肥後橋のThe Third Gallery Aya所属の作家・渡邊耕一が、2023年の「さがみはら写真賞」を受賞した。その受賞の対象となった作品シリーズを紹介する展覧会「毒消草の夢」が、神奈川県の相模原市民ギャラリーにて開催される。
渡邊は1967年大阪府生まれ。1990年に大阪市立大学文学部心理学専攻卒業、2000年 IMI研究所写真コース修了。
今回受賞したのは、江戸末期の書物に書かれた「昆答刺越兒發(コンタラエルハ)」という謎の薬草に取り組んだシリーズ。「薬」としての植物の側面に着目し、世界中で取引される商品として資源化される植物の姿を写真作品で浮き彫りにした。その道行は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に翻弄され、治療法を求め続ける現代人の姿と重なる。人類の活動が大規模な環境の変化をもたらした「人新世」に突入する中、人間と自然の関わりから現在を生きる術を思考する作品群だ。
アーティストステイトメント
江戸末期の蘭方医学書にその記載を残す謎の薬草・昆答刺越兒發(コンタラエルハ)。その名前は、スペイン語の「コントライェルバ」に由来する。コントラは「(毒を)無効にする」、イェルバは「草」。つまり「コンタラエルハ」は「毒消草」だったのだ。江戸時代の蘭学書の、あるいは大航海時代の植物誌や医学書の中でコンタラエルハの痕跡を辿ると、同じ名前を持つ幾つもの植物が現れては消えていく。私が迷い込んだのは、15世紀から現代に至る500年におよぶ時間とヨーロッパ-アメリカ-アジアを結ぶ広大な空間にひろがる迷宮だった。今は使われないこの薬草の痕跡を追う旅の中で、何百年にも渡って作られてきた毒消草を探し求める人々のネットワークの存在、香辛料や薬として世界中で取引される商品としての植物の資源化が浮き彫りになる。その過程で、人間の次元を超えて生きる生命体としての植物の姿は見失われてしまう。
旅の終わりに辿り着いた、コントライェルバが自生する森の、折り重なる形態の中で、コントライェルバの範疇を巡る絡れは文字通り解毒され、地質学的な時間が畳み込まれた、名状しがたい出来事として目の前に投げ出される。そこには感覚を研ぎ澄まさなければ聴きとることができない、言葉が無効になったのちに残る響、声ならぬ声が満ちている。
会期:2023年10月6日(金)〜23 日(月)
会場:相模原市民ギャラリー
時間:10:00〜19:00、初日のみ12:00〜19:00
休館:水曜
フォトシンポジウム・ギャラリートーク2023「新たな時代と向き合う写真」
日時:10月7日(土)15:45〜16:15
会場:杜のホールはしもと 多目的室(ミウィ橋本8F)
コーディネーター:伊藤俊治(東京藝術大学名誉教授、美術史家、美術評論家)
登壇者:
渡邊 耕一 写真家(さがみはら写真賞受賞者)
ERIC 写真家(さがみはら写真アジア賞受賞者)
宛 超凡 写真家(さがみはら写真新人奨励賞受賞者)
西野 嘉憲 写真家(さがみはら写真新人奨励賞受賞者)
料金:入場無料(事前申込不要)写真集『毒消草の夢 デトックスプランツ・ヒストリー』
発行:青幻舎
ページ数:160ページ
価格:6,600円(税込)寄稿:アナ・ツィン氏(カリフォルニア大学サンタクルーズ校文化人類学科教授)
申込先:info@thethirdgalleryaya.com / 06-6445-3557
オンライン購入先:こちら
相模原市民ギャラリー
神奈川県相模原市中央区相模原1-1-3
セレオ相模原4F