2025年9月13日(土)〜10月12日(日)の期間、心斎橋のMarco Gallery内の3フロアを使用し、藤城嘘による個展 「24DOORS」、藤山恵太・tsuburaによるグループ展「現実のように-As if it were real-」、Frank Jimin Hoppによる個展「Unreal Tournament」が同時開催される。
[ギャラリーステートメント]
―「前衛」から「リアリズム」としてのキャラクター表現この度、キャラクター表現のもつ新たな「リアリズム」の多様さと可能性を主題として、4アーティストによる展覧会を開催いたします。
1990年代に登場した「ネオ・ポップ」に代表されるように、かつて、キャラクターを描くことは前衛的試みであり、サブカルチャー=アートの外部として扱われていました。
しかし、2000年代後半にSNSや動画配信サイトが普及したことで、キャラクター文化は日常的な風景やコミュニケーションの一部となってゆき、キャラクター表現は「前衛」ではなく、新たな「リアリズム」として選択されるようになりました。
この変化の中で、美術史や批評はキャラクター的表現を適切に位置付けられなくなり、「キャラクター・アート」といった曖昧な呼称とマーケット主導の評価が広がりました。
本企画は、そのような従来の「前衛」でも「キャラクター・アート」でもない、今日のキャラクター的表現に触れていただくことができれば幸いです。
参加する4人のアーティスト(藤城嘘、tsubura、藤山恵太、Frank Jimin Hopp)はそれぞれの世代的背景や文脈から、キャラクターをリアリズムとして捉え、現代社会を見つめ直す試みを行っています。

藤城嘘 個展 「24DOORS」
【ステートメント】
私が何かを能動的に創造した最初の記憶は、四方を囲む白い壁とベッドの上から始まっています。5歳のころに、病気で1年間入院したことがあり、日々の時間をラクガキに費やしては、人に見せていました。大きな紙を広げ、看護師さんやお医者さんを巻き込んで、みんなで一枚の絵を描くこともありました。思い返せば、私にとって絵を描くことの原点はコミュニケーションの手段であり、想像力をつかって病室から外に向かうための“扉”でした。絵画はいまだ“窓”に喩えられますが、その比喩は今も有効なのでしょうか。私の絵画は、出入りできる“ドア”のようなものであってほしいと思っています。デジタルイメージの制作が簡単な時代になりましたが、なお絵画を作ることに惹かれるのは、私たちが物理的な肉体で、分厚く小さな壁のようなキャンバスを、心身を踊らせながら眺め回すことが、面白いと思うからです。
日本のオタク文化やインターネット文化に登場するイメージをそのまま現代性と捉え、絵画のモチーフにしてきましたが、もちろん私が描いてきたものはそれだけではありません。キャラクターは生命力をもったまま解体され、装飾紋様や神仏の世界と触れ合います。植物や、鉱物や、風景のスケッチに溶け込み、20世紀の抽象画に擬態もします。おおきな「アニメアイ」は、ブラックホールのようにぽっかりと開いています。「キャラクター」という表象を通じて、多様な文化や社会、多様な世界へアクセスできる“ポータル”をつくりたいという欲望があらわれているのだと、自分で思っています。
絵の中の「キャラクター」が旅をして様々なものと出会い触れるように、私の絵画が、見る人をべつの時空へと誘う存在であってほしいと願っています。異なる文化や社会を行き来する“ゲート”であり、誰もが外に出るために、中で過ごすために、能動的に手を伸ばす半ば開かれた“扉”でありたいと考えています。『24DOORS』でも私は、”ドア”にラクガキするように絵を描き、そのラクガキした”ドア”を、たくさんの可能性につなげていきたいと思っています。
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藤城 嘘 / FUJISHIRO USO プロフィール
1990年東京生まれ。日本大学芸術学部美術学科絵画コース卒業。東京を拠点に活動。ポップカルチャーと現代美術を融合させ、『キャラクター』を軸に独自の絵画世界を築く画家・美術家。日本人の母と香港人の父のもと、幼少期からマンガ、アニメ、ゲーム、インターネット文化に親しみ、マンガ風の落書きを描くことを好んだ。
高校生になると、ポップカルチャーと現代美術への関心を深め、現代絵画の領域で活動を開始。キャリア初期の2007年頃から、「ポストポップ」のコンセプトの元で、インターネット文化に着想を得たドローイングや絵画を制作。同時代のアニメやイラスト、インターネットミーム、落書きやいたずら書きといった要素を融合させ、絵画のルールをはみ出していくシュールな作品を生み出す。2011年以降は、東北地方や瀬戸内地域の芸術祭への参加を機に、自然科学や美術史上のモチーフへと着想源を拡張し、キャラクターと融合させた風景画を描く。また、SNSを通じて出会ったアーティストと協働し、「ポストポッパーズ」、「カオス*ラウンジ」、「キャラベスク」などの集団展示を企画し続ける。
多様な創作物を組み合わせ、鑑賞者と共に、現代社会の文化や記憶への新たな視点が生まれる空間を目指している。

Group Exhibition「現実のように-As if it were real-」
藤山恵太・tsubura藤山恵太 プロフィール
1992年 東京生まれ
2016年 多摩美術大学美術学部絵画学科油画専攻 卒業
2018年 多摩美術大学大学院美術研究科博士前期課程絵画専攻油画 修了・作家ステートメント
ずっと感じていたことがあって、それはつまり、俺の生き方は下手くそだったことだ。
俺は”伝えたつもり”の場面で何回もやらかした。
それは生活でも仕事でも恋愛でもそうだ。俺は120%言葉を発して伝えた気分でいたが、伝わってるのは多分40%もいかない。じゃじゃ馬の割には燃費の悪い”クソエンジン”で30まで生きてきた。
いまだにデッサンは下手くそで、プリマもグリザイユも、隣のイカしたペインター達が試しているのを眺めてただけだ。
連中がドイグのうっとりするような絵画に夢中になってる中、俺はペティボンがスポンジで水色の絵の具を壁にぶちまけてる動画に夢中になってた。
俺の筆は、100均のガキ用の筆か、根本に絵の具がこびりついて開き切ったパサパサの豚毛しか持ってない。最近やっとパレットの上で”混色モドキ”ができるようになった。だから、俺はポップスターにはなれなかった。
デカいハコで、綺麗に着飾って、”時間と体温の親和、そしてその隙間を絵筆で探る感覚”なんて言えない。
売れないパンクロッカーだった。
絵の具の堆積や拭った行為が残す煌びやかなエメラルドの輝きみたいな、幻想的な描写がメタファーとなって、時代性を物語るようなことはできない。
微笑む女の子の手前で、葉巻を吸ってニコニコするクマとか、死んでるんだけど喫煙をやめないうさぎとか、そういう奴らがヤシの木の生えた側で自分勝手にうごめく感じだ。海の中をテキトーに生きるプランクトンみたいな感覚だ。儚さとか弱さとか、そういう共感性なんて無い。生きるか死ぬかしか俺の絵には無い。荒削りで、雑で、剥き出しだ。
樽の中にチョコやバニラの香りがするスコッチじゃあない。樽の木臭さに薬品の匂いがするタイプの安酒だ。クソッたれアルコールだ。
“感覚と動き、それは絵画と私たちに向けての、距離の呼吸となる”なんて言えるわけがない。
“このラリったクマはあんたのことなのかい?”そんなふうに言われるのがオチだ。俺の絵には生臭い俺自身のことが描き殴られている。俺が描くアニメの女の子も、酒瓶も、葉巻を吸うクマも、喫煙をやめられないウサギも、全部俺が観て、感じて、出力したものだ。俺はアニメが好きだし、クレヨンで描き殴るのも好きで、葉っぱや木を絵の具で頑張って描いて、結果下手くそになる煩わしさも好きだ。
一方で美術、人、社会とかそういうハイカルチャーなアート・コンセプトはもうとっくの昔に萎んでしまった。
朝早く起きて、満員電車に飛び込み、ボロボロになるまで働いて……生きるだけで精一杯な人生になっちまった。物事が人間の時間感覚を遥かに越えるレベルで移り変わるほど、超高速で動きまくる世界で、俺は俺の椅子を無くしちまった。
いや、俺は椅子の座り方を忘れたんだ。俺は俺みたいな奴ら、苦しくて精一杯な奴らに向けてきっと描いている。いつまでも、”120%の出力なんだけど、60%しか結果を出せない俺たち”に向けて。それすらも40%も伝わってないんだろうけど。燃費の悪い俺たちに乾杯!
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tsubura プロフィール
2002年 福岡県生まれ
2021年 東京造形大学造形学部美術学科絵画専攻領域入学
2025年 同大学卒業・作家ステートメント
tsuburaは、自身が生まれる前のサブカルチャーおよび1990年代から2000年代初頭の商業アニメーションやゲームから強い影響を受け、そこからインスピレーションを得て作品を制作している。大学在学中は「ピクセル絵画とキャラクターとの関係性や調和性」について研究を重ね、作品制作を通して独自の表現を追求してきた。
tsuburaのキャラクターはすべてオリジナルであり、名前や特定のモデルを持たない。彼らは、tsubura自身がかつて経験したいじめや人間関係のトラブルなど、「曖昧な記憶」や「思い出したくない記憶」をベースに生み出された存在である。こうした記憶はすでにぼやけており、明確に語ることは難しいが、その“曖昧さ”こそが作品の核となっている。
ピクセルという荒いデジタルの描写は、記憶の解像度の低さや、心に残る不確かな印象を象徴している。キャラクターたちは、まるでアニメのワンシーンのように描かれ、tsubura自身の人生に登場してきた人物たちの象徴として画面に現れる。
在学中には、映像合成に用いられる「グリーンバック」を絵画に援用した《グリーンバックシリーズ》を発表。緑一色の背景は「背景の欠如」を表現し、鑑賞者に「このキャラクターはどこにいるのか」「どんな状況なのか」といった想像を促す。視覚情報の“欠落”は、記憶の曖昧さとも重なる要素として機能している。
大学卒業後は、キャンバス作品だけでなくドローイング制作も積極的に展開。特に近年では、すでに生産終了となった既製品カセットテープやMDなどを支持体として用いたドローイング作品群を発表している。これは、現代社会における“世代交代”や“時代の移り変わり”に対する感覚から生まれたものである。tsuburaは、「モノは進化し、やがて未来へと受け継がれていく」という考えのもと、過去と現在、そして未来をつなぐような制作を志向している。
また、近年の作品では1960年代のモノクロテレビアニメーションに影響を受けたモノクロ描写を取り入れている。モノクロ表現はtsuburaにとって“過去を表す手法”であり、記憶や時代性を視覚的に示唆する重要な要素である。ZOKEI展で発表した作品の縮小・再構成版も、モノクロによる新たな解釈が加えられ、記憶と時代の交差点として提示されている。
tsuburaの作品は、過去の曖昧な記憶を起点に、ピクセルというデジタル表現を用いながら、常に「場所・時間・人物」との関係性を再構築する試みである。それは同時に、個人史とサブカルチャー、記憶と社会、過去と未来をつなぐビジュアル・アーカイブでもある。

Frank Jimin Hopp 個展「Unreal Tournament」
Frank Jimin Hopp プロフィール
1994年生まれ。韓国とドイツにルーツを持つアーティスト。2023年、ベルリン芸術大学にてヴァレリー・ファヴル教授のもとで美術を専攻し、修了。ロンドンのチェルシー・カレッジ・オブ・アーツ(MA ファインアート課程)や、ソウルの弘益大学(BA ファインアート課程)にも在籍した経験を持つ。絵画とセラミックを融合させた学際的な制作を行い、ポップカルチャーや政治的な要素を強く取り入れることが多い。これまでに、ハウス・アム・クライストパルク(ドイツ)、ロンドンのサーチ・ギャラリー(イギリス)、およびドクメンタ15(ドイツ)で作品を発表。現在はベルリンを拠点に活動している。・作家ステートメント
危機、闘争、災厄──これらは、私の作品において真っ先に思い浮かぶ言葉ではないかもしれません。ひと目見ただけでは、色彩豊かでポップかつ華やかな性質が、その印象を和らげてしまうでしょう。けれども注意深く見つめると、彫刻作品の中には深い暗黒が口を開き、差し迫る気候崩壊という現代的な破局に向き合っていることが明らかになります。
鑑賞者は、見覚えのある消費財やポップカルチャーのイメージと対峙します。それらは変形され、歪められ、やがて世界を蝕もうとする力の器となっています。このテーマの歪みは、私が陶芸という素材に対して取る個人的なアプローチによって強調されます。柔らかい粘土は、有機的でありながら力強い形に成形されますが、形作られる過程で抗う術を持たず、それは気候変動や搾取的消費といった歴史的帰結に直面する際の必然性や無力感を映し出しています。
西洋やアジアの美術史、古典的図像のモチーフは、ポップカルチャーやビデオゲーム、コミック、マンガの要素と出会います。現代的なテーマは、西洋やアジアの古代神話、民話、あるいはグローバルな元型と結びつきます。消費財がそれを生み出す惑星よりも高く評価されるという、この世界の不条理は、最初は鑑賞者をミスリードするような風刺的ユーモアによって表現されます。たとえば《Happy Earthday》(2023)に登場する華やかなケーキは、その色彩と豊かさによって、あらゆるものが常に無限に手に入るかのような社会のメタファーに見えます。しかしよく観察すると、そこには堕落するイカロス、ろうそくから変貌する燃え盛る木々、洪水や揺らめく炎といったディテールが現れ、人間と自然との機能不全な関係──搾取と失敗に彩られた関係──が浮かび上がります。自らの重みと豪奢さによって崩壊寸前のこのケーキは、豊かさと無力さ、無限成長という幻想と差し迫る破滅、消費に彩られたキャンディカラーの世界と現実の厳しさとの間にある緊張感を、まさに体現しています。
イメージとオブジェは、相互に呼応し合いながら全体像を形作ります。制作過程でも鑑賞においても、両者は相互に織り込まれています。絵画の人物像や構造、色彩はしばしばオブジェの形態に影響を与え、その逆もまた然りです。展示空間に置かれた個々の作品の組み合わせは、多層的な解釈のレベルを生み出します。私は今後、このイメージとオブジェの結びつきをさらに深めていくことを目指しています。
藤城嘘 個展「24DOORS」
会場:Marco Gallery 1F藤⼭恵太・tsubura グループ展「現実のように-As if it were real-」
会場:Marco Gallery 3FFrank Jimin Hopp 個展「Unreal Tournament」
会場:Marco Gallery 4F3展示共通
会期:2025年9⽉13⽇(⼟)〜 10⽉12⽇(⽇)
時間:13:00〜18:00(最終日は〜17:00)
定休:⽉・⽕曜、祝日 ※⽔曜はアポイント制
問合:info@marcoart.gallery
大阪市中央区南船場1-12-25
竹本ビル