
大阪市内の2つのギャラリーのディレクター、菰田寿允(Marco Gallery)と岡田慎平(TEZUKAYAMA GALLERY)が2024年7月にオープンした、同時代のARTを発信する場「PoP (Point of Parallel) 」にて、グループ展「Panoramic Room」が開催される。
今回は、菰田、岡田に加え、東京のギャラリー・EUKARYOTE(ユーカリオ)にてディレクターを務める鈴⽊亮、ニット作家のyoasobi をセレクターとして迎え、7名のアーティストの作品を展示する。
展覧会ステートメント
[Marco Gallery 菰⽥]
私たちは、常に何かを選び、何かに選ばれて⽣きている。そして、その⾜跡が今の私⾃⾝を表しているとも⾔ってもいいかもしれない。
この選び選ばれるという関係の中では、⾃分と他者が⼊れ違いになる瞬間が繰り返されていく。つまり、時に⾃分が相⼿の写し鏡になり、相⼿が⾃分の写し鏡になっていく。
現代においてこの関係はますます複雑になっているような気がする。その中で私たちは⾃⼰を⾒失い、発⾒し、また、⾒失い、そして発⾒する、ということを繰り返しているのではないだろうか。この選び選ばれるという⽅法によって構成された展覧会を通して、個⼈の存在が⼊り乱れ、氾濫している現代を⽣きる私たち⾃⾝の「ありか」探しを実験してみたい。
具体的には、今回の展⽰は、下記のように構築することとなった。
今回は、まず、3ディレクター(ギャラリーディレクター)×yoasobi(現在はニット作家であるが、元古着屋の販売員)という⼀⾒異なるようだが、互いに「(作家/洋服を)選ぶ」という接点を持つ 2 組の関係性の存在が前提にある。
そして、彼⼥がもしも飾るなら?を想像しながら、3ギャラリーのディレクターが作家を選抜した。
その中からyoasobiが選抜した作家6名を今回の展覧会参加作家として迎え、まるでyoasobiの部屋を作るかのように展⽰空間を構成していければと考えている。
そこでは、yoasobiという1⼈のペルソナの存在の下、4者の視線が交錯した架空の誰かの部屋が構築される。
その時にたち現れる誰か、はどんな⼈物なのだろうか。[TEZUKAYAMA GALLERY 岡⽥]
⼈間の意思決定とは⼼理的、社会的、⽂化的な要因など複数の要素が複雑に絡み合う事で影響を及ぼし、「選択」の回路が形成されるそうだ。⾏動経済学や脳科学などにおいても「意思決定のメカニズム」は研究対象とされてきた。
インターネットが加速度的に発達した現代において、個⼈では処理しきれないほどの膨⼤な情報に取り囲まれている環境が当たり前となって久しい。
ログインをすれば、時系列や地理的な制限を⾶び越えた情報の濁流が⽬前に広がっている。
その混沌とした状況から検索アルゴリズム、AIが情報を瞬時に効率的に振り分け、最適解であるかのように私達に提供してくれる。しかし、そこには濾過された「⾒たい」情報のみが残り、却って選択肢を狭めている状況に⾃らが陥っているのではないか。それはまるで、⾃由であるのに不⾃由な状態と⾔えないだろうか。と私は思う。
物理的に情報を得る(⾜をつかって情報を得る)という、ある種「⾮効率な」経験や体験は、時に想像もしない「驚き」や「煌き」との遭遇がある。⼈との何気ない会話、本から得た⾒識、ふと⽴ち寄ったお店で出会った品、そして、作品鑑賞もそうだ。迂回をするからこそ、得れる「何か」があるような。そんな感じだろうか。
前置きが⻑くなったが、今展は選び・選ばれるというもっとも⾝近な「選択」という⾏為をテーマに据え、展覧会ができないかという試みである。これまでのPoP同様、3⼈のディレクターがそれぞれアーティストを選抜する⽅式を採⽤したが、ここで更に4⼈⽬の共同企画者および出展作家でもあるyoasobi(ニット作家)の視点が本企画の要として加わってくる。つまり、3ディレクターはyoasobiの⼈柄や過去の話、制作物を⼿掛かりに彼⼥の趣味趣向をイメージしながら、アーティストを選抜し、その中からyoasobiの琴線に触れたアーティストを選んで貰った。
また、今展はyoasobiのアトリエあるいは部屋をイメージした展⽰空間として構成される。
なお、このテキストを書いている現時点でどのような展⽰になるのか私は想像も予測も出来ていない。これはもちろん良い意味で、だ。
⼀つの空間で複数の個の視点が錯綜しながら、乱反射を繰り返し、そこから浮かびある「何か」と遭遇できる事を期待している。
岡⽥慎平[EUKARYOTE 鈴⽊]
選ばれるということ
⼈⽣は選択の連続である シェイクスピア
正確に引⽤すると、ハムレットの⼀⽂「Life is a series of choices.」は、
⼈⽣が⼩さな選択の積み重ねで成り⽴っていることを意味している。
そこには複数の選択肢の中で、選択する側の⼈の想いが先⾏し、決定権があると考えられる。
ただし、ある教えの中では、その⼈が選ぶより先に、神がその⼈を選んでいるという解釈も存在する。
本展「Panoramic Room」でも、私の個⼈的な選択により作家を選び、その中から選ばれた作家を発表する。
時間軸を遡れば⼈間誰しもが後悔する選択があるのではないだろうか。
ただ後悔しなかった選択は思い出すことは出来ない。
それが正解であれ不正解であれ。
そもそも正解/不正解があるわけではないのかもしれない。
鈴⽊亮
アーティスト プロフィール

駒瀬 由宗/ Yutaka Komase
主観と客観が⼊り混じったメディアとして写真を扱い、独⾃の表現を⾏ってきた。近年は、⾝近な⾃然を題材とし、環境倫理の考えをベースに⼈と⾃然の関係を考察した作品を発表している。
1987 岐⾩県⽣まれ
2011 京都府⽴⼤学 ⼈間環境学部 卒業
2013 東京ビジュアルアーツ卒業

髙橋 直宏/Naohiro Takahashi
主に⽊を素材とした⼈体彫刻を制作。単⼀的で量塊のあるいわゆる⼀般的な⼈体像ではなく、バラバラにした部位を再構築し、レリーフのような平⾯的な造形でり、⾒る位置を変えることで複数の異なる像を⾒せるのが特徴である。
⾼橋はこういった造形が「正しいとされるもの」の根拠を突き動かし、あらゆる事柄への考察を促してくれるものだとしている。
1991 北海道⽣まれ
2015 ⾦沢美術⼯芸⼤学 美術⼯芸学部 美術科 彫刻専攻 卒業
2017 ⾦沢美術⼯芸⼤学⼤学院 美術⼯芸研究科 修⼠課程 彫刻専攻 彫刻コース 修了
2020 ⾦沢美術⼯芸⼤学⼤学院 博⼠後期課程美術⼯芸研究科彫刻分野 博⼠ (芸術) 学位取得

⻑⾕川 寛⽰/Kanji Hasegawa
⻑⾕川寛⽰は1990年⽣まれ、三重県在住。
2014年に東京藝術⼤学美術学部彫刻科卒業、2016年に同⼤学⼤学院美術研究科彫刻専攻修了。
同年、曹洞宗の⼤本⼭永平寺での修⾏を経て僧侶となる。
この芸術教育と僧侶としての修⾏が交差する特異な経験は、彼の創作活動に深い影響を与える。
2024年に還俗し、彫刻表現を通じて時間や歴史、⽂化の変容を探求する。儚さと普遍性を融合させた作品は、移ろう価値観や存在そのものの意味を問いかける。

古屋 湖都美/Kotomi Furuya
1997年 東京⽣まれ
2022年 東京造形⼤学造形学部美術学科絵画専攻 卒業
2024年 東京造形⼤学⼤学院造形研究科造形専攻美術研究領域修了
東京を拠点に活動
⽇常の中に⾒られる布をモチーフに、既製品に⼿を加えたり、形を模して布をつくったりすることで、布の存在や構造を⾒つめ直し再解釈を⾏います。何かを思考するときに、⽬の前のものを⼀度⼿に取って関係をつくることを制作として試みています。

Daisei Suzuki/鈴⽊ ⼤晴
1998年 京都⽣まれ。
京都精華⼤学造形学部的スタイルデザインコース卒業。京都を拠点に活動。
綴れ織作家。
織という技法を⽤いて制作するなかである時、世界には莫⼤な⽂様で溢れていることに気づいた。
国や時代を渡り歴史の中で⾊彩やデザインが少しづつ変化してきた⽂様の⼀部に着⽬し、⾃分がイメージする⾊彩と線を拾い上げ再び織ることで新たな可能性を探る。

riya/リヤ
切り絵作家。1985年、アメリカ(シカゴ)⽣まれ。2008年、多摩美術⼤学⽣産デザイン学科テキスタイルデザイン専攻を卒業。
切り絵の⼿法で、動物や⼈間、波、雲、炎、星などのアイコンを並べ、エコロジカルな視点を感じさせながら、どこか呪術的、⺠族的な意匠を想起させる作品を制作している。
原画作品の発表を作家活動のベースにしながら、雑誌などへのイラストワーク、映像作品、広告、テキスタイル、ファッション、コラボアイテムのデザインなど、切り絵を軸に幅広い活動を⾏なっている。

yoasobi
ハンドニットブランド。2018年より活動開始。
編み図はもたず、絵を描くような感覚で編む、すべて⼀点物のニット。
いまのところ、飽きるまではやろうとおもいます。
Group Exhibition “Panoramic Room”
出展作家:駒瀬由宗、髙橋直宏、⻑⾕川寛⽰、古屋湖都美、Daisei Suzuki、riya、yoasobi会期:2025年2⽉14⽇(⾦)〜 3⽉16⽇(⽇)
会場:PoP(Point of Parallel)
時間:13:00〜18:00
休廊:月・火曜、祝日 ※水曜はアポイントメント制
大阪市中央区南船場4-12-25
竹本ビル4F
※1階はMarco Gallery