本特集では、ドキュメンタリーとフィクションの関係やその境界について向き合いました。それは、「事実」「作為」「理解」というような言葉の定義や、それらに付随する葛藤の輪郭をなぞっていくような作業であり、あらためてドキュメンタリーとフィクションの境界というものがいかに流動的で、相互的関係にあるかを感じています。 人が食べるという行為をインタビューを通して観察・分析してきた独立人類学者の磯野真穂さんとの対談では、他者を理解することについて言葉を交わしました。また、現代フランス哲学、芸術学、映像論をフィールドに文筆業を行う福尾匠さん、同じく、映画や文芸を中心とした評論・文筆活動を行う五所純子さん、そして、劇団「ゆうめい」を主宰し、自身の体験を二次創作的に作品化する脚本&演出家・池田亮さんの寄稿では、立場の異なる三者の視点からドキュメンタリーとフィクションの地平の先になにを見るのかを言葉にしていただきました。 対岸の風景を可視化していくこと、まだ見ぬ世界を知覚すること、その先に結ばれた像が唯一絶対の真実から開放してくれることを信じて。そして、今日もわたしは石をなぞる。 小田香 Kaori Oda ー 1987年大阪生まれ。フィルムメーカー。2016年、タル・ベーラが陣頭指揮するfilm.factoryを修了。第一長編作『鉱 ARAGANE』が山形国際ドキュメンタリー映画祭アジア千波万波部門にて特別賞受賞。2019年、『セノーテ』がロッテルダム国際映画祭などを巡回。2020年、第1回大島渚賞受賞。2021年、第71回芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。
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2023.02.08
#エム・レコード#サイケアウツG#中村悠介#ART#COMIC#DANCE#MUSIC#OTHER#PHILOSOPHY#INTERVIEW

INTERVIEW:サイケアウツ|
オリジナルのないコピー

構成・文: 中村悠介[編集者] / 編集: 永江大[MUESUM]

「日本のハードコアジャングルの草分けで、関西では避けて通れない定め。モンスター」。そう話すのは先日リリースされた『逆襲のサイケアウツ:ベスト・カッツ 1995-2000』の発売企画者である大阪のエム・レコードの江村幸紀さん。サイケアウツ(現在はサイケアウツG名義で活動)は、1994年に大阪で結成された、大橋アキラを中心とした音楽ユニット。目の前が霞むような激しいビートとMC、そして雑食型のサンプリングによる奇想天外なアートフォームで、フロアをいわば無我にさせてきたミュータントなリビング・レジェンドだ。サイケアウツはいったいどこからやってきたのか? 今回のリリースを機にあらためて、大橋アキラさんに話をお聞きしよう。

収録:2023年1月12日(木)

場所:COMPUFUNK RECORDS

 

――大橋さんは、サイケアウツをはじめる前にノイズを制作されていたんですよね?

大橋:そうそう。1980年代の終わりから。ライブは京都のどん底ハウスとかで。

――殺倶(サッグ)という名義で?

大橋:そう。その名前は、インドのヒンドゥー教の女神、カーリーを信仰してるタギーっていう秘密結社が由来。アメリカのヒップホップでよく言う、サグもそこから来てるんやけど。

――それは10代の終わり頃です?

大橋:高校の頃。ひとりで宇治の実家でテープ・コラージュをやってて。いろんな音を録ってゴチャゴチャにして混ぜるコラージュ・アート。テープで「TEMPLE OF S.D.A」というレーベル名をつけてリリースしてた。たしか、ソルマニアの大野(雅彦)さんとカップリングで出したこともあると思うけど、ちょっと忘れた(笑)。まぁ、1970年代後半のUKのアンダーグラウンドの流行りというか。表の流行りがパンクで、裏がインダストリアルみたいな。自分はスロッビング・グリッスルやナース・ウィズ・ウーンドに影響を受けて。

大橋アキラが1980年代にザ・クレイジーSKBらと結成していたノイズユニット「殺倶(サッグ)」。そこから派生したインダストリアル〜ブレイクビーツユニット・THUG SYSTEMより『THUG SYSTEM CONTROL』Terminal Explosion(2014)

――パンクの影響はそこまでない?

大橋:ファッションは好きやったけど、音はあんまりピンと来なかった。スカスカで低音が無い感じがして。パンクでも、ディスオーダーとかカオスUKは好きで。それはドリルを使ったりしてたから(笑)。その頃、ライブは非常階段とスターリンの(京大)西部講堂(1983年)とかいろいろ観に行ったけど。あれはフロアでは畳が飛び交ってるし恐ろしかった。ナイフとか鉄パイプとか持ってるやつもいて。こっちはそんな武闘派じゃないし(笑)。

――例えば、PIL(パブリック・イメージ・リミテッド)とかは?

大橋:聴いたけど、うまくでき過ぎてると感じたかな。良くできているのは好きじゃないから。

――完成度というよりは、“ほつれ”に魅力を?

大橋:そうそう。

――テープ・コラージュを始めたきっかけとは?

大橋:最初は、1970年代後半に映画の効果音、ドーン!とかガシャー!とか、あの音はどうやって出してるのか?っていうところから始まって。それからアナログのシンセサイザーを知って。バイトして買おう、と。最初は喜多郎とか冨田勲も聴いたりしてたけど。なにかの拍子でノイズのコラージュになって。高校の頃にOFF MASK 00を観に行ったりしてたことも大きいかな。

――必然的にノイズのコラージュに。

大橋:違うものを組み合わせて、目の前を非現実化するみたいな。コラージュはシュルレアリスムが好きだったことも関係していて。

――手術台の上のミシンとこうもり傘、ですね。

大橋:そう、ロートレアモン。マルドロールの歌も好きやった。コラージュをすることは、現実に対するアプローチで、その概念に慣れていたこともあって。オリジナルのないコピーというか、本質が存在しないようなもの。その後はサンプリングマシンを使ったり。最初は0.5秒とかしか(サンプリングが)できなかったけど。

――そういった機材が発達するなかで、より制作しやすい状況に?

大橋:いや、基本的にシーケンサーで打ち込むわけやから、コンピュータでも一緒。簡単になった、とか言うけど一緒。画面が見やすくなったとか、そういうことはあるけど。例えば、リズム隊の見本があって、それっぽく組み立てることはできるんやけど、結局は本人の感覚やから。スウィングの度合いとか。結局は昔のコラージュと一緒。

――なるほど。ヒップホップからの影響はあります?

大橋:もちろん。パブリック・エナミーとか。

――サイケアウツのステージにはブラックパンサーみたいなセキュリティがいたことも。そのままパブリック・エナミー。

大橋:そうそう(笑)。

――では、1994年にサイケアウツを結成された経緯は? 名前はミート・ビート・マニフェストの曲名「Psyche-Out」(アルバム『99%』収録)から、なんですよね。

大橋:(OFF MASK 00の)秋井(仁)さんにミート・ビートのパロディをやりませんか?と誘ったことが始まりで。当時、秋井さんは(アメリカ村の)カンテグランテでバイトしてて、そこでテープを渡して。秋井先生とはまだそんなに面識無かったから怖かったけど。歳上やし。

――ノイズのコラージュから、ダンス・ミュージックのフォーマットに移行されたのは興味深いところです。

大橋:でも、ミート・ビート(・マニフェスト)も、もともとノイズ畑で。例えば、Greater Than One~Technoheadとかも、もともとノイズのレーベルから出してたし。当時のUKでは、ノイズとダンスミュージックはつながってた。例えば、大阪の場合は阿木譲の『ロック・マガジン』がその流れを紹介してたと思う。途中でボディ・ミュージックとかもあるけど。あとノイズをやってた人はエレクトロニクスを使うのが得意ということもあったと思う。

――初期の頃、サイケアウツのライブはどんなところで?

大橋:京都のマッシュルームとか。それから(DJ)KURANAKAの「ZETTAI-MU」とか。あとはロケッツやベイサイドジェニーかな。

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――ちなみに、当時の大橋さんはどんなファッションでした?

大橋:めっちゃ変な格好してたと思う。1990年くらいからは黒い毛皮を着てたし。

――毛皮?

大橋:(日本橋の)五階百貨店に買いに行って。そこのおばあちゃんと仲よくなって2,000円くらいで毛皮を買って。

――当時、大橋さんが関わっていたプロジェクトはサイケアウツだけです?

大橋:いろいろやってると思うんやけど。忘れた。1回だけのライブとか。今になってほかの人から聞いて、そんなことやってたんや(笑)って。もう忘れてるわ。

――当時のサイケアウツのメンバーとはどんな関係性でした?

大橋:なんやろ? 飲み仲間やね。当時、堀江にサイケベースという場所をつくって住んでて。そこにみんなよく集まって飲んでたから。飲んでる時に、あれやろうぜ!みたいになって。そのアイデアを秋井先生とかたちにしていった感じかな。

――大橋さんはサイケアウツのなかでは、Mr.ディラックという名前ですが、これは?

大橋:量子力学の。

――理論物理学者のポール・ディラック。

大橋:そう。たまたまエヴァンゲリオンで「ディラックの海」って使われてたし、ちょうどいいかなと。量子力学的な考え方もさっきのコラージュ・アートの話と似てて。現実に対する多角的なものの見方で。オリジナルは存在しない、という考え方で。

――そういえば、クラブKARMAでPAを担当されているときは、卓の小さなライトで文庫本を読まれていましたよね。あんな騒がしいところで難しそうな本をよく読めるな、と。

大橋:(笑)量子力学の本。読書は今も好きやね。

――そのKARMAでレギュラーDJだった小西康陽さんもサイケアウツをプレイされていましたね。音源では近藤真彦の「スニーカーぶる~す」のリミックスを共作されたり。

大橋:あー、マッチ。小西さんはよくDJかけてくれたし、よく酔ってたね(笑)。いつもベロベロになりはるから、よくホテルまで送っていったり(笑)。

――大橋さんもよくベロベロになってましたよね。唇がワインで紫になってる大橋さんをよく覚えてます。

大橋:(笑)もうずっとベロベロ。だから、ここ30年くらいあんまり記憶がないわ。飲み過ぎ。人の三生分くらいは飲んでると思う。今は酒飲まへんけど。

――振り返ると、大阪のクラブシーンから影響はあります?

大橋:うーん、よくアメ村には行ってたけど。昔は新今宮にはよく行ってたかな。

――新今宮に? なぜです?

大橋:サイケアウツをやる前から広告代理店に勤めてて。そこが風俗の広告もやってて。夕刊のタブロイド紙に載せるスタッフ募集とかの広告。その文字を組んだり。だから、そのような世界にはどっぷり(笑)。1990年代の西成に珍しいジャージとか古着を買いに行ったり。おっさんが普通にその辺で100円とかで売ってて。

INTERVIEW:サイケアウツ|オリジナルのないコピー
サイケアウツ/サイケアウツG、トラフィックジャミーズ、ゴッドODなどの音楽配信プロジェクト「STEREO RECORDS」(bandcamp)にて、会員限定で配信している「TPV Presents」より。1997年当時のライブ映像。 https://stereorecords.bandcamp.com/album/tpv-presents

――そういえば修行もされていましたよね?

大橋:奈良の大峰山に山伏の修行に行ったり。修験道。そんな激しい修行はしてないけど、仏教系の大学だったこともあって。

――そこもサイケアウツの音楽に影響を与えていますよね。

大橋:そりゃ影響してるはず。聴こえへん音に入ってると思う。だからダンスミュージックをつくりたかったわけじゃなくて。結果としてダンスミュージック。音が好きなだけで。

――2004年からはサイケアウツGとしてリリースされます。ROMZからのリリース以降ですね。

大橋:たまたま(ROMZの)SHIRO(THE GOODMAN)に会って。リリースしてくださいよって言われてCD出すことになって。(リリースするのは)常にそんな感じ。“G”が付いたのは、車でもなんでも次に行く時に“G”がついたりするやん? 重力の“G”もあるし時計もあるし。「円盤皇女ワるきゅーレ」ってアニメがあって、表裏一体のやつでワルキューレGっていうやつがいて、そこから。

――アニメといえば、チラシやTシャツのビジュアル、そして今作『逆襲のサイケアウツ:ベスト・カッツ 1995-2000』にも『うる星やつら』の主題歌「ラムのラブソング」を使用した「Lum’n’Bass」が収録されています。サイケアウツといえば、アニメからの影響も大きいですよね。

大橋:1978年くらいからかな、ガンダムとか『うる星やつら』を観てるし。あと、1990年代の頭にジェルミ・クラインっていうスケーターの、「HOOKUPS」っていうブランドで、アニメの女の子のTシャツを発見したこともあって。こんなキモいの、誰も着いひんやろ?って思って、毛皮の下に着てた。そういえば、革ジャンの背中に『ストップ!! ひばりくん!』の絵を描いてる人もいたわ。自分としてはアニメからの影響もデカいと思う。

――最近もアニメを観ています?

大橋:最近はあんまりかな。テニプリ(『テニスの王子様』)と『夏目友人帳』くらい。

――サイケアウツのファンは、クラブミュージックのリスナーだったり、アニメのTシャツを着たテクノファンだったり、小西康陽さんだったり。いろんな文脈の人がいろんな視点でサイケアウツをとらえられていたところが特徴だなと思います。音の情報量は多いけれど、カテゴリは未確定というような。現在進行形のモダン・ジャングルと共振しても不思議じゃない。

大橋:今のジャングル、ドラムンベースもかなり面白いと思う。世の中の流れは変わるけど、その時代時代で聴いてくれる人がいるのはありがたいことで。(サイケアウツは)2ステップだったり、ダブステップだったり。単純にUKの音が好きで。でも、それをお手本につくっても、本物みたいにならない。だから続けてるところがある。

――その追求は終わらない?

大橋:かっこええなー、というお手本があって、それをつくろうと思ってやってみても、ヘボいものしかできひんし。あかんなぁ、と(笑)。音のバランス、周波数の帯域、リズム感とか、いろいろと違いがあるのはわかってるけれど、自分が思うようなものがつくれない。だからずっと続けてるだけ。昨日もつくってたけど、ヘボいなーって(笑)って。

――それができないからこそ独自の音楽となった側面も?

大橋:結局、世の中のものごとはそういうことやとも思う。

――もし理想の音楽が鳴らせたら?

大橋:すぐ即神仏になるわ。穴のなかに入ってミイラになる(笑)。

――では、今回リリースされた『逆襲のサイケアウツ:ベスト・カッツ 1995-2000』をご自身で聴かれた感想は?

大橋:懐かしいし、わりとうまいことつくってるな、と。もっとヘボいかなと思ってたけど、まあまあイケてると思う(笑)。

INTERVIEW:サイケアウツ|オリジナルのないコピー

サイケアウツ『逆襲のサイケアウツ:ベスト・カッツ 1995-2000』

レーベル:EM RECORDS

発売日:2023年1月27日(金)

定価(税別):CD版2,500円、LP版(2枚組)4,000円

 

収録曲 :

A1. Swampy Murder A2. Mujin O.B.

A3. Tong poo

B1. Lum’n’Bass

B2. Hellboro (Funky Hell Mix)

B3. Red Comet (Shining Cosmos Mix) B4. LPU vs. Cycheouts (DJ Horn Mix)

C1. I.G.T.F.

C2. 0083 Mantras (God-outs Mix)

C3. God Eater

C4. Beast 666 Step (Emperor Kumazawa Mix)

D1. Hit Man (Jungle Assassin Mix) D2. Dub Killer 91 (Minnie House Mix) D3. Solomon’s 2-step (Gato Mix)

D4. Cycheouts Live at Lubnology

※CD 版にはマル秘ボーナス曲収録

サンプリング・ダンスミュージックの扇動者、ダンスフロアの哲学者、日本のハードコア・ジャングルの開拓者――激動の90年代関西アンダーグラウンドに出現した化け物、サイケアウツの正統性を証明する永劫保存コンピレーション!!

80年代関西ノイズ/インダストリアル・シーンを出自とする大橋アキラが、UKのゲトーミュージック新種、ジャングルに同じ匂いを嗅ぎ付けそれを呑み込んで変態した伝説のユニット、それがサイケアウツだ。本作には、天才的かつ大胆なサンプリングとアーメン・ブレイクを駆使した、ナードコアやJ-Coreの先駆にもなるジャングルの突然変異体から、インダストリアル・ミュージックの質量感を伴ったブレイクビーツ、2ステップやブレイクスを独自解釈した未来のベース・トラックなど、多様なクラシック・チューンを息つく暇もなく収録。雑多な音楽ソースとサブカルチャーを傍若無人にちゃんぽんし、内外アーティストにショックを与えたサイケアウツの美学は(当時、小西康陽や久保憲司をも興奮させたように)21世紀音楽の先取りであり、現在、世界各国で盛り上がるモダン・ジャングルにも共鳴しフリークどもを狂わせる。

本コンピレーションの選曲と監修はMurder Channelの梅ヶ谷雄太と、『イアンのナードコア大百科』著者、Ian Willett-Jacobという二人のエキスパートが担当。12曲が初VINYL化、大半が初プレスCD化となり、彼らの代表曲、レア曲、ライブ音源を網羅してビギナーからマニアにまで対応する内容となっている。マスタリングとカッティングは独Dubplate & Mastering。梅ヶ谷によるマル秘解説も必読!

INTERVIEW:サイケアウツ|オリジナルのないコピー

SOI48 VOL.50 逆襲のサイケアウツ RELEASE PARTY

日時:2023年2月12日(日)18:00〜23:30

会場:space.tokyo

エントランス:2,800円

※来場時に要ドリンクオーダー、再入場可、出入り自由

 

SPECIAL DJ:サイケアウツG

 

LIVE:Monaural mini plug

 

DJ:

Young-G(stillichimiya)

MMM(stillichimiya)

俚謡山脈

NordOst

KOICHI TSUTAKI

KUNIO TERAMOTO aka MOPPY

AOKI LUCAS

RICH & BUSY

Soi48

 

SOUND SYSTEM:MMP220

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