淡路島を拠点に活動するデザイナーの置田陽介(Attitude inc.)が、2022年11月に自社敷地内に貸別荘「WORM(ワーム)」をオープンした。アートディレクションとグラフィックデザインを主な生業とする置田の新たな挑戦の噂を聞きつけ、全国各地から親交のあるクリエイターが足を運ぶなか、筆者も友人とともに宿泊に赴いた。
WORMは、淡路島北東の農村地域に位置し、敷地内には宿泊施設となるゲスト棟と置田が暮らす住居棟が建つ。広い海と空を望める高台の立地と、日当たりがよく風が抜ける穏やかな気候に、肩の力が抜けていく。
ゲスト棟の内装設計を手がけたのは、MISTの井上真彦。1階はトイレ、バスルーム、2階はキッチンとベッドルーム、リビングルームがひとつになった客室となっている。ダイニングテーブルは、NO WAVEの天板を採用し、脚をelementsが滞在制作で手がけた作品。ソファはgrafのプロダクトモデル。ドアノブはアーティストのキクチユキミが制作したものだという。ゆかりのあるクリエイターが空間づくりに参加していることが、そこかしこにうかがえる。また、棟内には、置田の審美眼によって選び抜かれたこだわりの調度品や、アートブック・デザイン書籍を中心としたライブラリーコーナーなども。感性を刺激されるものばかりで、手に取って愛でていると、時間を忘れてしまいそうだ。
仕事と暮らしのバランスを取り、心身ともに健やかでいられる環境を探し続け、WORMのある淡路島へ2020年に移住した置田。この地で過ごす日々から得た経験をきっかけに、宿泊業のスタートを決めたという。
「朝、出勤代わりに畑作業をするのはいい運動になるし、仕事の合間に釣りに出かけたり、育てたハーブや野菜を使って料理を楽しんだりすることも、四季折々の美しさを感じさせ、心を健やかにしてくれます。ここでの生活には、僕らにかけがえのない豊かさがある。この体験をより多くの人に伝えたいと思い、WORMをオープンさせたんです」と置田は話す。
WORMは、宿泊者に過ごし方を委ねていることも特色と言えるだろう。貸別荘ということもあり、食事も自分たちで。筆者たちは、地元の市場で食材を買い込み、丸一日をWORMで穏やかに過ごした。置田の案内のもと、ゲスト棟の裏手にある畑でイチジクやハーブを収穫させてもらったり、近くを散策したり、ライブラリーに手を伸ばしたり。夕食は、置田おすすめの音楽をかけながら料理し、大きなダイニングテーブルを囲んでいただく。ついついつくりすぎたり失敗したりしても、それすら楽しく思える。食後には、外で焚き火をし、他愛もない話をしながら星を眺めた。仕事や家事に追われることのない時間に、心が澄んでいくような感覚を覚えた。
朝、いつもより少し早く起きると、部屋の大きな窓から太陽が登る姿を拝むことができた。身のまわりにあるものごとの美しさにあらためて気づかされる滞在だったが、もっと本を読んだり、食の宝庫である淡路島の食材を探したりと、WORMの近隣や島内を散策したい想いが沸々と湧き上がり、1泊ではまだまだ足りないなと感じた。
「宿は総合芸術だと思っています。デザイン、インテリア、音楽、それらが生み出す空間の心地よさなど、僕がこれまでに経験したことのすべてが詰まっているのがWORM。自然やデザインを楽しんでいただいた先に、みなさんの琴線に触れるようなアイデアや、クリエイティブの種があります。数日過ごしたり、何度も訪れたりすることで、“沼”にはまってほしいですね」と置田は笑って話してくれた。
過ごした時間の余韻に浸りながら家に戻ると、今の暮らしをどのようにもっと楽しく豊かにできるだろうかと、いつもと違う視点で自身の暮らしを見つめることができた。そのヒントを得に、またWORMを訪れたい。次はどんなふうに、誰と過ごそうかと、すでに新たな期待が芽生えはじめていた。
WORM
URL:https://wormstay.jp
Instagram:@worm_stay
問合:info@wormstay.jp
クリエイティブ・チーム:
クリエイティブディレクション:Attitude、elements
設計:MIST 井上真彦
植栽:スギーモ園藝事務所
オリジナルタイル:(株)Danto Tile
オリジナルドアノブ:キクチユキミ
家具(ダイニングテーブル):elements
家具(ソファ):graf
家具(扉、テーブル天板):NO WAVE
照明 (一部):NEW LIGHT POTTERY
左官:風の絵 前田達也
アメニティ石鹸:島せっけん
WORM
兵庫県淡路市釜口2173