田村亜沙子が主宰する菓子屋「菓宵(かしょう)」が、2022年10月13日(木)より喫茶営業をスタートさせた。2020年に旧店「カワタ製菓店」が閉店した後、同年7月20日(水)に、屋号をあらため都島区高倉町にあるトヨクニハウスの一室で、テイクアウトをメインに営業をはじめた菓宵。ファンたちが連日通う話題店で、ついに喫茶を楽しめるという知らせが届き、歓喜した筆者はさっそく友人と店を訪ねた。
「菓宵」のあるトヨクニハウスは、現役で利用されている日本最古の鉄筋コンクリート造集合住宅。シンプルな外観は植栽に馴染み、丸い飾り窓などの意匠からは歴史を感じることができる。菓宵の内装デザインを手がけたのは、デザイナーの高橋真之だ。ドアなどの既存の建具や柱・梁がもつ風雅な趣を残しながら、ミニマルなグレーのテーブルセットや真鍮の棚などを空間に調和させた、モダンな設えとなっている。
菓宵の喫茶は、季節の菓子2品を、飲み物とペアリングして楽しむコース仕立て。1回4組までの予約制で、この日筆者は11時半の喫茶を迎えるために席に着いた。時間になると店内のテーブル一斉にコースがスタート。田村自身がサーブし、お茶を注いでいく。
まずは、一の皿「葡萄のケーキ」。キラキラと艶めく葡萄のゼリーをメインに、下からタルト生地、コーヒー風味のアーモンドクリーム、自家製レーズンとカスタードが層になった一品だ。葡萄の果汁たっぷりのゼリーが口を満たし、タルト生地は濃厚ながら柑橘のような香りでさっぱりとした後味に。ひと息ついたところで、田村から菓子の説明がはじまった。「ゼリーには、青いレモンの皮をすこし。微かに抜ける香りは、ローズマリーのシロップです。一緒に食べていただくと、爽やかさが広がりますよね」と豊かな風味を織りなす素材について話してくれた。
二の皿は「栗のイートンメス」。山栗をペーストや渋皮煮にしたものに、カシスとヘーゼルナッツの2種類のメレンゲ、アーモンドのケーキが美しく皿に盛り付けられている。
「イートンメスは、食感が異なる素材をメレンゲと一緒に味わうスイーツです。添えている葡萄のジャムは、皮もあわせて煮詰め、レモンの果汁を多めに。アーモンドのケーキには、プルーンを入れています。それぞれに違う酸味がお楽しみいただけますよ」と田村は話す。メレンゲを崩し、甘さ控えめな栗の風味の立ったペースト、ジャムとともに口へ運ぶ。すると、濃厚な舌触りにすっきりとした酸っぱさが加わり、喉をスッと流れていく。
カワタ製菓店時代から、彼女の菓子のファンである筆者。目も喜ぶ美しさはもちろん、素材を生かす奥深い味わいとバランスにはいつも驚かされている。今回の菓子のように、食感や素材感を楽しめるもののほか、Thousの姉妹店となるレストラン・SANで提供されている、ブラックペッパーやゴルゴンゾーラを合わせたチーズケーキのように、塩気を効かせたお酒に合う菓子もある。
彼女はいったい、どのように菓子をつくっているのだろう? そう思い尋ねると、「感覚派の人間なので、コンセプトのようなことを語るのは難しいです(笑)。お菓子をつくる上で大事にしているのは素材。その組み合わせで、どのように楽しんでもらえるかを考えています。最初の一口から最後の一口まで飽きることなく、口のなかでいろんな味わいを表せたらいいなと思っています」と返ってきた。
一緒に話を聞いていたイラストレーターの友人が「絵に近い感覚ですか?」と投げかけた。
「たしかにその感覚に近いかもしれません。色を足して作品になっていくように、スパイスや香りがほしいなと思いながら、味を重ねて、お菓子を考えています」と田村ははにかみながら話してくれた。
菓宵のコースは季節ごとにメニューが変化していく。旬の素材を使い、どのような菓子を描いていくのだろうか。五感を楽しませてくれる、彼女の菓子がこれからも楽しみだ。
菓宵
営業時間:11:30〜17:30(事前予約制)
定休日:不定休(月ごとにInstagramで告知)
問合:06-6967-9203
Instagram:https://www.instagram.com/kasho__info/
菓宵
大阪市都島区高倉町1-14-7
トヨクニハウスF棟1F