本特集では、ドキュメンタリーとフィクションの関係やその境界について向き合いました。それは、「事実」「作為」「理解」というような言葉の定義や、それらに付随する葛藤の輪郭をなぞっていくような作業であり、あらためてドキュメンタリーとフィクションの境界というものがいかに流動的で、相互的関係にあるかを感じています。 人が食べるという行為をインタビューを通して観察・分析してきた独立人類学者の磯野真穂さんとの対談では、他者を理解することについて言葉を交わしました。また、現代フランス哲学、芸術学、映像論をフィールドに文筆業を行う福尾匠さん、同じく、映画や文芸を中心とした評論・文筆活動を行う五所純子さん、そして、劇団「ゆうめい」を主宰し、自身の体験を二次創作的に作品化する脚本&演出家・池田亮さんの寄稿では、立場の異なる三者の視点からドキュメンタリーとフィクションの地平の先になにを見るのかを言葉にしていただきました。 対岸の風景を可視化していくこと、まだ見ぬ世界を知覚すること、その先に結ばれた像が唯一絶対の真実から開放してくれることを信じて。そして、今日もわたしは石をなぞる。 小田香 Kaori Oda ー 1987年大阪生まれ。フィルムメーカー。2016年、タル・ベーラが陣頭指揮するfilm.factoryを修了。第一長編作『鉱 ARAGANE』が山形国際ドキュメンタリー映画祭アジア千波万波部門にて特別賞受賞。2019年、『セノーテ』がロッテルダム国際映画祭などを巡回。2020年、第1回大島渚賞受賞。2021年、第71回芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。
Original Research
2022.03.26
#ART#CRAFT#COLUMN#大阪府外

泳げないけど水が好きなので
カナディアンカヌーをリペアする

金光男
文: 金光男 [アーティスト]

6年前かそこらに、無性にカナディアンカヌーが欲しくなってしまった。京都の小さな借家に住んでいるのにも関わらず、欲しくなってしまったんです。

カナディアンカヌー。どんな形を思い浮かべるでしょうか? 大きな公園の池などで家族、恋人同士で乗るような形でしょうか? ヘルメットを被り、ドライスーツを着て激流を下る形でしょうか? 丸太をくり貫いたネイティブが漁で使うような?

水の上の移動や、荷物の運搬、漁をする道具として、さまざまな形の舟は太古から世界中に存在しますが、カナディアンカヌーは北米ネイティブがルーツでオープンデッキ、シングルパドルを使い前進する艇(西欧の文化が混ざり合い現在の形になった)のことを指します。テレビ番組「水曜どうでしょう」がお好きな方は、「ユーコン川160キロ 〜地獄の6日間〜」(2001年10月24日放送)の回で馴染みあると思います。

泳げないけど水が好きなのでカナディアンカヌーをリペアする
photo: Mitsuo Kim

本コラムでは、ただの物欲からはじまったカナディアンカヌーの入手、そして修復と現状について書いていきたいと思います。

「そもそも、カナディアンカヌーなんてどこに売っとるのか」。ヤフオクで検索をかけてみました。

>>> 検索結果 ヤフオク!「カナディアンカヌー」

 

おそらく1990年代アウトドアブーム、バス釣りブームの遺産として、そこそこの状態、そこそこの値段で取引されていました。今も、まあまあの値段で出品されていると思います。木、アルミ、FRP、混合などさまざまな素材、形の艇(アメリカの航空機メーカーのものや、100万円を超える艇も)があり、フォルムからピンとくる艇を探すことにし、先端が反り返ったトラディショナルなフォルム、チェリーのリブが美しい、木とFRP混合のナバロカヌー社のレガシー艇に心奪われました。この艇は1990年代イワタニリゾートが輸入代理を行っていたみたいですが、現在は行われておらず、出品数も少ないためプレミアがついて手が出せない値段に。

寝ても覚めてもナバロカヌーのことしか考えられなくなり、さまざまなカヌーカヤック専門店、リサイクルショップに問い合わせる日々が続きました。

そんなある日、ジャンクのレガシー艇が(正気だったならば入札しない状態)出品されていました。ジャンクって言葉、すごく幅があって便利ですよね。結構なお値段で念願の落札。出品者は、伊丹にある廃品回収会社で、同行の妻に怪訝と呆れが混ざる顔をされながら受け取りに行きました。伊丹空港へと降りる飛行機の音と妻のあの顔が鮮明に記憶に残っています。落札した艇は、昔家族で乗っていたが、子どもが巣立ち、使用されることなく長年庭に放置された緑色の艇で、特徴である木部のガンネル(船縁)とチェリーのリブは腐り、FRPのハル(船体)は紫外線で白け、ヘアークラックが入り蔦が絡んだ痕跡を残す、いわば粗大ゴミでした。

泳げないけど水が好きなのでカナディアンカヌーをリペアする
photo: Mitsuo Kim

この粗大ゴミに数万ものお金を出して手に入れ、数万円をかけてリペアを行いました。これからジャンクのナバロカヌーをリペアする方がいるかもしれませんから、その工程を簡単にまとめてみます。

 

1.はじめに:
腐ったガンネルや残留物を除去、再利用できるものと分ける。高圧洗浄機と中性洗剤で艇を洗浄。

 

2.艇内:
艇内チェリー腐食部を削る。削り取った部分をエポキシパテで簡単に成形→チェリーの突板(ツキ板屋で購入可能)をオイルステインで適当に色合わせし、エポキシ接着剤で接着。艇内サンドペーパー180番くらいで足つけ。最後にエポキシ樹脂で半面ずつコーティング。滴れるので傾けながら半面ずつ。(FRPでも可)

3.ハル(船体):
ハルをサンドペーパー240〜360番で整える。ヘアークラックの先端をリューターで止める→パテ埋め研ぎ。ハルを脱脂→プラサフ→研ぎ→ウレタン塗装(お好きな色)→ウレタンクリア→コンパウンドで艶出し(お好みで)車の塗装と要領は同じです。設備がなければ缶のウレタンスプレーでも可能だと思います。なんならローラーで塗装も無骨でいいかもしれません。

4.木部:
ガンネル(船縁)センターヨーク(剛性を上げ、カヌーを担ぐのに使う真ん中の棒)パドル木部ガンネルに4m以上の木材が必要になってきます。京都の材木屋さんで米ヒバ材を発注。米ヒバは腐りにくく、水湿にも強いので加工も容易です。ガンネル部4m4本とデッキ部2枚合わせて1.5万円ほど。まずホームセンターではこの長さの米ヒバは手に入らないと思います。杉と松は耐久性が低いため、使用しませんでした。安いクランプで細かく固定しながらハルのアールに沿って曲げていきます。もともとのガンネルはホワイトアッシュが使われているのですが、硬く加工の難易度、価格が高いため材木屋さんが米ヒバを勧めてくれました。ホワイトアッシュを使用したい場合はスチームボックスを自作すると良いと思います。(ウッドベンディング)ハルに固定する際は錆びるのでステンレスのものを使用してください。真鍮マイナスビスも趣があって良いですね。センターヨークは自作が難しければ購入をお勧めします。センターヨークは販売しているお店が多いです。僕は実家に落ちていた丁度良い謎の木で自作しました。のこで大まかに形を取りディスクグラインダーで削りやすりがけで完成させました。ノリと根気が大事です。

最後に木材保護のために油性のキシラデコールを塗ってください。キシラデコールを塗ると3、4年はメンテナンス要らずです。お色はお好みで。パドル、僕は買いました。ハンドメイドのウッドパドルをつくられている会社もあります。奥深いです。長くなるので書きません。自作可能です。

泳げないけど水が好きなのでカナディアンカヌーをリペアする
photo: Mitsuo Kim

5.最後に:
真鍮パーツなどをピカールで磨く。シート、ヨーク等をステンレス長ボルトで内ガンネルに取り付ける。ライフジャケット、フローティングロープ、パドルを手に入れてダム湖、野池、流れのゆるい太い川にゆく。

在野研究という趣旨から遠ざかっていますね。車のカスタムブログみたいになっていますね。

僕は予算の都合からセルフリペアを行いました。プラモデルや日曜大工をしたことがあり、検索する力があればセルフリペアは可能だと思います。複雑な回路やプログラミング、機械の知識は必要なく、失敗しても取り返しがつくので、どうにかなります。木が割れたら強力なボンドで着けてしまえば良いのです。最初は不恰好でも、乗っていればボロボロになります。また直せばいいのです。直さないといけなくなります。

リペアが完了したカナディアンカヌーを車に載せ、君ケ野ダムでぶっつけ本番で妻と乗艇し、漕ぎ出した瞬間の心の動きは、なんとも言えないものでした。嵐山公園のボートとは明らかに違う感覚、自分が向いている方へ漕ぎ出し、当てもなく浮かび進むこと。琵琶湖や北山川や山田池に出かけ浮かんでは、風に流されたり、逆らったりしながら、辿々しく水を切りながら進むこと。家族が増え3人で乗艇し、三重県にある宮川の流れに逆らって上流に向かったこと。水に浮かんでいると、ルーツについて考えが巡り、気持ちの良い経験と、なんともうまく言い表せないモヤが混在するようになりました。

泳げないけど水が好きなのでカナディアンカヌーをリペアする
photo: Mitsuo Kim

その後——。

さまざまなことが重なり、この赤に塗り直しリペアしたレガシー艇は、昨年僕の個展で作品になりました。アメリカで生産され日本に渡り、兵庫県の家族に愛され、朽ち、拾われ、色が変わり、僕の家族に愛され、今は美術作品になっています。数奇な運命ですね。

以上が、ただの物欲からはじまった、カナディアンカヌーの事柄です。

人類が歩んできた歴史と密接に関係するカヌーについて僕が書けることは限られますが、少しでも、暇を潰していただけたのなら幸いです。僕が消え去った後、この艇は、次どこに流れ着くのでしょう。

泳げないけど水が好きなのでカナディアンカヌーをリペアする
金光男個展「グッド・バイ・マイ・ラブ」インスタレーションビュー(2021年、LEESAYA、東京) Photo by Ichiro Mishima Courtesy of LEESAYA

LEESAYAホームページ内に個展ステートメントがあります。良かったら見てください。)

金光男 / Mitsuo Kim
1987年大阪市平野区生まれ。2012年京都市立芸術大学版画専攻修了。シルクスクリーンプリントとパラフィンワックスを組み合わせた作品をベースに制作、表現活動を行っている。

instagram https://www.instagram.com/mitsuooo/

LEESAYA https://leesaya.jp/exhibitions/leesaya-goodbye/

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