き連れやってきて、この場所でその記憶を解き放つ。自らの記憶、他者の記憶。虐げられた女性の記憶、棲家での誰かとの生活の記憶。紛争の記憶、バーチャル空間の記憶。もしかすると、有情物の記憶ですらなく、もっと抽象的な、〈時間〉のようなものの記憶かもしれない。それらをダンサーが現在進行形にその場に顕在化していくことで、切実な所作となっていく。同時に、すぐに消えてしまう。そこにダンスの実感があり、根源があるように思える。
満員御礼の2日間の公演で、私たちは確かにその現在進行形を目撃した。消えてしまったが確かにそこにあったダンスの実感と、近い日また大阪でまみえることを願いたい。
日程:2024年5月10日(金)19:00〜/11日(土)18:00〜
会場:桃谷 元木材倉庫出演:
※5月10日(金)
五月女侑希
即興ミーティング
西岡樹里
『sign』(振付:捩子ぴじん 出演:今村達紀、石原菜々子、菊池航、増田知就)
淡水
東野祥子×SiMA※5月11日(土)
ワタナベモモコ
身体と付き合う部+江崎將史
中西ちさと(ウミ下着)
今村達紀
ペガサス探検隊
山下残企画・主催:淡水・谷間(菊池航・今村達紀)
キュレーション:菊池航(淡水)
宣伝美術:SNJO
協力:kondaba、FIGYA、中西美穂
特別協力:ダンスの時間プロジェクト