2019年に平野舞が立ち上げた芸術活動体、孤独の練習の次回作『柔和なニューワールド』が大阪市北加賀屋・音ビルで、2021年12月2日(木)~5日(日)にかけて開催される。
その1人は、独りで話す。
その1人は、独りで書く。
その1人は、独りで歩く。
たった独りの1人は、わたしかそれともあなたか。
(孤独の練習Webサイトより)
映像では、幽霊のように薄いコントラストになった1人の役者が、歩いて来て中央の椅子に座る。そして、また別の役者が同様に現れ、それぞれの顔や体のパーツがレイヤー上に重なる。そこに現れるのは、もはや誰なのかわからない「個」のようなものだ。役者一人ひとりの所作が誰のものなのか、次第に不透明になっていく。
前作『Lost & Found』は、上演期間中各回の観客数を10名と限定して、同じ音ビルで開催された。観客は会場内を自由に歩き回ることができ、各々が現場に置かれたノートパソコンやモニターを覗き込んだりする動作、人々の移動によっても、独自の舞台空間が生まれていた。公演には役者が1人だけ登場し、各回で出演する役者も内容も異なる。筆者が見たのは坂井遥香の回だ。坂井は均等に配置された椅子を順番に移動し、それぞれの椅子に到達しては、顔の表情を変えたり、脱いだ靴を持って次の椅子へ移動したり、さまざまな所作を行う。はじめはゆっくりと行われていたそれらの動きは反復され、次第に早くなり「運動」のようにも見えてくる。同時に、一つひとつの動きを早くしようとすることで、所作は乱れ、「きちんと」行えなくなっていく。そして、劇中で読み上げられる、コロナがなかった世界線の日記、スポーツ大会の歓声の効果音、モニターで流れる映像での、役者全員のマスゲーム的な蠢き、その場には1人しか出演しないという人的制限……それらの情報が積み重ねられるにつれ、坂井の動きが、日常を生きるための個人練習のように見えてくる。
『Lost & Found』は、役者1人が観客と対峙する時間と、映像空間とで構成された舞台になっていた。映像のなかで複数人のフォーメーション、均一な動きによってつくり出される幾何学的なイメージは強烈な印象を残したが、私たちはまだそれを直接「体験」していないのかもしれない。スクリーンの内側にとどまっていた役者たちは、今回こそは全員揃って私たちの目の前に現れるのか。
本公演『柔和なニューワールド』では、「echo(共鳴・模倣・残響)する身体」がキーワードになるという。前作より出演する赤松美佐紀、菊池航、升田学のほか、新たに植木歩生子、松永理央らも参加。その幾何学的イメージと役者たちの身体がどう交差するのか、楽しみだ。また、前作に引き続き、作曲をgoat、YPYとして活動する音楽家・日野浩志郎が担当(会場の音ビルは日野のスタジオでもある)。稽古場で役者の動きや演出を見ながら、その場で曲を編集したという楽曲のバリエーションは、前回よりもさらに増えているそうだ。舞台に密着した音づくりにも注目したい。
日程:2021年12月2日(木)~5日(日)
会場:音ビル1階 ガレージ・スペース
チケット料金:前売り3,500円、当日3,800円
チケット取扱:Pass Market
構成・演出:平野舞
音楽:日野浩志郎
出演:赤松美佐紀、植木歩生子、菊池航、升田学、松永理央
舞台監督:大田和司
照明:吉本有輝子(真昼)
音響:佐藤武紀
衣裳:池永佳代
宣伝美術:升田学
制作協力:山﨑佳奈子
制作・主催:孤独の練習
協力:千鳥土地株式会社、ICECREAM MUSIC、Club Daphnia、ゲキゲキ/劇団『劇団』、Kayoyo_beyond、KANKARA Inc. 、アートーン、男肉duSoleil、ANTIBODIES COLLECTIVE、オルタナキッチンOooze
【文化庁「ARTS for the future!」補助対象事業】
※小学生未満来場不可
※予約に関する注意事項を孤独の練習Webサイトで要確認
音ビル
大阪市住之江区北加賀屋5-5-1
(旧名和ビル)