価格「0円」。手に取った服の値札を思わず二度見した。
青山メリヤスの服にはじめて出会ったのは、数年前。スタンダードブックストア天王寺店での期間限定ポップアップだった。パッチワークのようなリメイクトップスは、生地好きの私にはど真ん中。“買って帰る?”、それとも“持って帰る?”、なんとなく戸惑いながら、0円の服をレジに持っていったことを覚えている。
そんな青山メリヤスが、2023年1月2日(月)に中崎町で新店をオープンした。福井県で誕生し、大阪に転居してからもポップアップで展開してきた「0円ショップ」は、トータル7年目。新店のテーマは「0円ショップと有料の融合店」。今後は3,000〜5,000円の価格帯で有料販売も行っていく(2023年1月時点での営業スタイル)。
地下鉄谷町線中崎町駅から徒歩7分ほど。長屋の続く細い路地を抜けると、軒先に置かれた服と看板が見えた。暖簾をくぐって玄関に入ると、小上がりのフロアに置かれたちゃぶ台とファンヒーター、その間に青山メリヤスのつくり手・山田麻理子さんがちょこんと座っていた。「いらっしゃい〜」。ワンピース、カーディガン、Tシャツやスカートなど約20着の服が、壁をぐるりと囲んでいる。服を並べるだけで、こんなに世界観ってつくれるんだなあ。長屋の雰囲気を残した空間に、青山メリヤスワールドが広がっている。
隣の部屋にあるキッチンで、(特別に)淹れてくれたほうじ茶をすすりながら、山田さんは話してくれた。「物件は、元々自宅に近い谷町付近で探していましたが、中崎町にあるカフェ『Salon de AManTO天人』のオーナー・純さんと話をする機会があったんです。偶然、10年ぶりでした(笑)。そのときに中崎町の空き物件を、2〜3軒紹介してもらったんです。その日にインスピレーションで決めましたね。ほんとタイミングです」
山田さんはここで制作活動もする。ミシンは使わず、手縫いオンリー。使う針は太めのもの1本のみ。「端布の入った袋から数枚取り出して、イメージを膨らませてから、一着一着コラージュするように縫っていきます。ベースにするのは、自分の身体に合うかどうかかな。多いときは1日に4着ほど縫っちゃいます。その日の気分で、ね」と、山田さんはゆっくりと微笑む。出来上がった服を0円にするか有料にするかも、縫い上げたときの感覚で決めるのだそう。
青山メリヤスの魅力は、その制作過程にもある。すべての服は、ファンやリピーターから届く衣類でできているのだ。ジャケット、ジャンバースカート、子供服、ブランド品など届く衣類の種類も生地も多種多様。1ヵ月に2〜3人、多いときには、“がさっと”郵送で届くこともある。「衣類にはその人の暮らしや考え方が見え隠れする。それを感じるのも楽しみです」。福井や大阪で活動する間に、増えていったファン。渡す人とつくる人。山田さんと青山メリヤスファンの間で、服を通した独特のコミュニケーションが築かれている。
取材にお邪魔したときは、売り切れ御免の「独自フリーマーケット」が行われていた。「これからはここでいろんな企画を試していきたい。ファッションというよりアート作品として、なにか受賞するのが今年の目標です」。山田さんは服を媒介にして、意思や世界観を表現するアーティストだ。また彼女の世界に浸りに来ようと思いながら、はじめて0円でない服を抱えて店を後にした。
大阪市北区中崎西4ー1ー30