2024年春、音楽家の日野浩志郎(ひの・こうしろう)と詩人・池田昇太郎(いけだ・しょうたろう)による、音と声の表現を探る3カ年プロジェクト「歌と逆に。歌に。」がスタートした。本プロジェクトにおけるキーパーソンであり、重要なテーマとなるのが、1903年に大阪で生まれ、戦前から戦後にかけて大阪の風景や土地の人々を眼差してきた詩人・小野十三郎(おの・とおざぶろう)とその詩作だ。本記事では、プロジェクトの制作プロセスを参考文献とともに綴る。
小野十三郎は戦前から活動を行ってきた詩人であり、アナーキズムに傾倒した詩集の出版等を経て、「短歌的抒情の否定」、つまり短歌(57577)の形式や感情的な表現を否定するという主張を行った詩人です。中でも1939年に出版された小野の代表的詩集「大阪」を読んでいると、詩の構造や感情的な表現へのカウンター/嫌悪感のようなものを感じると同時に、「硫酸」、「マグネシウム」、「ドブ」、「葦(植物のあし)」、のような冷たく虚無を感じる荒廃した言葉が際立ち、ポストパンクを聴いてるようなソリッドさに何度もゾクっとさせられました。詩集の中で大阪の様々な地名や川等が登場しますが、今回の会場である名村造船所周辺を含む工場地帯は詩集の中でも重要な場所であることが分かります。
——日野浩志郎(作曲)「制作にあたって共同制作者へ向けたメッセージ」より引用
「歌と逆に。歌に。」プロジェクトは、おおさか創造千島財団の新たな取り組みである「KCVセレクション」の第1弾として、日野に音楽公演の制作依頼があったことを発端とする。これまでにも機会があるごとに声と音の表現に挑戦してきた日野だが、あらためて作品をつくるパートナーとして声をかけたのが、大阪・天下茶屋の山本製菓、そして長野・松本の2拠点で活動する詩人の池田だった。
池田は、日野との電話口で小野十三郎の名前を伝え、「作品のテーマに置いてはどうか?」と提案する。もともと、LVDB BOOKS店主に薦められ購入したエッセイ集『大阪 ー昨日・今日・明日ー』で小野の著作に触れた池田は、その著作や詩集を掘り下げていくなか、小野自身が詩作のテーマとした「短歌的叙情の否定」「歌と逆に歌に」と出合い、同じ詩人としていつか向き合う必要を感じていたという(誕生日が同じという偶然も含め)。そんな経緯と一筋縄ではいかないテーマを告げられ、はじめて小野の詩句に触れた日野は、先に引用したメッセージにあるように、詩のなかに音楽的感性を見出した。
詩集『大阪』は1939年、1953年と2回刊行されている。小野がまなざした第二次大戦前から戦中の大阪、そして戦後の大阪。この2つの詩集をひもとくところから、プロジェクトはスタートした。
公演日時:
①8月16日(金)19:30-
②8月17日(土)14:30-
③8月17日(土)19:30-
④8月18日(日)14:30-
※開場は各開演の30分前を予定
会場:クリエイティブセンター大阪内 Black Chamber
料金:一般=4,000円、U25=3,000円、当日=5,000円
チケット取扱い:ZAIKOイベントページにて
*
作曲:日野浩志郎
詩・構成:池田昇太郎
出演:池田昇太郎、坂井遥香、白丸たくト、田上敦巳、谷口かんな、中川裕貴、日野浩志郎
舞台監督:小林勇陽
音響:西川文章
照明:中山奈美
美術:LOYALTY FLOWERS
録音・フィールドレコーディング音源提供:東岳志
宣伝美術:大槻智央
宣伝写真:Katja Stuke & Oliver Sieber、Richard James Dunn
宣伝・記録編集:永江大
記録映像:Nishi Junnosuke
記録写真:井上嘉和、Richard James Dunn
制作:伴朱音
主催:株式会社鳥友会、日野浩志郎
共催:一般財団法人 おおさか創造千島財団「KCVセレクション」
助成:大阪市助成事業、全国税理士共栄会
メディアパートナー:paperC
協力:大阪文学学校、エル・ライブラリー