Fujimura Family(以下、FF)が写真集『PROOF OF LIVING』を自費出版したのは2020年のことだった。詩人の味果丹(あじかたん)とそのひとり娘、愛猫を、アーティスト・Dai Fujimuraが撮影。10年にもおよぶ生活の一場面の蓄積を束ねたこの本は、2021年にマージナルプレスより再出版・全国流通される。
FFの現在を知るために、まずこの1冊の成り立ちから紐解いていきたい。2022年9月、兵庫・加西voidで開催された『PROOF OF LIVING』出版記念展示ツアー第2弾「Futrure Self」を訪れ、ふたりにインタビューを行った。目まぐるしく変化していくFFの、2022年の記録その2。
ひらくでも閉じるでもない方へ
――『PROOF OF LIVING』を見ると、FFは家族やその日常を作品の題材にしています。それはずっと変わらないこと?
Dai Fujimura(以下、DF):そうですね。活動初期からコンセプトとしてあって、それを外にひらいていこうとしていました。2020年に東京で初個展があって、そのとき“外側にひらく”ことをかなり意識してつくったんですよ。実際、それなりに僕らを知ってもらえる機会にもなって。ただ、新型コロナウイルスの感染が拡がったタイミングで、予定していたイベントもなくなってしまい、もう搬入を終えた時点で「なんか違うかもしれん」みたいな空気をお互い感じていて。会期中に味果丹と話すなか、「やりたいことに向かっていく感覚と違う」となって、本当に自分たちのことを見たい、知りたいと心から思ってくれてる人に対して、もっと見せていくほうがいいんじゃないかと。会期が終わる頃には、「会員限定」くらいの閉じたかたちで、日常を全部見せるようなことを考えていました。それで、オンラインサロンを自作することに。
味果丹:サロンというか、オンライン上でファミリーをつくろうって。
DF:そうそう。「オンラインファミリー」をつくる。血縁とか関係なくファミリーは成り立つ、それを証明するというコンセプトで。実際本当にそう思っていたから、既存のサイトや仕組みをベースにするのではなく、自分たちでオリジナルコンテンツを7〜8個くらいつくって配信していました。
味果丹:月会費が500円。
DF:毎月講習もやっていて、10数名が会員になってくれたんですよね。すっごく閉じたなかで、今日何時にどんなごはん食べて、何時に寝たとか、専用のInstagramアカウントで全部見せるみたいな。
味果丹:その日考えたこととか。すごくパーソナルな感じ。
DF:挑戦してみたかったことに挑戦するとか。僕らの娘がなりたい夢に向かっていく姿が、ひとつのコンテンツになったり。月に500円もらうことに対して、それなら「8個くらい見せなきゃなんか悪いんちゃうか」と思ってしまって。
味果丹:それと「今したいことがこれだけあって、それをぶつけたい」という気持ちが相まった感じ。私たちのスタイルとしては、決めたことをとにかくやり切る。ただ、毎月のことやし、一つひとつのコンテンツがハイエネルギーすぎて、やっぱりちょっと……。
DF:3カ月で自分たちが潰れた(笑)。オンラインファミリーに向けて謝罪会見の動画をアップして、「一旦このかたちを止めます」と会費をお返ししたんです。やっぱり閉じながら開くっていうのも大変やねんなと。どうしてもやりすぎてしまう僕らの性質もありつつ、自分たちの表現を「閉じるべきか、開くべきか」みたいなことを、2020年あたりはもんもんと試行錯誤していましたね。
――『PROOF OF LIVING』を自費出版したのも2020年でしたね。オンラインファミリーの葛藤は、どう変化したんでしょう?
味果丹:だんだんと、「どっちでもない」みたいになってきて。オンラインファミリーの活動が、自分たちのことを再認識する機会にもなったよね。
DF:そう。オンラインファミリーに向けてだけ見せていたような、まだ活動を表立ってしていなかった時期の写真とかが膨大にあって。これだけあるんだから、やっぱり一度まとめた方がいいのではと。それが本の制作につながった。
味果丹:再構築みたいな感じで、自費出版の初版をつくって。
DF:初版ができたときに、表現を外へ開いていくアーティストとして覚悟を決めたところはある。翌年にキヤノン写真新世紀に応募したのも、その覚悟があったから。もう閉じないっていう。
味果丹:たぶん、閉じるも開くもどっちもやってみたから、それぞれの良いところと悪いところがわかったんやと思う。それで、どっちでもない方向が見えたから、コンペで受賞する・しないみたいな、ずっととらわれてきたこだわりもなくなって、より軽く、いろんなことができるようになった気がする。もともと(DFの)考え方の性質が重いから、軽くなっていける感覚を、いろんな人と関わる経験のなかで得られたことが大きいよな。
DF:真面目に重たく、極端に考えていたときは、例えば今回のように本が出版・流通して勝手に広がっていくことに対して「どうなんやろう」みたいに、なんやかんや言うていたと思うんです。ただ、写真新世紀のときは、絶対に何かしらの賞がもらえるイメージが頭のなかでできた状態で、僕自身は応募したのもあった。もしこれで思い描いていたことと同じ状況になったとしたら、世の中が自分たちを求めているから、自分たちは(結果として)表に出ることになるんだって。
味果丹:私なりに説明すると、自分たちの信念とか自己認識、これまで自分たちがしてきたことの意味とか価値、そういうことには経験を通して、すごく意識が向くようになった。たぶん軸はずっと同じで。だから、さっき言ってた覚悟もそうだし、人に伝わるかたちでっていうのも、自分のなかに確信がある。それに対して、人からもらう反応とか、社会的に認められるかどうかっていうのがついてくるだけ。うちら的には活動をはじめた頃から、どの瞬間も、そんなに変わってはいない。反応が変わっているだけやから。写真の賞をもらおうが、伝わる人が増えようが。もちろんいろんな人に見てもらえるのは嬉しいこと。
DF:自動運転ができるようになってきた感じかな。展示を「やる」というときはきっとそういう流れになるし、作品が全然知らないところで誰かの手に渡るのも、そうなるべきやったらそうなるっていうのがわかる。
味果丹:まあ、感覚的にはわかっているのに、頭であれやこれや考えて重たくなってしまいがち。
DF:そうそう。こねくり回してな。
味果丹:今回の展示ツアーだと、LVDB BOOKSのすぐ後にvoidが続いたので、スケジュール的にも精神的にもきつかった。「やれるかな。ほんまにどうしようかな」というくらい。でも実際、軽さの妙で、その場のノリみたいな感じのこともできるようになったというか。今回は特にそれをすごく感じた。これまで絶対にノリで(展示を)つくるとか無理だった。ガチガチに力んでしまう。それは表現に対しても、お互いの関係性も、なにもかも……。
――「軽くなれた」というのは、本をつくったからというのもある?
DF:オンラインファミリーからの流れが大きかったなという話は、いつもふたりでしてますね。
味果丹:あれがないと本もつくれていなかったし、今のこの感じもなかった。つながってるよな、ずーっと。
DF:たしかに。でも、オンラインファミリーの段階は軽くはなかった。軽くはないからそんなこともはじめるし、続けられへん。「写真集を出したい」というのも、全然軽くはない。
味果丹:誰かに認めてほしいとか、賞をとりたい、とかな。
DF:そう。もっと伝わるようにとか。軽くはないけど、いろいろ考えてはいた。
味果丹:でも、「これが欲しい」と追求しても、欲しいものはその都度思うことを行動したから得られるわけじゃなくて。目に見えない軽さが影響しているなと思う。賞で得たことは、実はそんなになくて。賞を取る経緯のなかで、受賞後のなんやかんやのなかで、これまで欲しかったもの、本当に自分が望んでいたもの、なりたい自分が見えてきた。なんて言うんかなぁ……そういう部分が一番大事というか。そこに真摯に向き合ってるから、日々こういうスタイルで表現できているとも思っているかなぁ。
――オンラインファミリーを終えて本づくりをはじめたとき、どんな本にするか、イメージがあったんですか?
味果丹:もういち早く手放したかった。それが大きい。
DF:そう。お互い2010年から2020年までの10年をリリースして、ここから次の10年に行きたかったから。
味果丹:ただ、(この本が)何を伝えているわけでもなくて。写真集として写真のパワーもあるし、ある意味ファッション的でもある。見た感じも軽い。それは10年の物語とはそんなに関係ないところ。
DF:ずっと味果丹だけを撮っている「アルカイックちゃん」というシリーズがあって。僕は、あれをどうしても本にしたいと10年間思い続けていたんですよ。一時期、サンプルをつくっていろんな人に見せて、どうやったら本になるかと聞いていて、でも結局10年では形にならなかった。「2020年、今こそ」と思ったけれど、なんか違うなと。やっぱり味果丹ひとりだけじゃなくて、生活も全部入れるほうがいいと、お互いすぐ一致しましたね。
味果丹:それもタイトルに意味をもたせた、「こう見てください!」っていうものじゃなく。軽さを兼ね備えた写真集にしたいと思った。
DF:性質的に『PROOF OF LIVING』は軽いですよね。重くしているのは自分で、自分は重くて物質的やから、「こんな想いを込めたい」とコンセプトや意味とかを求めていってしまう。制作のときは、いつも大体自分が「これを入れたい」というものを全部小さくプリントして、家の床にわっと並べて編集するんですよ。(その感覚が)軽いから、膨大な量から選べるんですよね。今回はほんまに1週間くらいで全部つくりました。「はい、これこれこれ」って、選んだやつを壁に貼っていく。ものづくりはすべて、軽さを使ってやっている。
味果丹:ただ、“生きる”とかは重いねんけどね(笑)。
Dai Fujimura(芸術家)と味果丹(詩人)によるアーティストペア。
写真、映像、詩、陶芸などを軸に様々な要素を用いて生きる証明をそのままに表現する。今だけがここにある。”何があっても希望そのもの”instagram ID: ff_fujimurafamily