大阪を拠点に活動するグラフィックデザイナー・増永明子さん。マスナガデザイン部として、広告、ロゴ、装丁、UIまで幅広いデザインを手がけながら、生活や社会とのコミュニケーションを思考しています。
そんな増永さんのお仕事を紹介する第2弾(第1弾の記事は「金平堂」)は、吹田市が発行した防災ブック『知る 考える 動く』。防災のための3つのアクション「知る」「考える」「動く」をテーマに制作された吹田市オリジナルの防災ブックで、2019年10月、市内全戸・全事業者に配布されました。増永さんは、くどうこうきちさんとともにグラフィックデザインを担当しています。山内庸資さんと玉田紀子さんのイラストを用いて、市内で起こり得るさまざまな災害とその対応をやさしく図説。吹田市のWebサイトで電子ブック版・PDF(多言語対応)も公開中です。
今回は、クリエイティブディレクターを務めた凸版印刷株式会社の只熊大資さんと増永さんに制作背景をお伺いします。
ーープロジェクトの経緯を教えてください。
只熊:「“自分たちのまちは自分たちで守る”という連帯感のもとに、日頃から備えをしていただき、障がいのある方、高齢の方、小さな子どもたちには、日頃から気を配っていただくなど、地域の方と顔の見える関係を作っていただくことが大切である(事業仕様書より)」として、吹田市が進める地域防災計画のなかで防災ブックの制作を担当しました。実は、制作したのは平成30年度。レイアウト制作までの事業として印刷データを納品したのですが、結果的に平成31年度事業の印刷・製本にも携わらせていただくことができ、今回の市内全戸配布に至りました。
ーーどんなプロセスで防災ブックが出来上がったのでしょうか?
只熊:市長から直々に「子どもたちでも理解できる防災ブックをつくってほしい」との依頼があり、市長自ら高い防災意志を持っていることに感動した一方で、越えるべきハードルの高さも痛感しました。
特に、“吹田市民”のための防災ブックなので、吹田市の立地や住環境の特性を十分理解しながら作成すること、子どもにもやさしい表現をすることが求められました。そこで、最初に取り組んだのが、ワークショップ開催などの市民の声を反映するための調査業務。吹田市の現状や市民の方々の防災意識レベルなど、そこで得られた情報をもとに防災ブック制作を進めていきました。実際に調べてみると、吹田市の住宅の2/3が高層住宅だったことには驚きましたね。
多種多様な考え方、条件の方がいらっしゃるので、100パーセント達成できたかはわかりませんが、差別的な表現や不快に感じる表現などを回避することにも細心の注意を払いました。
制作を進めていた2018年夏、関西で大規模な水害や地震が多発しました。当然のことながら災害対応が優先され、防災ブック制作は一時中断。自分が関わっている仕事の重要性を再確認し、納期が迫るなか試行錯誤していたため、心穏やかに年を越すことができなかったことを覚えています。
ーー工夫した点・こだわりの点を教えてください。
増永:市長からの「いままでにない、子どもにもわかる防災ブックを」というリクエストにチーム一同で悩みましたが、子どもたちが楽しく理解できるものとしてイラストやクイズを多く入れた内容で進めました。
これまで多くの自治体が発信してきた防災冊子は、災害の画像を多用して恐怖心を抱かせるような誌面が多かったのですが、画像が1点も入っていない誌面づくりで、これまでにない防災ブックに仕上がったと思います。
只熊:多言語版はもちろん、点字ブックも制作し、多様な方々への対応に挑戦しました。また、印刷する用紙にもこだわりたかったのですが、市内全戸配布に伴う配布用の箱の厚みと配送時の総重量の制限があり、用紙の選択肢が限定的になったことは少し心残りです。
でも最近、Facebookで「子どもが防災ブックを毎日読んで貸してくれない」「子どもが“防災ずきん、防災ずきん”と話している」などの投稿を見かけました。ひとりでも防災意識が向上した方がいるかもしれないと知り、この仕事に携わったことの意味に感動しています。
吹田市防災ブック『知る 考える 動く』
2019年10月発行
発行:吹田市 総務部危機管理室
監修:河田惠昭クリエイティブディレクター:只熊大資(凸版印刷株式会社)
アートディレクター:増永明子
デザイン:くどうこうきち、増永明子
イラストレーター:山内庸資、玉田紀子
編集:有限会社オフィス朔
吹田市防災ブック『知る 考える 動く』
電子版・PDF版(日本語、English、中文、한국어)
ダウンロードはこちらから
https://www.city.suita.osaka.jp/home/soshiki/div-somu/kikikanri/_102246/bosaibook.html
吹田市総務部危機管理室
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