稲垣元則は90年代初頭より、つねに変わらぬ姿勢で自己と対峙し、写真や映像、ドローイング等のメディアを用いて作品を制作。他と比較し得ない作風で高い評価を獲得しています。
主に木立や水辺の波間といった自然の風景や身体を主な題材とした写真や映像作品では、映し出される対象そのものより、その状態や揺らぎ、間合いの狭間に焦点をあて、見る人の意識の中にゆっくりと浸透する、深く強い視覚体験を提示します。
約20年前の2004年、ノマルでの個展「common」でデカルコマニーの手法を用いて描いた150号の油彩画を複数点発表。しかし一方で絵画を描くこと自体に不自由さを感じていた稲垣は、以降これまで長年に渡りキャンバスに描く行為自体を敬遠してきました。
今展では、敢えて稲垣にとって踏み絵とも言える”絵画を描くこと”に向き合うことをテーマとしました。それは19年の間に自ら意識せず培ってきたルールを打ち破る、稲垣自身の強い決意の表れと言えます。絵画という制度の不自由さに打ち勝ち、そこから絵画として結実させる試みとなります。
近年は地元・茨木を拠点に活動するアートプロジェクトユニット「One Art Project」での取り組みや、一昨年のデュッセルドルフ(ドイツ)でのレジデンスプログラムへの参加などを通し、様々な経験を積み重ねてきた稲垣元則。常に独自の作風を深化させながらも、現状に慢心せず今展でも新たなブレイクスルーに挑戦します。
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Pain-ting ペイン-ティング
絵でないといけないものがあるはずです。
そう語るのであれば、そういう状況を作るのであれば、絵でなくても、写真でも良いのではないかと思うことがあります。映像の方が良いのではないか、または言葉でも可能ではないかと。
絵には絵でしか描けないものがあるのではないかと思います。言葉にできないことは当たり前で、さらに感情にもできないのかもしれません。
私にとって絵は何かを再現するものではありません。
明確なもの、わかることをどんどんとほぐしてゆき、わからないこと、曖昧であることを強く明確にします。
絵はフィジカルなもので、絵そのものがその場と時間を提供します。絵はそこにしかないのです。
それは極めて現実的なものです。
そしてさらには事実的なものです。絵は事実になった時の衝撃です。その衝撃は私にとって大抵が痛みです。
私にとって、この痛みがなければ表現とは言えません。
この場合の痛みとは、そのまま自由のことを指しています。
2023年9月 稲垣元則
(Webサイトより)
会期:2023年11月4日(土)〜12月9日(土)
会場:ギャラリーノマル
時間:13:00~19:00
休廊:日曜、祝日
後援:ゲーテ・インスティトゥート大阪・京都
関連プログラム
Opening | Gallery Talk
作家とディレクター・林によるギャラリートーク
日時:11月4日(土)18:00〜
※予約不要、参加無料Closing Live「Pain-ting」
米国を拠点とする本田素子、東京からの内田静男、ノマルをホームとするsara(.es)の3名によるライブを展示会場にて開催。内田と本田は初顔合わせ、saraを接点とした一夜限りの共演で主にデュオ構成を予定。
日時:12月9日(土)19:30~(開場19:00)
会場:Gallery Nomart
出演:sara(.es) 、内田静男、本田素子
定員:30名
料金:前売 3,000円、当日 3,500円
予約:予約フォームもしくは電話 (06-6964-2323)にて
大阪市城東区永田3-5-22