
【ステートメント】
「Play Sculpture」遊ぶ彫刻。彫刻家イサム・ノグチの作品には「Play」の名を冠する群がある。
これらは遊具や小山などの風景を遊び場に変換しているものであり、多様な彼の仕事の内でも最もエッセンシャルなものの一つだ。今回の展示タイトルである「Play Sculpture」は言うまでもなくイサム・ノグチの仕事からインスピレーションを得ている。実際に、札幌の巨大公共彫刻「モエレ沼公園」には遊具を意図して作られた同名の作品が存在する。
そして、自分のこれまでの作品を思い返してみても、 「Play Sculpture」は自身にとって非常に親和性の高いコンセプトであると考えられる。
具体的には、彫刻の構成を他者に委ね、無限の構成からなるキメラを増殖させる作品「オーダーメイド」(2019〜)やガチャガチャマシンの機構を搭載した「ガチャガチャマシン型彫刻」(2021〜)のシリーズなどはゲームや玩具的な要素が強く、「Play Sculpture」と呼んで差し支えないように思う。
唐突になるが、去年の 12 月中頃にフィンガースケートボード(以下:指スケ)の存在を知った。この出会いは、自分自身の作品における「Play Sculpture」的な傾向をさらに加速させ、以前より、私の中にあった思考を真に自覚させてくれるものとなった。
まず簡単に指スケについて説明すると、指スケとはスケートボードを指ですべれるほど小さくしたもの、である。ただの玩具のように思われるかもしれないが、指を使って巧みにトリックを決める様はまさに驚きであり、華麗な印象をさえ与える、想像以上に本格的な”フィンガー”スケートボードなのだ。指スケにもスケートボードと同様にトリックを決めるためのセクションがあり、指スケのためのパークもある。元々指スケは雨の日など外で滑れないスケーターが室内でイメトレをする用途で使用している、という経緯があるため、指スケのパークもまたスケートボードのそれに準じたミニチュアスケートボードパークの様相を呈している。階段や手すり、段差、膨らみ、傾斜など条件の異なる形状が連続するパークは、さながら自由な形態の造形物のようにも見える。
指スケは大変に魅力的で、たくさんの言葉を動員したいのは山々だが一旦ここでは割愛し、今一度イサム・ノグチの作品に話を戻す。彼はたくさんの公共プロジェクトを手がけているが、中には諸事情から実現しなかったものも存在する。その代表的なものの一つが、広島の原爆慰霊碑である。政治的条件で実現し得なかったこの慰霊碑には、それ自体が魅力的な模型が残されており、模型ではあるもののノグチの思想を雄弁に語るに十分である。
今回注目するのはこの魅力的な模型、ないしは模型自体の魅力だ。
翻って本展「Play Sculpture」での試みは以下のようになる。
制作される彫刻は、架空の公園彫刻のための「公共彫刻プロジェクト模型」でもあり、実際に指スケを「Play」することができる実寸大の「パーク」でもある、そんな両儀的な状態を目指す。
そして彫刻を「Play」するために自分自身の作品を再定義し、「Play」のための種々の要素を盛り込んだ展開をしていこうと考えている。
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本展「Play Sculpture」を「Play」されるお客様へ
ご自身の指スケをお持ちになり、自由に彫刻を「Play」してくださいませ。
「Let’s play Play Sculpture!」ーイサム・ノグチとスケートボードカルチャーに尊敬と敬意を込めて。


美術家
1987年京都府生まれ。
2012年武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒業。
京都を拠点に活動。
日々目にするモノや場、行為などを公/私それぞれの視点で収集し、「彫刻」として並べ置く。自身の作品制作や展示に加え、企画・キュレーション等を通し、
「彫刻」と呼びうる条件を探りながら、公と私の併存を模索する。
近年は主に3DCGや3Dプリンター等で制作された立体や映像、仮想空間といったメディアを用いて、場の分節による多層的な空間の展開、鑑賞者との関わり方、素材と構想、といった面から彫刻表現の新たな可能性を提示しようと試みている。
また2018年より「RC HOTEL 京都八坂」ディレクター。2019年よりアートフェア「OBJECT」を共同運営。2020年にはショップ/クリエイティブチーム「ニハ(NIHA)」結成。
熊谷 卓哉 Solo Exhibition “Play Sculpture”
会期:2025年3月21日(金)~ 4月20日(日)
会場:Marco Gallery 1・3・4F
時間:13:00〜18:00
定休:⽉・⽕曜、祝日 ※⽔曜はアポイントメント制
大阪市中央区南船場1-12-25
竹本ビル 1F