大阪を拠点に活動するエイチエムピー・シアターカンパニーが、〈仮想劇場Ⅰ〉と題して、『夜、ナク、鳥』を2021年7月16日(金)〜18日(日)にかけてウイングフィールドで上演する。2019年に没後10年を迎えた大阪の劇作家、故・大竹野正典の代表作『夜、ナク、鳥』(OMS戯曲賞佳作受賞作品)を新たな上演スタイル「仮想劇場」で行う。
2020年以降、演劇業界は公演中止、延期、また無観客上演の要請を受け、各劇団はそれぞれ演劇のあり方、上演の方法を模索し続けなければならない厳しい状況に置かれている。エイチエムピー・シアターカンパニーも、同年5月に大竹野正典没後10年記念公演『ブカブカジョーシブカジョーシ』を予定しているなかで緊急事態宣言が発令されたため、上演形態を検討せざるを得ず、試行錯誤の末にオンライン上に「仮想劇場」を生み出した。
『ブカブカジョーシブカジョーシ』はリモートで稽古を行ったうえで、5名の出演者がそれぞれ自宅で演技する映像を、リアルタイムでひとつの画面内に合成し、同じ空間にいるように見せてライブ配信。したがって、観客とまったく接触しない公演となった。今回の『夜、ナク、鳥』上演に際しては、劇団内での議論を重ね、小劇場・ウイングフィールドでのライブビューイングの観覧も可能となる(詳細はエイチエムピー・シアターカンパニーのホームページ内「〈仮想劇場Ⅰ〉『夜、ナク、鳥』の上演に向けて」参照)。
〈仮想劇場〉のなかには、登場人物による会話劇がモノクロ画面で繰り広げられる場面も。これは1920年代のフォトモンタージュから着想を得ているという。『ブカブカジョーシブカジョーシ』は1973年に日本郵船で起きた、部下が上司をバットで撲殺した事件、『夜、ナク、鳥』は看護師による保険金殺人事件という、いずれも実際に起きた事件が題材となっている。顔の表情が一部のっぺらぼうに見えたり、ストップモーションのような動き、画面から感じられる不穏な印象は、登場人物たちの心の闇を、これから起こる顛末を暗示させる。
『夜、ナク、鳥』はどのように演じられるのか。演劇空間とはなにか、また会話劇とはなにかということも考えさせられる。大竹野正典氏は過去に次のようなことを綴っていた。
「演劇とコトバ」
〈前略〉
そうしてあらゆる人間関係の中で、あるいは置かれた状況の中で、どういう具合に翻弄され、屈折し、その事件の渦中に埋没していかざるを得なくなるのかを辿るのが、僕達の仕事の全てだと云っても良い。 その為には、事件を多少捏造したって構わない。何故なら僕達の仕事は、「事件」を解説する事では無く、その「事件」から僕達の「現在」を読み取る事にあるからだ。
僕達の芝居には台本がある。そしてその台本を声にし、動く役者が居る。台本を小出しに提出し、その役者がどう喋り、どう動くのかに触発されながら、次の言葉を探す。 或いはまた、稽古後の飲み屋で役者達の登場人物に対する考察を聞きながら、次の言葉を探す。僕達は一丸となって「事件」を作ってゆく。 試行錯誤を何度も繰り返し、その「事件」は僕達にとって何だったのかを探ってゆく。答えはきっと出ないだろうが、「事件」の辿り着く果てが遠ければ遠いほどいい。 僕達の芝居の究極は、もう帰って来れない場所にまで観客を引き回す事だと思っているからだ。
〈後略〉
(くじら企画ホームページより引用、精華演劇祭vol.2 総合チラシ掲載)
今回は、リモートで稽古から上演までを行うプロセスを生かして、東北や北陸で活動している俳優も参加する。さまざまな地域出身の演者による、関西弁の台詞による劇世界を合わせて楽しみたい。
エイチエムピー・シアターカンパニー〈仮想劇場Ⅰ〉『夜、ナク、鳥』
日時:2021年7月16日(金)〜18日(日)20:00
会場:オンライン
※ZoomまたはVimeo。Zoom参加は定員あり
※7月16日(金)のみ、ウイングフィールドにてライブビューイングを実施問合:
mail@hmp-theater.com
090-9696-4946(前田)※10:00~19:00に受け付け
作:大竹野正典(くじら企画)
演出:笠井友仁
出演:野々下孝(仙台シアターラボ)、飯沼由和(言言)、西本浩明(演芸列車「東西本線」)、春海圭佑、髙安美帆、森田祐利栄、水谷有希、大熊ねこ(遊劇体)
大阪府大阪市中央区東心斎橋2-1-27
周防町ウイングス6F(受付5F)