大阪のアートハブ・TRA-TRAVELが実施するアーティスト・イン・レジデンス企画「AIRΔ」のショートリサーチレジデンス作家として来日している、ニューヨークを拠点とするアメリカ人ビジュアルアーティスト、タイラー・コバーン(Tyler Coburn)を迎えてのトークイベントとワークショップが、大阪市西成区にて開催される。
コバーンは、多様なメディアを用い、植物学、法律、人間工学、美術館などを題材に制作を行う作家。これまでポンピドゥーセンター(パリ)、ホイットニー美術館(ニューヨーク)、ヘイワード・ギャラリー(ロンドン)などで作品を発表している。
トークイベントでは、コバーンのこれまでの活動の紹介から始まり、日本で行った南蛮芸術に関するプロジェクトについて話すことを通して、感覚から歴史にアプローチする方法を提示。
ワークショップ「カウンターファクチュアルズ・反実仮想」は、歴史上で起きた事象に対して別のシナリオを想像することから、私たちの現在の有り様に別解釈をもたらす、ゲーム式のワークショップ。歴史を再構築するダイナミックな方法から、「今」という瞬間を批評的に見つめなおす。
なお、本イベントで通訳を行う池田昇太郎が行ったアーティストへのインタビューが届いたので、以下に掲載する。
池田昇太郎(以下SI):今回大阪でトークイベントとワークショップを実施しますが、そもそもタイラーさんは東京のTOKASでアーティストインレジデンスとして滞在されていました。TOKAS滞在中に、江戸時代に南蛮人(ヨーロッパ人)を描いた織部焼の燭台を2本組み合わせた「Candlestick Man」という作品を制作されましたね。 この作品の制作過程と、南蛮の歴史に興味を持ったきっかけを教えていただけますか。
タイラー・コバーン(以下TC):「Candlestick Man」は、西洋人が初めて日本に辿り着いた出来事に焦点を当てています。1543年、ポルトガル人2人を乗せた船が種子島に漂着しました。 これが日本のポルトガルやヨーロッパとの約1世紀にわたる貿易の始まりです。 この時期に他の欧州各国も日本への関心を示し始めました。
私は、当時の日本の芸術家や職人がどのようにヨーロッパ人を描いていたのかに興味を持ちました。彼らは、今も全国の博物館にある有名な屏風(南蛮屏風)から、火薬瓶、乗馬用の鞍、燭台まで、あらゆる場面に登場します。
それと私自身が、西洋的空想の中でとりわけ対象化される「日本」という国を訪れるいちヨーロッパ系の人間であるということも関係しているかもしれません。ヨーロッパ人が日本人視点から描かれ、オブジェ/対象化されるにまで至った歴史的瞬間に惹かれています。
TOKASでのレジデンス中に、それら2つの燭台を手に入れ、それを用いて少人数の観客向けのパフォーマンス作品を制作しました。私が英語で、俳優の長沼航が日本語で上演します。 2023年7月2日から8月5日までTOKAS本郷で開催されるので、ぜひこちらからご予約ください。
SI: それから、今回大阪で開催されるワークショップ「Counterfactuals(カウンターファクチュアルズ)/反実仮想」について少し説明してもらえますか?
TC: 「Counterfactuals(カウンターファクチュアルズ) 」とは、歴史が辿ることのなかったある別のルートについて推測する思考実験です。 この方法は、ジョン・スチュアート・ミルの言う「確定した意見の深い眠り」*を打ち破り、過去と現在を理解する別の方法を開くことができると信じており、この思考実験をアートの手法として用いたいと考え、2020年からアートの領域でゲーム形式のワークショップを開催しています。 これらのセッションでは、参加者が関心を持つカウンターファクチュアルズ/反実仮想のシナリオを紹介し、小グループに分かれて協力しながら共にシナリオを構成していきます。 シナリオは、ワークショップが開催される場所や地域に特化した場合もあります。例えば、ニューヨークでのワークショップでは、市内の戦後の公営住宅に関する異なる歴史を作り上げました。
SI: タイラーさんの作品ではテキストが一定の位置を占めますが、作品内のライティングやストーリーテリングの関係、そしてそれらがあなたの多様な実践にどのような関わりを持っているか教えていただけますか?
TC: ライティングは、プロジェクトによって異なる形で作品に取り入れています。
「Candlestick Man」のように、パフォーマンスのために台本が書かれることもあります。 「Counterfactuals」の場合、ワークショップを振り返り、私の手法を読者と共有するためにエッセイを発表しました。
展覧会向けに制作されたアート作品だけでは必ずしも情報を十分に伝えることが出来ないので、別の方法も駆使しながらリサーチを紹介することを試みています。
*「人は疑わしいと思わなくなったことがらについては、考えるのをやめたがる。それが人間のどうしようもない性向であり、人間のあやまちの半分はそれが原因だ。『確定した意見は深い眠りにつく』とは、現代のある作家の言葉だが、まさに至言である」(ジョン・スチュアート・ミル『自由論』光文社古典新訳文庫2012 p.106.)
AIRΔ vol.6 タイラー・コバーン Tyler Coburn
トークイベント「リモートセンセーション」
日時:2023年7月14日(金)19:00〜20:30
会場:DOYANEN HOTELS BAKURO
料金:入場無料
※予約不要、日英通訳有ワークショップ「カウンターファクチュアルズ・反実仮想」
日時:2023年7月15日(土)14:00〜17:00 (注:ワークショップの都合上、終了時間が最大1時間延長する可能性あり)
会場:イチノジュウニのヨン
料金:1ドリンク制
定員:12名 ※予約制(先着順)。info.tratravel@gmail.com宛に、(1)氏名と(2)題名に「ワークショップ」と記載の上、予約メールを送信
※日英通訳有通訳:池田昇太郎
主催:TRA-TRAVEL 共催:DOYANEN HOTELS
助成:大阪市
協力:C-index、Tokyo Arts and Space、一般社団法人アラヤシキ、NART (敬称略)
大阪市西成区萩之茶屋2-8-12
大阪市西成区山王1-12-4