芸術や芸能と呼ばれる、ある種“役に立たない”とされるものが、端に追いやられてしまう場面が最近よく見かけられます。実際的な利益や数値で文化を測るなんてナンセンスとスルーするだけでなく、そんな事態になっている現在において、私たちが生きるインフラとしての“芸術文化”をもう一度タフに考え、議論することは、これまで芸術文化によって何かしら影響を受け、いろんなかたちで救われた者として積極的にやっていきたいことです。さて、2012年から発行してきたおおさか創造千島財団のフリーペーパー『paperC』が、紙からWebへと移行しました。イベント・展示情報から地域の文化を担う店舗・スポット、活動するつくり手やアーティスト、研究者などなど、大阪の状況を紹介していくWebメディアとして、これからも活動していきます。大阪の芸術文化のいまを考える特集コンテンツもじっくり仕込み中。お楽しみに。
Original Research
2019.10.04
#吉行良平#ビンビール#FOOD#DESIGN#CRAFT#PRODUCT#COLUMN

“格好良い”を、呑みながら思考する

吉行良平
文: 吉行良平 [吉行良平と仕事]

汗をかく作業も多いせいか、その日が終わりかけた頃「ああ、あの店でビールを呑んだら美味しいだろうなあ」という想いが、頭によぎります。サーバーからジョッキにそそがれる、いわゆる「生」を注文することが圧倒的に多かったのですが、いつからか「すみません、大ビンで」とお願いするようになりました。

「ひとりでさくっと飲むのが増えたことが要因かもしれないなあ」などと、ぼんやり考えてみたのですが、なぜ、この大ビンとコップ(グラス)の呑み方に惹かれるのか、個人的な仮説を立ててみることにしました(以前、在籍していたデザイン事務所の上司が投げかけてくれた「ちゃんとしてみよう」を、大事にしています)。ビンビール大をコップに傾けながら、一つひとつ振り返っていきます。

“格好良い”を、呑みながら思考する

1. 出会い

現在、大阪に作業場事務所をおいてデザイン設計を続けていますが、生まれた場所である大阪に帰ってきたのは20代半ばでした。18歳で大阪を出たこともあり、呑むという文化においては自分の地図のようなものは持っておらず、現場で会う職人さんたちや、すれ違う仙人のような方々のスタイルをただただ真似て、恐る恐る初めての立ち飲みや、食堂の暖簾をくぐりました。

横にたまたま居合わせた紳士に、ごちそうしてもらって感激したり、常連さんの佇まいを眺めたりするのが楽しく、自分が住み暮らす場所の、空気のようなものを確認できたと、今は考えています。

お店で過ごすうち、以下のような“格好良い”と感じるふるまいを発見していきました。

・お酒をコップで呑む

・昼から呑む

・急かず少し間をあけて、注文する

・文庫本(おそらく古本)を読みながら呑む

・なんとなくテレビを観ながら呑む

そのなかでも、ビンビールを傾けてコップに注いで、「ぐぅぅ(こういった表現しかなくすみません)」と呑むというのは、格段に良く思えました。それまでは、何も考えず「生で」だった私は、憧れから「ビール、大ビンで(この単語の順序もとても気に入っています)」と頼むようになりました。

 

2. 壁

だた、私の場合、頼む際にお店の方との掛け合いに変な間が生まれることがわかってきました。壁=銘柄の提示です。ミーハーな私は、その所作だけを追ってしまっていたのですが、ビンビールにも大手だとサッポロ、アサヒ、サントリー、キリンなど(敬称略)が存在し、どの銘柄を希望するかも大事になってきます。

観察していると、「ビール、大ビンで、“サッポロで”」と、銘柄までが1セットとなっているのが通例のようで(個人調べ)、自分の欲するビールがどれか?ということもふまえて、向かうべきだとわかってきました。どのビールも美味しいと思ってしまう私には、難しい問題だったのですが、味以外の“個人的な目”を持つことを課題として、取り組みはじめたのでした。

味で決められると信じていたのですが、妻と立ち寄ったパスタ屋さんで「ビール」とだけメニューに記されていたものを頼み「これはサッポロだ」と得意気に言った後、スタッフの方に「いいえ、キリンです」とはっきり言われてしまう、なんてことも。僕にとって、この課題は大きな壁となりました。

 

「味以外の何に良さを感じて注文するのだろうか?」

頭を上げると机には、大ビンのアサヒとコップ。眺めるその景色の良さを個人的仮説をたてながら観察することにしました。

“格好良い”を、呑みながら思考する

3. 観察

私が景色として参照するものとして、映画があります。共働きだった両親は、小ぶりなテレビを前に、姉弟家族そろって観る日曜ロードショーの時間を大事にしてくれていました。

そのなかのひとつだったか、印象に残っているのが『幸せの黄色いハンカチ』。映画自体もとても良いのですが、得に思い出すのは主演の高倉健さんが、刑務所で刑期をつとめた後、初めてビールを飲むシーンです。中ビン(サッポロ)を頼み、コップで呑みます。その場面がたまらなくて、子どもだからまったくアルコールに興味もないのに、ぐぅぅと喉が鳴ったことを忘れません。

映画のように目の前に並ぶビンとコップを見ると、当たり前ですが、各社のラベルの違いに加え、ビン自体の違いが見えてきました。たとえば私が最近よく飲む、アサヒは首元の肩がはっきりあるビンで、キリンはなで肩、といった具合です。

 

4. 仮説

「そうだ! きっとこの景色、形状に良さの理由がある!」

と、思い込むことにしました。喉越しや味以外にもきっとある。呑みながら考えてみるとどうも、キリンのなで肩のビン形状をどこかで見ているように思います。

 

「あ、あれはそうだ、日本酒のビン形状、一升ビンとそっくりではないか」

と、思い出します。

 

「では、サッポロやアサヒの形状は? そうだ、あの肩は、ワインのビンの形ではないか! ビールは洋酒。起源や歴史に沿った形のはず。」

そう考えると、そういえば私は日本酒が苦手。

 

「そうだ、そうなのか。だから私は、サッポロ、アサヒなのだ!」

それが、私の好きな銘柄の良さなのだと決めることにしました。

“格好良い”を、呑みながら思考する

では、コップはどうでしょう。

私の本業は、プロダクトデザインです。その視点から見てみると、直線で構成されていながら、実は厚みをもたせたポテッとした印象のバランスが、可愛さなのでは、とか、高倉健さんが手で包み込むあたりがちょうどビールと泡の黄金比率とされる7:3が生まれる形状設計だからだ!とか。考えてみたりします。

個人的仮説を立てて、ものごとを検証してみることも、前職の上司が教えてくれたことです。正しさを良さとして突き詰めるだけではなく、いつも「どう思う?」と聞いてくれたことを思い出します。思えば解決を促すだけでなく、可能性を常に引き出そうとしてくれていました。

 

5. 確認

形や色を素直に自分の想いで表現できることは、素敵なことのひとつだと考えています。たとえ、その個人的仮説が事実と異なっていたとしても、まず仮説を立てることで「かっこいい」や「かわいい」など、正解だけで構成されていない事柄の確認作業になるのではと感じています。

ビール好きの友人が、私の味につながるビン形状の仮説を笑いながら聞いた後、あながち間違いでもないかもと「国産ビールができた当初は、ビンの国内生産が難しくてなかなか出回っておらず、輸入されたワインや国外ビールの空きビンを集めて入れていたみたい。今のサッポロやアサヒなどの主要なリターナービンの原型かもね。」と教えてくれました。

ビンビールは、キリン以外の数社は再利用しやすいよう同形状としているようです。それも良さのひとつかもしれませんし、キリンの中身だけでなく外身にまで自分たちの想いや美味しさを打ち出す強さも素晴らしいと思います。

“よさ”というぼんやりしたものを前にして緊張するのですが、その確認は、意識しているとふわりと現れます。

作業場の近くに、カキフライ単品をあてに、ビンビールを呑むようなお客さんがいた素敵な洋食堂がありました。今はなきその店のおばちゃんが、ある日あのコップで、お米をすくっています。

 

「なにしているんですか?」

と聞くと、

 

「え、これ? 吉行くん、しらんの? このコップね、1合ちょうど入るんよ。お米炊いたりするのに便利なの。」

私が大好きなビンビールとセットで出てくるコップは、1合グラスと呼ばれ日本酒などを呑むあの四角の1合升と同じ容量なのだと教えてくれました。

 

そうして、私は、慣れ親しんできた「1合」という容量を持つことが、このコップの良さのひとつだと決めました。

“格好良い”を、呑みながら思考する

今までふと手にしていたものや色の奥に目をやり、「なぜなのか?」を妄想してみること。仕事柄もあったかもしれませんが、自分の身近なところから始めたこの個人的作業は、出張先で行く他府県や海外などでも続けています。単純に好きなものやことを考えるというのがとても気持ちが良いのです。考えているとまた新たなことに気づいたりします。

そういえば、僕は日本酒だけじゃなくて、ワインも苦手だなと。また自分自身を見つめ直して、そこから新しい仮説を立てています。

吉行良平 / Ryohei Yoshiyuki[プロダクトデザイナー]

オランダへ渡り、Design Academy Eindhoven 卒業、Arnout Visser のもとで研修を積み、「吉行良平と仕事」設立。国内外のクライアント、製造会社、職人と協働で家具やマスプロダクトの設計を中心に行う。手を動かし実験、検証を繰り返しながら、あるべき色、形を探る。

吉行良平と仕事 http://www.ry-to-job.com/

Oy http://oy-objects.com/

photo:建築設計:MARU。architecture+鴻池組「読書の森(松原図書館)」
Must Reads
2020.08.18
建築設計:MARU。architecture+鴻池組「読書の森(松原図書館)」
MORE
photo:地下芸人の写真的観察
Must Reads
2020.07.19
地下芸人の写真的観察
衣笠名津美
TEXT: 衣笠名津美 [写真家]
MORE
photo:INTERVIEW:梅田哲也|ただそこにある小さな声と時間を思うこと 3/3
Must Reads
2020.07.11
INTERVIEW:梅田哲也|ただそこにある小さな声と時間を思うこと 3/3
MORE
photo:INTERVIEW:梅田哲也|ただそこにある小さな声と時間を思うこと 2/3
Must Reads
2020.07.11
INTERVIEW:梅田哲也|ただそこにある小さな声と時間を思うこと 2/3
MORE
photo:ブックデザイン:芝野健太『「うつしがたり 小出麻代」記録集』
Must Reads
2020.06.26
ブックデザイン:芝野健太『「うつしがたり 小出麻代」記録集』
MORE
おおさか創造千島財団
#NEW PURE +#千鳥文化#enoco#グランフロント大阪#ギャラリーノマル#アートエリアB1#うめきたシップホール#音ビル#Club Daphnia#FOLK old book store#谷口カレー#クリエイティブセンター大阪#すみのえアート・ビート#YCAM#MASK#Open Storage#The Branch#コーポ北加賀屋#M@M#HEP HALL#Calo Bookshop & Cafe#Live Bar FANDANGO#HOPKEN#前田文化#LVDB BOOKS#光#あべのま#山本製菓#ナイスショップスー#ペフ#SAA#YARD Coffee & Craft Chocolate#ピンポン食堂#graf#umeda TRAD#SOCORE FACTORY#梅田クラブクアトロ#難波ベアーズ#梅田シャングリラ#contact Gonzo#塚原悠也#レトロ印刷JAM#ANIMA#ココルーム#吉行良平#国立民族学博物館#水野勝仁#金氏徹平#ビンビール#シカク#blackbird books#hitoto#MASAGON PARK#キャズ#ロフトプラスワンウエスト#ギャラリー オソブランコ#JIKAN<space>#ALNLM#丼池繊維会館#アートコートギャラリー#Club Stomp#ギャラリーほそかわ#中崎町#ondo tosabori#artgallery opaltimes#FUKUGAN GALLERY#Yoshimi Arts#梅田哲也#kioku手芸館「たんす」#CONPASS#国立国際美術館#Hotel Noum OSAKA#PINE BROOKLYN#大成紙器製作所#プロダクトデザイン#WEBデザイン#ペーパーアイテム#The Blend Apartments#フラッグスタジオ#紙器具#文房具#TEZUKAYAMA GALLERY#ギャルリ・ド・リヴィエール#GLAN FABRIQUE#Compufunk#シネ・ヌーヴォ#+1art#ブルームギャラリー#東大阪市民美術センター#Pulp#Alffo Records#淀屋橋見本帖#toi books#YOD Gallery#FIGYA#浄土宗應典院#味園ユニバース#Super Studio Kitakagaya#淀川テクニック#柴田英昭#スターバックス LINKSUMEDA#ギャラリー・ソラリス#喫茶アオツキ#ムジカジャポニカ#豊中市立文化芸術センター#LUCUA 1100#THE STORIES#阪急うめだ本店#howse#イロリムラ#The Third Gallery Aya#平野愛#心の傷を癒すということ#多賀結いの森#The Blend Inn#DELI#gekillin#LUCUA osaka#dieci#FREITAG#フライターグ#デザイン#solaris#CIRCUS OSAKA#excube#MI Gallery#第七藝術劇場#福岡市美術館#のせでんアートライン#のせでん#原久子#ディエゴ・テオ#渡邉朋也#なべたん#深澤孝史#岡啓輔#井上亜美#渡部睦子#拉黒子・達立夫#コンタクト・ゴンゾ#松本直也#Tyrni#シアターセブン#toe#TRA-TRAVEL#POL#the three konohana#New Life Collection#大阪府立中央図書館#iTohen#藤谷商店#silta#DEN#gallery nomart#ノートギャラリー#イチノジュウニのヨン#音凪#モモモグラ#THE BOLY OSAKA#OLGA-goosecandle-#シネ・ヌーヴォX#ウイングフィールド#PONY PONY HUNGRY#wad#大阪髙島屋#ペーパーボイス大阪#NOON + CAFE#アトリエ三月#ABCホール#HENE#DMOARTS#スタンダードブックストア#里づと#FM802#FM COCOLO#gekilin.#西淀川アートターミナル#シネ・リーブル梅田#夜長堂#梅田ロフト#まがり書房#御殿山生涯学習美術センター#cumonos#インディペンデントシアター#心斎橋PARCO#KITAHAMA N Gallery#GALLERY wks.#RAURAUJI#ギャラリーソラリス#JAM#SUNABAギャラリー