本特集では、ドキュメンタリーとフィクションの関係やその境界について向き合いました。それは、「事実」「作為」「理解」というような言葉の定義や、それらに付随する葛藤の輪郭をなぞっていくような作業であり、あらためてドキュメンタリーとフィクションの境界というものがいかに流動的で、相互的関係にあるかを感じています。 人が食べるという行為をインタビューを通して観察・分析してきた独立人類学者の磯野真穂さんとの対談では、他者を理解することについて言葉を交わしました。また、現代フランス哲学、芸術学、映像論をフィールドに文筆業を行う福尾匠さん、同じく、映画や文芸を中心とした評論・文筆活動を行う五所純子さん、そして、劇団「ゆうめい」を主宰し、自身の体験を二次創作的に作品化する脚本&演出家・池田亮さんの寄稿では、立場の異なる三者の視点からドキュメンタリーとフィクションの地平の先になにを見るのかを言葉にしていただきました。 対岸の風景を可視化していくこと、まだ見ぬ世界を知覚すること、その先に結ばれた像が唯一絶対の真実から開放してくれることを信じて。そして、今日もわたしは石をなぞる。 小田香 Kaori Oda ー 1987年大阪生まれ。フィルムメーカー。2016年、タル・ベーラが陣頭指揮するfilm.factoryを修了。第一長編作『鉱 ARAGANE』が山形国際ドキュメンタリー映画祭アジア千波万波部門にて特別賞受賞。2019年、『セノーテ』がロッテルダム国際映画祭などを巡回。2020年、第1回大島渚賞受賞。2021年、第71回芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。
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2024.12.13
#Bridge#ICECREAM MUSIC#フェスティバルゲート#中尾微々#竹内厚#西川文章#MUSIC#PLAYBACK

PLAYBACK|フェスティバルゲート「Bridge」
第2回:西川文章さんの残していた音源を聴きながら

文: 竹内厚 / 写真: 中尾微々 / 編集: 永江大[MUESUM]

2007年7月に閉業した、大阪・新今宮駅前の大型商業施設「フェスティバルゲート」。1997年にオープンしたものの集客はふるわず、大阪市が有効活用のためテナント料を負担し、2002年より「新世界アーツパーク事業」をスタート。大阪市内を拠点とする4つのアートNPO「Bridge」「cocoroom」「remo」「DANCE BOX」とともに事業運営を行っていた。

新世界という場所性もありながら、ある種のおおらかさと手厳しさが入り混じる場が育む、実験性や人との関係性、個人の活動のあり方が、現在に至るまで大阪・関西のさまざまなつくり手に影響しているのではないか。そんな仮説をもとに、そこにどんな人・活動があったのかをつかむべく、まずは「Bridge」に出入りしていたアーティスト、エンジニア、写真家などの言葉や資料から当時を振り返る本シリーズ企画(そのプロセスを追う編集録もあわせて更新予定)。

第2回は、「Bridge」に出入りしていた西川文章(にしかわ・ぶんしょう)さん。現在、PAやレコーディングエンジニアなど、音響のプロとしてさまざまな現場で活躍する文章さんが、Bridgeに出入りしていたのは20代のこと。文章さんはそこで何を見て、どんな体験をしたのか。第1回に続いて、編集部一同+立会人とともに文章さんの話に耳を傾けた。場所は、文章さんが拠点とする北加賀屋の共同スタジオ「ICECREAM MUSIC」にて。

PLAYBACK|フェスティバルゲート「Bridge」第2回:西川文章さんの残していた音源を聴きながら

——文章さんが思い出せるかぎりのBridgeの古い記憶といえば何でしょう。

西川:2000年代に大阪港にあった、なんだっけ……、そう、大阪アーツアポリアが拠点にしていた「築港赤レンガ倉庫」で、Bridgeで使うための棚をみんなでつくってる場面です。まだ新世界のBridgeには入れなかったんだと思う。内橋(和久)さんに、「こんなことやるから手伝わへん?」って言われて、よくわからないままに電ノコで板を切ったりしてました。たぶん、どっかで使う棚なんやろなと思いながら。

——では、内橋さんとの出会いはその前から。

西川:僕は大阪の「Namba BEARS」というライブハウスによく出てたんですけど、そこで稲田誠さん(※ベース奏者、棚レコード主宰)と知り合って、稲田さんに神戸の「BIG APPLE」で内橋さんという人がワークショップをやるからって誘われたんです。そのあたりの記憶がちょっと曖昧なんですけど……その後、自分のバンド(かきつばた【1】)でもBIG APPLEでライブをしたり、神戸の「XEBEC HALL(ジーベックホール)」であった2000年の最後のFBI(※Festiaval Beyond Innocense/2002~2007年はBridgeで開催)に出たりしたかな。

——どんなワークショップだったか、覚えてますか。

西川:インプロ(※インプロビゼーション、即興演奏)のワークショップ【2】で、内橋さんが指名した組み合わせで次々と演奏するようなやり方だったと思います。その頃はまだ、僕は大学生やったと思う。22歳とか。

——インプロのような音楽との出会いはどのあたりから

西川:大学に入るタイミングで香川から18歳で大阪に出てきて、そこで軽音楽部に入ってバンド活動ばっかりやってました。

——ちなみに大学では何を?

西川:建築です。けど、もうほとんど授業には出ないままで中退しました。大学の数学って難しすぎません?

——それはわからないですけど(笑)。

西川:そもそもは中2のときに、近所の知り合いのお兄ちゃんからエレキギターを5,000円で売ってもらって、それでいろんなことをやりはじめました。

——Bridgeのための棚をつくってたという話に戻りますが、その後、Bridgeとどう関わっていくことになるのでしょう。

西川:棚をBridgeに搬入して並べたんだと思いますけど……Bridgeって空間内にロフトのようになってる場所がありましたよね。もともと、そこにレストランの装飾として客船があって、けど、僕が行けないでいる間に、みんなでその船を解体したって話を聞きました。

——ライブハウスなのに棚づくりというのもちょっと不思議な感じ。

西川:そうですね。そのあたりは内橋さんに場所のイメージがあったみたいで、いわゆるライブハウスと違って、オルタナティブスペースのような感じで、最初から音楽ライブだけの空間にするつもりはなかったんだと思います。そうそう、それでミュージシャンやアーティストが集うようなサロンみたいな場所にしたいって、カフェスペースもつくりました。もっとゆっくり音楽の話をするような場所が必要だと思ってはったんじゃないかな。あとは、たとえばBEARSとBIG APPLEでも出入りする人が違っていて、そのあたりの垣根もなくしたかったんじゃないかと思います。

【1】かきつばた

1990年代後期、卓越したテクニックを持つエンジニアとして、そしてインプロバイザーとして知られるギタリスト・西川文章を中心に、ドラムの井上秀樹やベースの田川雅康と共に大阪市立大学周辺でスタート、今はなき、伝説のオルタナティヴ・スペース、新世界ブリッジをメインの活動の場所にしていた彼らは、メンバーにpopoの山本信記、そして謎・電子音楽家としても活動する森山ふとしらをメンバーに加えながら、『No New York』を想起させるエッジの効いた音に独特のユーモアとシニカルなアイディアを振るかけ始める。田川のうねりまくるベースライン、井上のタイトでありながら、バックビートの効いたリズム、森山のアイディアあふれるギタートーン、スライドトランペットでおどけた旋律とチープな電子音を奏でる山本。そして、核となる西川は、持ち味でもあるエッジーなギターはそこそこに、コンダクターのようにサウンド全体を確認し続ける。
引用:minnnakikeru「スミヨシ/かきつばた

 

【2】インプロのワークショップ
アーティスト・内橋和久が主宰し、1995年より定期開催された新音楽を巡るワークショップ「ニュー・ミュージック・アクション」(初回開催は神戸・BIG APPLE)。その発展形として「Festiaval Beyond Innocense(FBI)」がある。

このワークショップを始めるきっかけとなったのは、自分より下の世代がどのようなことを考え、どんなことをしようとしているのか興味があったからで、若い人たちと接点になる場所を作りたいと考えたからだった。神戸で定期的に行うだけではなく、東京また横濱ジャズ・プロムナードでワークショップが行われた年もある。実際、その参加者には、内橋より下の世代の宇波拓、古池寿浩、 江崎将史、高岡大祐らもいた。「ニュー・ミュージック・アクション」からはファンタスマゴリア(岩田江、江崎將史、稲田誠、小島剛、一楽儀光、内橋和久)というバンドも生まれている。
引用:JazzTokyo Current Issue No.314「Reflection of Music Vol. 86 内橋和久

PLAYBACK|フェスティバルゲート「Bridge」第2回:西川文章さんの残していた音源を聴きながら

——新世界アーツパークの機関紙『SAPB』に掲載された、当時のライブスケジュールを見ていると、ライブ・イベントごとに担当者の名前も併記されていて、早くも2003年には西川さん担当のライブも出てきます。

西川:内橋さんとBridgeをはじめた稲田さんや江崎将史さん(※トランペット奏者、石すもう共同主宰)のことをすごく尊敬していたし、もっと一緒にライブやイベントをできたら楽しいやろうなと思ってたので、Bridgeにも通うようになりました。自分らでやりたいことをやってる場所だったので、そのうちに企画もするようになったような……特にスタッフ側にまわらなきゃという意識はなかったですけど。

——西川さん担当のイベントとして最初に記録されているのが「新世界の金曜日」【3】。

西川:なつかしい(笑)。僕はやっぱりインプロやノイズが好きだったので、そのあたりのミュージシャンに出てもらってたイベントで、その後も何度もやったと思います。

——そのあたりの集客の縛りというのも特になく。

西川:でしたね。いわゆるライブハウスってどうしてもノルマがあったけど、Bridgeではスタッフが主催するイベントにノルマってなかった。もちろん、機材の維持やらにお金はかかるから、これだけは入れてほしいというのはあったけど、それでもほかではやりにくいような企画が実現できたし、それに対してある程度のお客さんは集まってきました。まあ、僕がやるようなインプロ企画に、そこまでお客さんは入らないけど、毎回、必ず来てくれる人もいて。なんて名前だったかな……忘れちゃった。集客でいえば、関西ゼロ世代と呼ばれていたZUINOSINとかあふりらんぽがやるとかなり入ってましたね。

【3】「新世界の金曜日」
Bridgeにて西川が担当したイベント企画。その名のとおり、金曜日に不定期開催。初回は、2003年5月30日(金)に「FREE MUSIC PARTY」と題して、MOULD、EMPTY ORCHESTRA、半野田拓+稲田誠+西川文章trio、JETVEL+MOULD duo、江崎将史 soloが出演している。
参照:『SAPB vol1 2003/6+7』

PLAYBACK|フェスティバルゲート「Bridge」第2回:西川文章さんの残していた音源を聴きながら

——企画するスタッフはどれくらいいましたか。

西川:稲田さん、江崎さんのほかには、カフェを担当していた森山(ふとし)くん、それから梅田(哲也)くん、半野田(拓)くんもやってたかな。(森本)アリくん、井上(智士)さん、岩田(江)さん、neco眠るの森(雄大)くん、坪内くんとか、もっといっぱいいてたような気もしますが……、もちろん内橋さんも。ただ、内橋さんはBridgeがはじまってすぐ、関西から離れて東京に住んではったと思うので。

——そうなってくると、誰の企画が面白いかって感じにもなりますね。

西川:「いや、俺のほうがおもろいで!」 みたいな感じはやっぱりありました。スタッフはわりとみんな、とんがってたような気がします。

——スタッフとして印象に残ってることは何でしょう。

西川:「POOL」というイベントが年1回あって、1年目は東野祥子さんがダンサーで出て、舞台美術はドットアーキテクツだったかな、高橋匡太さんというアーティストが空間に蛍光灯を敷き詰めて。高橋さんは僕が中退した大学(大阪市立大学)の講師をやっていて、その生徒さんと僕が仲良かったのもあって、高橋さんに会いに行ったのを覚えています。その「POOL」の1年目か2年目か忘れたけど、蛍光灯か砂袋かがエレベーターに全然乗らなくて、それで階段で8階まで何往復もして、すごく大変だった……。ちょっとしんどすぎたので、適当にサボったりもしてました。

PLAYBACK|フェスティバルゲート「Bridge」第2回:西川文章さんの残していた音源を聴きながら
2004年に開催された「POOL1」会場風景 photo: Yoshikazu Inoue

——では、プレイヤーとしての文章さんの記憶に残るステージといえば?

西川:やっぱり「FBI」に出たくて通ってたところがあるので…いつかのFBIで、ドラムの一楽(儀光)さんと共演させていただけたことがあって、そのとき叩くぞ叩くぞ、弾くぞ弾くぞって構えをしたまま、結局、一音も出すことなく終わったことがありましたね。

——楽器を弾くぞという構えだけで、何分くらいやってたんですか。

西川:15分とかだったかな、「え、え、え…」と思いながら、でも、一楽さんが叩かへんから、こっちも弾けへんなと思ってるうちに、一楽さんが「ありがとうございました」って。一音も出さずに。

——BridgeでPAをやることもありましたか。

西川:BridgeのPAは基本的にずっと奥成(一志)さんがやってました。もともと四天王寺あたりにあった「クリアスポット」というレコード屋をやってた方で、僕もよく通っていた店なんです。で、Bridgeでまた再会して。Bridgeって毎日途切れずイベントをやってたわけじゃないから、僕も空いている時間にレコーディングで使ったりはしてました。ただ、Bridgeの後期は僕も結構な割合でPAをやっていましたね。

——ちなみに、文章さんのPAやレコーディングの知識はどうやって身についたものでしょう。

西川:大学を中退した後、実は、夜間で専門学校の音響技術学科に行って、その後、ホテルでブライダルや講演会とかの音響をやってたので、ちょっとした知識はありました。僕がそういう仕事をしてたというのはBridgeのみんなも知ってたので、時々頼まれたりもして。Bridgeって特に機材が揃ってるわけでもないので、空間そのまんまの録音環境で、それをパソコンにつないで録音するライブ録音でしたけど。夜中だと誰もいない状態で録音できたので、結構、深夜にみんな使ってたんじゃないかな。

——退館時間とかもなかったんですね。

西川:え、ダメやったんかな……いやいや、警備員さんにも挨拶して入ってたからOKだったはず。場所も8階で孤立してたので、音を出すのも気兼ねなく。

——当時の録音がいくつか残ってると聞きました。

西川:聴いてみます?

 

(ホアン海の録音を聴く)

西川:これはYTAMO(ウタモ)と僕がやってたホアン海【4】というユニットの録音で、たしか、夜中のBridgeで録ったと思います。

——めっちゃいいですね。深夜のBridgeの空間ごとパッケージされたような音響でもあって。これはリリースされた音源ですか。

西川:どうだろう、わかんない。CD-Rで売ったかもしれない。当時みんな、録音してはCD-Rで売ってたから。あとは、こんなのもあります、枡本航太くん。個人的にすごく好きなミュージシャンで、本人から録音してくれって言われて録ったんですよ、たしか。

 

(枡本航太さんの録音を聴く)

西川:もう壊れてしまったと思ってたハードディスクにダメもとでつないでみたら、うまく読みこめて、こんな音源が出てきたから嬉しくなってしまった。

【4】ホアン海
ソロ活動のほかオオルタイチとの「ゆうき」や、ウリチパン郡でも活動するYTAMO(ウタモ)と西川による、「自由な音楽」のためのユニット。2007年にBridgeで録音した音源は、2016年にファーストアルバムとして『POP OFF THURSDAY』というタイトルでリリースされている。録音時、BridgeでYTAMOが弾いていたグランドピアノ「DIAPASON」は、現在、兵庫の塩屋旧グッゲンハイム邸に受け継がれている。
参照:YTAMO bandcamp

PLAYBACK|フェスティバルゲート「Bridge」第2回:西川文章さんの残していた音源を聴きながら

——Bridgeでの録音はかなり残ってますか。

西川:いえ、当時はA-DATってビデオのVHSテープにデジタル録音ができたので、それを使ってたけど、お金もないから10本くらいのテープを録っては消し、録っては消しというやり方で。

——家のビデオテープと同じ使い方だ。

西川:そうそう。あの頃は残しておかなければなんて意識はまったくなかったから。で、リミックスとかの作業は、A-DATからパソコンのハードディスクに移してたので、その一部が残っているだけです。

PLAYBACK|フェスティバルゲート「Bridge」第2回:西川文章さんの残していた音源を聴きながら

(neco眠る、オオルタイチ+ロボ宙の録音を聴く)

 

——Bridgeで、環境音ごと録音したような音源はないですか。

西川:それをやるにはマイクを立てて空間ごと録音しないといけないけど、当時はあんまりやってなかったんじゃないかな。チャンネルも足りなかったし。ただ、先に聴いたオオルタイチ+ロボ宙の音源はライブ録音ですね。

——前回、写真家の井上嘉和さんに話を聞いたときには、Bridgeを撮りはじめた頃はフィルムで、途中から完全にデジタル撮影になったという話だったんですけど、この2000年代前半はまさにデジタル移行への過渡期で、記録に残りづらい時代なのかも。

西川:そうですね。今でも時々「当時の音源ある?」とかって聞かれることもあるので、もっとちゃんと残しておけば良かったと思うけど。Bridgeで録音したわけではないですが、2009年にゑでぃまぁこんの『やっほのぽとり』の録音をしていて、それ以降は自分が関わった仕事のデータはすべて残しています。

——そうやって文章さんがサウンド・エンジニアを仕事にすることになったのは、Bridgeがきっかけですか。

西川:Bridgeで時々、PAとかもやらせてもらうようになって、めっちゃ大変なこともありましたけど、やっぱりうまくできたときとかは、すごく楽しくて。neco眠るの森(雄大)くんとかも「文章さんにPAお願いします」とか言ってくれて、それで自分ができてることが嬉しかった。Bridgeの普段のPAは奥成さんがやってたし、FBIのときにはZAKさんが来てたし、エッグプラント(1984年〜1989年、西成区にあったライブハウス ※mixiコミュニティ参照)でPAをやってた前川 (典也)さん(ROVO)とか、今はWANIMAとかのPAをされてる四反田(祐)さんとか、ライブによっていろんな人が来てたんです。今から考えるとものすごい先輩たちが。すると、自分がいつも触ってるのと同じ機材なのに全然違う音になるから、ほんとにすごいなって。話を聞いていろいろ教わったりもしましたよ。ZAKさんには恐れ多くて聞けなかったけど。

PLAYBACK|フェスティバルゲート「Bridge」第2回:西川文章さんの残していた音源を聴きながら
Bridgeで開催された「Festiaval Beyond Innocense 2007」にて。PA卓を操作するZAK photo: Yoshikazu Inoue

——文章さんにとって、Bridgeは実地に試しつつ、学ぶ場でもあって。

西川:そうですね。専門学校時代の先生だった宇都宮泰さんのワークショップやレクチャー【5】を企画したこともありました。結局、2007年にBridgeがもう閉まりそうだというときに、前川さんに誘ってもらって、ESP(エンタテイメント大阪)という専門学校で教えることになったんです。人に教える立場になった以上、本気で勉強したし、それがどんどん自分の仕事になっていったという感じです。

——今では舞台芸術の現場でもPAをされてますね。

西川:それもBridgeと同じフェスティバルゲートにあったDANCE BOXとの出会いからで。フェスティバルゲートがなくなった後、DANCE BOXの「循環プロジェクト」【6】でダンサーの砂連尾理さんの舞台作品に関わって、それは舞台上にPAミキサーを置いて、その場でミックスしながら、自分でトランペットを吹いたり、ギターを弾いたりもするという作品で。

PLAYBACK|フェスティバルゲート「Bridge」第2回:西川文章さんの残していた音源を聴きながら

——エンジニアでミュージシャンでもある文章さんにしか頼めないような仕事。

西川:最近も中間アヤカの『フリーウェイ・ダンス』【7】というダンス作品に同じような感じで関わって、神戸、京都(KEX)、TPAM、ベルリン、パリ、ベルギー、オーストリアとかのフェスティバルに参加してきました。ずっとやってること変わらんなって感じ(笑)。

——2007年にBridgeを含むフェスティバルゲートが閉館になりました。

西川:場所はなくなったけど、その頃からのつながりで周りにみんないるし、いまだにBridgeが終わったという感じもあまりしないかな。ただ、Bridgeのようなリアルな場がある意義は大きくて、たとえば梅田(哲也)くんのような(表現の)あり方って、音楽も美術もぐちゃっとなってたBridgeのような場があったからこそ出てきたんかなって。このへんはあくまでも僕の感想ですけど。大阪ってわりとベタな笑いの文化が流れていて、ひねった表現やシュールな感じとかって価値観として広まりづらい感じがする。けど、Bridgeはそのあたりが、こう、うまく混ざってたかな。そういう感覚が共有できたのは、Bridgeという場が存在していたからこそかなと思います。

2024年6月10日(月)、大阪・北加賀屋 音ビルにて
(取材:竹内厚、中尾微々、中脇健児、北村智子、多田智美・永江大・鈴木瑠理子[MUESUM])

【5】宇都宮泰さんのワークショップやレクチャー
音楽家・音楽技術開発者・音楽プロデューサーとして1970年代より活動する宇都宮。Bridgeで企画されたイベント/ワークショップは確認できるかぎりだと以下のものがある。「トクサノカンダカラ エデュケーショナルライブ(レクチャー)」(2005年7月22日)、「音楽の謎シリーズ 『音楽VSテクノロジーの再考』」(2005年11月11日)、「宇都宮泰・音楽の謎シリーズ vol.3.1」(2006年2月23日・24日)、「宇都宮泰のレクチャーシリーズ番外編『映画の謎解き〜映画音楽に秘められたあけっぴろげな真実(2)』」(2006年6月16日)、「音楽の謎シリーズ4〜宇都宮の世界制覇計画の歩み〜」(2006年7月28日)、「テクノポリタンミュージアム」でのプレゼンテーションほか(2006年8月6日)、「宇都宮泰のフィールドレコーディング術 vol.0 / プレビュー『ハードウェア入門編』vol.1 レコーダーのしくみ、vol.2 マイクロフォンについて、vol.3 実践・周辺機材、vol.4 聴くこと、録ること」(2007年3月9日・16日・23日・30日)。
参照:mixiコミュニティ「新世界の橋から

【6】DANCE BOXの「循環プロジェクト」
2007年7月、大阪市によるフェスティバルゲート売却にともなう「Art Theater dB 」閉鎖後、DANCE BOXは、2008年1月〜2009年3月まで大阪・元東淀川勤労者センターを拠点として活動していた(現在は兵庫・新長田を拠点に)。2008年4月に障害のある/ないの境界線を舞台表現を通じてクリエイティブに超える試み=「循環プロジェクト」をスタートし、2012年まで継続。以降も現在に至るまで派生した活動を続けている。
参照:DANCE BOX Webサイト「沿革
日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS TODAY「“しょうがい”とアートをつなげる法律って何?その3

【7】中間アヤカの『フリーウェイ・ダンス』
2019年、中間アヤカ&コレオグラフィ『フリーウェイ・ダンス』としてDANCE BOXプロデュースのもと初演。劇場空間に「庭」を出現させ、約4時間にわたるパフォーマンスとなった。以降も国内では「TPAM」「KYOTO EXPERIMENT」、国外では「クンステン・フェスティバル・デザール」(ブリュッセル)や「ポンピドゥー・センター」(パリ)などに招聘されている。
参照:中間アヤカ Webサイト「ABOUT

PLAYBACK|フェスティバルゲート「Bridge」第2回:西川文章さんの残していた音源を聴きながら

西川文章 / Fumiaki Nishikawa
1975年生まれ。ギタリスト、即興演奏家、作曲家、エンジニア。ソロ演奏のほか、国内外の演奏家と多数共演。Brazil、かきつばた、ホアン海、Tim Oliveとのデュオなど数々のバンド、プロジェクトでも活動している。エンジニアとしては近年では、 goat、空間現代など、先鋭的なバンドのPAやレコーディングを担当。舞台作品では、contact Gonzo『my binta, your binta // lol ~ roars from the skinland ~』(2024年)、地点×空間現代『グッド・バイ』(2018年)、第20回AAF戯曲賞受賞記念公演『リンチ(戯曲)』余越保子演出(2022年)、アンサンブル・ゾネ『緑のテーブル2017』(2023年にも上演)ほか多数。

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