「ここで、食っていけるの?」「暮らしが買えると思うなよ!」など、ドキッとさせられるような力強いキャッチコピーが表紙に踊っている。『みんなでつくる中国山地』は、中国山地編集舎が発行している年刊誌だ。事務局があるのは島根県。ちなみに中国山地とは、中国地方(鳥取県・島根県・岡山県・広島県・山口県)にまたがる山地のこと。1つの県だけで完結せず、ゆるく県境をまたいでいるのも中国地方らしくていい。
『みんなでつくる中国山地』の活動には、親近感を持っていた。というのも私の地元は岡山県矢掛町という田舎町で、まさに中国山地の堂々たる一員だからだ。数年前からまちおこしに力を入れている地元は、観光客がまちを歩く風景が日常化しつつある。人が訪れてくれるっていいもんだと、10年前にはなかった風景を嬉しく感じている。大阪在住歴が長くなったが、地元への愛を失ったわけじゃない。生まれ育った地元を盛り上げたい、その想いは離れて暮らす人でも同じだろう。
そういうわけで、2023年2月17日(金)に、スタンダードブックストア天王寺店で開催されたトークイベント「地元から、世界を創り直せ! 『みんなでつくる中国山地』をみんなで語るVol.2」に足を運んだ。
当日は、中国山地編集舎の発起人である田中輝美さん、年刊誌デザイナー担当の安田よーこさん、コピーライターの日下慶太さん、そして司会者としてスタンダードブックストア店主の中川和彦さんが登壇した。「島根県は過疎の聖地。言い換えると過疎の先端地域です。でも過疎はもうネガティブワードではありません。この過疎の先端地域から暮らしを考え、生業をつくっていく、それを現場から発信していこうという動きが『みんなでつくる中国山地』です」と田中さんは説明する。
『みんなでつくる中国山地』は2020年に山陰広告賞グランプリを受賞し、現在は4冊目を発行したところだ。冊子では「地方の現状」「暮らし」「仕事」という、地方移住で気になる題材が取り上げられている。山陰広告賞の審査委員長を務めた日下慶太さんは、「書き手の熱量が詰まったボリューミーな冊子。読む側にも相当なエネルギーが要る」と紹介した。
中国山地編集舎は、2019年にコアメンバー5名で立ち上げ、現在の会員数は200名ほど(2023年2月現在)。年間費を支払えば、プロ・アマ問わず誰でも年刊誌に寄稿する権利を得られる仕組みで、助成金や広告収入に頼らない独立性が重んじられている。中国山地に属する5県に関するものであれば、どんなテーマでも寄稿可能。しかもほぼノー編集で、執筆者の意向を最大限尊重した自由度の高さがすごい。「その人の思考そのものが文章に表れる」と田中さんが話すとおり、現地で暮らす人々のリアルな声が濃ゆ〜く綴られている。
冊子には、いわゆる“キラキラ移住ストーリー”はない。「で、地方での暮らしってホントのところどうなの?って。憧れを抱かせるようなストーリーよりも、現実を伝えることに贅沢さがある」と田中さん。着地点をあえてつくらず、はみ出ていることを面白がる編集スタンスで、自由にのびのびと地方の今が集積されている。冊子はひとつのコミュニティのプラットフォーム。約200名の会員は、メディアに寄稿することで自分の考えを再確認し、さらに地元愛を醸成するという循環が生まれているように見えた。
「地方で生きるためには?」というテーマにも話は及んだ。「自己決定して、各々マイルールをつくればいいんじゃない?」と提案する日下さん。「稼げることをやるというより、自分がやりたいことや社会に必要だと思うことを実践すると、結果的にお金が稼げるというような流れもある。地方ではそれがやりやすいことに、みんな気づいてきてるんちゃう?」と中川さんが答える。
都会は満員で場所がなくても、地方では席がたんまり空いている。その状況をいち早く見つけた人たちが、自分らしい椅子を置いて豊かに暮らしているのかもしれない。冊子は100年続ける予定で進んでいるのだそう。1年に1冊の計算で言うと、あと97年間? ふと岡山の地元の風景がよぎった。いざ拠点を移そうとしたときに、メディアを介して、先に実践している仲間と関係性があるってすごくいいかもしれない。いろんなかたちで地方と関われる方法がこれからもっと生まれそう。いいぞ中国山地〜。
地元から、世界を創り直せ!「みんなでつくる中国山地」をみんなで語る Vol.2
日時:2023年2月17日(金)19:30〜
会場:スタンダードブックストア2Fギャラリーみんなでつくる中国山地
https://cs-editors.site/『みんなでつくる中国山地2022 生業号(003号)』
価格:2,750円(税込)
2022年11月刊行
B5判変型 180頁 並製本