本特集では、ドキュメンタリーとフィクションの関係やその境界について向き合いました。それは、「事実」「作為」「理解」というような言葉の定義や、それらに付随する葛藤の輪郭をなぞっていくような作業であり、あらためてドキュメンタリーとフィクションの境界というものがいかに流動的で、相互的関係にあるかを感じています。 人が食べるという行為をインタビューを通して観察・分析してきた独立人類学者の磯野真穂さんとの対談では、他者を理解することについて言葉を交わしました。また、現代フランス哲学、芸術学、映像論をフィールドに文筆業を行う福尾匠さん、同じく、映画や文芸を中心とした評論・文筆活動を行う五所純子さん、そして、劇団「ゆうめい」を主宰し、自身の体験を二次創作的に作品化する脚本&演出家・池田亮さんの寄稿では、立場の異なる三者の視点からドキュメンタリーとフィクションの地平の先になにを見るのかを言葉にしていただきました。 対岸の風景を可視化していくこと、まだ見ぬ世界を知覚すること、その先に結ばれた像が唯一絶対の真実から開放してくれることを信じて。そして、今日もわたしは石をなぞる。 小田香 Kaori Oda ー 1987年大阪生まれ。フィルムメーカー。2016年、タル・ベーラが陣頭指揮するfilm.factoryを修了。第一長編作『鉱 ARAGANE』が山形国際ドキュメンタリー映画祭アジア千波万波部門にて特別賞受賞。2019年、『セノーテ』がロッテルダム国際映画祭などを巡回。2020年、第1回大島渚賞受賞。2021年、第71回芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。
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2020.06.26
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ブックデザイン:芝野健太『「うつしがたり 小出麻代」記録集』

ブックデザイン:芝野健太『「うつしがたり 小出麻代」記録集』

美術印刷に特化した印刷会社・ライブアートブックス(大伸社)に所属し、グラフィックデザインと印刷設計を手がける芝野健太さん。印刷・製本のさまざまな手法を用いて、ものの質感やたたずまいを丁寧にデザインしています。

今回の大阪納品物語は、芝野さんがアーティスト・小出麻代さんとともに制作し、2020年3月に発刊した『「うつしがたり 小出麻代」記録集』を紹介します。

2019年11月、枚方市御殿山生涯学習美術センターにて開催された小出さんの個展「うつしがたり」。作家による、施設周辺に住む人々への聞き取りと地域のリサーチを経て生まれた作品が展示されました。

記録集は、展示空間を独自の視点で切り取った松見拓也さんの写真をメインに、小出さんの「うつしがたり」という手法や作品のあり方を考察するエッセイ(執筆はキュレーター・伊藤まゆみさん、建築リサーチャー・川勝真一さん)が添えられています。「アートブック」と言ったほうがしっくりくる、そんな手の込んだ製本と印刷がなされた記録集について、展示の内容を含め、芝野さんと小出さんに伺いました。

ブックデザイン:芝野健太『「うつしがたり 小出麻代」記録集』

ーー「うつしがたり」は、どんな展示でしたか?

小出:展覧会の会場となった美術センターを日常的に利用する人々や、地域の子どもたち、商店を営む人々がどんなことを考え、どんなふうに日々を過ごしているのか。人に話すようなことではないかもしれない、すごく些細な、けれど、その人自身をかたちづくっているはず(きたはず)のあれこれを知りたいなと思ったところから、制作がスタートしました。インタビューさせてもらったり、ワークショップで制作をお願いしたりと、自身の作品・展覧会ではあるけれど、人に委ねたり、やり取りしながら制作を進めた部分が多く、これまでとは違ったアプローチの展覧会になったかなと思います。

ブックデザイン:芝野健太『「うつしがたり 小出麻代」記録集』

ーー記録集を制作・デザインするうえで工夫した点を教えてください。

芝野:まず表紙は、小出さんがセンターを利用するお子さんへ依頼したアンケート「今日あなたがここに来るまでに見つけたものを教えてください」の回答メモを全面に並べました。当初は作品制作のために依頼したアンケートですが、お子さんの回答内容や手書きの文字、そこに添えられた絵があまりに純粋で素敵に感じ、チラシにも、記録集の表紙にも使うことにしました。

そして、本の内容は、発行部数が300部と少ないこと、予算が限られていることもあり、展示風景やエッセイ、ワークショップの記録など、記録集としての側面を主軸にしつつ、アーティストに参加してもらい、手作業を挟んでつくっていきたいと考えました。

出展作品のなかに、板鏡の上にシルクで印刷した作品があったのですが、その版を再利用してメタリック紙にシルク刷りした紙を貼って再現したり、御殿山のまちの人たちから聞き取ったことを小出さんが再編したテキストを折って貼ったり。また、小出さんがもともと製本の知識を持っていたこともあって、「三つ目綴じ」という方法で手製本をしてもらいました。

展覧会は展示される空間や期間があって、記録集はそれをまとめたものという関係性は受け入れつつ、上記のような過程を経て、この本が一般的な記録集の役割以上に、本という形式のなかで時間や場所を超えて、展覧会をまた体験できるようなものになれば良いなと思っていました。

ブックデザイン:芝野健太『「うつしがたり 小出麻代」記録集』
ブックデザイン:芝野健太『「うつしがたり 小出麻代」記録集』
ブックデザイン:芝野健太『「うつしがたり 小出麻代」記録集』

ーー記録集をつくる過程で、印象に残っているやりとり、出来事はありましたか?

小出:作品で鏡に地図をプリントしたものがあったのですが、同じイメージをメタリック紙に刷って記録集のページに貼ったり、製本したりと、芝野さんと2人で1冊ずつ内職作業をしてつくりました。

最初の頃は、1冊完成させるのにとても時間がかかってしまい、締め切りまでに全冊完成させられるのか少し心配になりました。けれど、作品だけでなく、記録集にも自分の手で何かを加えることが、展覧会の内容と結びつく意味があると思いましたし、作業するたびに展覧会を振り返る機会にもなりました。展覧会の記録集だけど、また別の作品を芝野さんや写真撮影をお願いした松見さんとつくれたという感覚で、とても楽しかったです。

ブックデザイン:芝野健太『「うつしがたり 小出麻代」記録集』

芝野:手製本はセットしたものを固定して、錐で穴をあけて、糸で綴じる、というとても根気のいる作業です。同じことを製本会社で行う場合は、分業して一部工程では機械も使いながら効率的にやっていきますが、小出さんは手作業でほぼ1人でやってくれました。僕も小出さんのアトリエに伺って貼り作業のお手伝いをしましたが、それぞれ夢中になって無言の時間が続き、一息したら少し休憩・お話ししてまた再開、の繰り返しです(笑)。

おそらくアーティストにとっても、自分自身がしんどい思いをせずにものが完成する方が楽なはずですが、小出さんはむしろ面白そうだと前向きに受け入れてくれました。小出さんが、記録集も展覧会の一部と考えている、または作品制作においても記録集制作においても一貫した姿勢を持っているという印象があって、それこそがこの記録集の「質」を決める上でとても大きな出来事だったと思います。

ブックデザイン:芝野健太『「うつしがたり 小出麻代」記録集』

『「うつしがたり 小出麻代」記録集』
2020年3月発行

作家:小出麻代
編集・発行:枚方市立御殿山生涯学習美術センター
エッセイ:川勝真一、伊藤まゆみ
展示写真:松見拓也
デザイン・印刷設計:芝野健太

仕様:
横225×縦148mm、32ページ、三つ目綴じ製本
300部(非売品)

枚方市立御殿山生涯学習美術センター
問合:050-7102-3135

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