違和感、驚きや発見。面白いなぁと思う人に出会ったときと似た感覚になれるのが、インディーズ本(ZINEやリトルプレス)の魅力だろう。大阪でインディペンデントな本屋といえば、千鳥橋にある「シカク」は外せない。少部数発行の書籍を取り扱う専門書店として12年目を迎える。
2023年2月11日(土)〜26日(日)に開催されていた展示会「インディー・ブックス・ライブラリー」に行ってきた。シカク店主の竹重みゆきさんが、長年収集してきた個人所有本の中から、“手放したくないけれど見てほしい”という想いで厳選した本が展示されているという。そんなの面白くないわけがない。
「倉庫に1,000冊以上眠っている本のなかから、これは!と思った本を2〜3ヵ月かけてセレクトしました。うちの子自慢みたいなもんです」と微笑む竹重さん。並んだ作品は20作品ほど。『ネギの写真集』『鯖缶批評』、タイトル・作者ともに不明のものなど、表紙をざっと眺めるだけも、そこに広がる世界が気になってくる。
個性溢れる本のなかから、個人的に気になったものを3冊ほど紹介したい。
『漫画少年ドグマ』(香山哲/2006年)
漫画だけでは抑えることができない、溢れ出るような作者の熱い想いが、コラムや文章で綴られている部分に感動。「フリーペーパーの作り方」から「原子力発電」など現実的なテーマまでを扱っている。一見文字量が多いが、漫画と組み合わさっているからか、抵抗なくすっと読み進められる。思考の過程を、漫画と文章を巧みに組み合わせながら物語に仕立てているところがさすが……。きちんと伝えようとする作者の丁寧さと読者への気遣いが感じられた。
『水族館でマンボウを見るのが楽しくなるマンボウ初心者のための本』、『マンボウの都市伝説』(マンボウなんでも博物館/2017年)
2冊まとめてどうぞ。「目蓋があって死ぬと目を閉じる?」「1回の出産で3億個も卵を産む」など、マンボウにまつわるあらゆる都市伝説を、独自に調べてまとめ上げた冊子。プリントをバチンと芯でとめただけの、簡易的な形態がこれまたいい。学術的な本とは異なるユニークな着眼点に思わず笑ってしまう。竹重さんも、「読者を置いてけぼりにして、自分の意見と妄想をどんどん展開していく感じが好き」とコメントするお気に入りの一冊。
『太子楼五體字類』(Eidantoei/2015年)
東京・新宿御苑前にあった中華料理店「太子楼」の看板文字を、日々撮りためた写真集。手書きで記された日替わりメニューの、その個性的なフォントよ。日常のなかに隠れている見過ごしてしまいがちな美しいものを、作者は発見して愛でる視点を持ち合わせている。看板のメニューとともに、側にある植木鉢の植物や日光の射し方も変わっていく。ページをめくりながら、作者と一緒に移り変わる日常を静かに眺めているような気持ちになれた。
一冊一冊、本と出会ったきっかけを丁寧に話してくださった竹重さん。展示コーナーの横には、今回セレクトした本の作家が、実際にプロとなり出版された本も陳列されていた。「昔シカクでのギャラリー展示に合わせて自費出版本をつくられた作家さんも、最近では書籍がドラマ化されて、すっかり売れっ子になりましたよ〜」と竹重さんは嬉しそうに話す。インディーズ本から溢れ出す個性を愛し、羽ばたいていく作家の成長を見守る、そんな竹重さんのあたたかい視線も感じた展示だった。
インディー・ブックス・ライブラリー
会期:2023年2月11日(土)〜26日(日)
会場:シカク