TRA-TRAVEL/Osaka Art hubが企画する「アーティスト・イン・レジデンスプログラム AIRΔ」の第4弾として、タイはイサーンのアーティスト、Sittikorn Khawsa-Ad(以下、トゥイ)とChaiyapat Yachay(以下、ワン)が招聘された。2022年10月より、大阪・此花のアーティストランスペース「FIGYA」を拠点に40日間のリサーチ&滞在制作を行い、12月にはオープンスタジオ形式での展覧会「MIND WANDERING」を実施。
トゥイとワンがどのように大阪を、日本を見たのか。FIGYA代表であり、自身もアーティストとして各地で制作を行うmizutamaが、本プロジェクトを振り返った。
プロジェクトのはじまり:トゥイとワンの初レジデンス
TRA-TRAVEL/Osaka Art hubとの初共同企画で印象的だったのは、レジデンス受け入れを共同し互いに無理をしすぎず、実務や現場でのやりとりを分散する運営体制がとれたということ。思い返せばここ数年は、海外とのプロジェクトをオンラインで進行したり、帰国できないアーティストのサポートをしたりしていたため、FIGYAとして久々の海外勢受け入れに期待と戸惑いがあった。そんな状態だったが、今後もTRA-TRAVELと共同したいと感じるほど、今回のレジデンスによって継続的な国際交流のための良いかたちが見えたように思う。
滞在アーティストは、タイ・イサーン地方出身のアーティスト、トゥイとワン。タイと言われてイメージするようなバンコクやチェンマイといった都市ではなく、ふたりともタイ東北部イサーン地方にある農村からやって来たことに興味が湧いた。加えて、初の来日・レジデンス参加でもある。自分自身がはじめてレジデンスに参加したときの不安や苦労を思い出して胸が熱くなり、ふたりをサポートしたいという想いから、滞在初日から生活に必要なものが揃うスーパーマーケットや工具・素材などを買うお店の場所を案内してまわり、大阪での生活必需品、自転車も買いに行った。
滞在制作のプロセス:「Mind wandering」との出会い
滞在するなかで、お互いを深く知る必要があると感じて、此花のモトタバコヤでお茶をしながら、ふたりも私も完璧ではない英語を使って自分はどういった人間かをプレゼンし合った。
彼らの所属するコレクティブ「MAHASARAKHAM MID-FIELD ARTSPACE」の拠点があるイサーンは、思っていた以上に自然が広大な地域。木の皮を素材につくった彫刻作品や庭先で採取したマッシュルームをモチーフとした作品などを紹介してくれた。私自身も岡山の山奥出身で、農業器具やビニールハウスをモチーフにした作品を制作していたことなどを話しているうちに、地方から都会に出てきて活動している自分とふたりの境遇が重なって一気に距離が近くなる感触があった。お互いに共有できることはまだまだありそうで、今後もつながりを継続できる期待をもてた瞬間。
はじめてのレジデンスに加え、はじめて冬を体験するふたり。少しずつホームシックになっているようにも感じられたため、以前からFIGYAのサポートをしてもらっているサウンドアーティストの山本雅史さんに防寒着を寄付してもらい、さらに気晴らしになるかもしれないと京都の観光案内もお願いした。その途中、立ち寄ったタイ料理店。タイの僧侶の写真が飾られており、そこに書かれていたのが「Mind wandering」だった。
「Mind wandering」にはいろんな意味合いがあるようで翻訳に非常に困った。ふたりは「インサイド/アウトサイド」と何度も説明してくれ、ヨガのメディテーション(呼吸法)のようにリフレインしていくさまを例に出してくれた。この言葉との出会いは、今回の展示コンセプトへとつながっていく。大阪に来てイサーンに帰る作家自身、輸入と輸出の関係性、食べ物を体に取り入れ作品としてアウトプットすることなど、展覧会はすべてこのコンセプトを通して構成された。
京都観光以降は、毎日FIGYAで顔を合わせて制作を行い、合間に話をし、欲しい素材や展覧会のイメージを何度も話し合い、少しずつ形にしていった。展覧会の内容やポスターなど、イサーンをリプレゼントできる内容にしようとイメージを詰めていく。暖かいアウターと、暖かく迎え入れてもらえる状況に対して、ふたりは制作を進めていくことで答えてくれたように思う。
滞在制作のプロセス:在住タイ人の言葉
ふたりは日本橋にあるタイ食材のショップに日々通い、そこで出会った在住タイ人との情報交換をきっかけに、その人たちへインタビューとリサーチを行った。在住タイ人たちに話を聞いていくうち、その多くが週6で働いていることに気づいたワンは、「人生は一度きりなのに、なぜ彼らはあんなハードな生活をしているんだ?」と何度も私に聞いてきた。彼が納得する答えは導き出せていないが、時折故郷を思い出し懐かしくなる在住タイ人労働者の気持ちを乗せたインスタレーション作品《どこでも同じ月を見ている》制作のきっかけになったように思う。
展覧会のコンセプトや作品の方向性が見えてきた頃には、トゥイは、ニンニクの皮を素材に日々手を動かしつつ、来日したての頃にFIGYAで展示をしていた此花在住の映像作家、片岡拓海さんと作品でコラボレーションをしていく方向を模索していった。ワンは、引き続き私といろいろな話をし、「ブッディズムを日本人はどう考えている?」「なぜ日本に来ているタイ人はずっと働き続けている?」など、日々生まれる疑問を外に出していくことで、思考の整理をしていた。
展覧会:オープニング
展覧会初日には「MAHASARAKHAM MID-FIELD ARTSPACE」代表のAdisak Phupa(ガイ)もイサーンから駆けつけてくれた。はじめてのレジデンスを心配していたが周囲のサポートで無事展覧会が開催できたことに感謝していると熱い話をし、今後も大阪のアーティストと「MAHASARAKHAM MID-FIELD ARTSPACE」の交流を続けていきたいとのこと。今回のプロジェクトはそのスタートで、これからのストーリーを思い描いてくれているようだった。
今回のレジデンス、そして展覧会でイサーンのアートの状況などを少し知ることができた。彼らはどちらかというと田舎でのレジデンスや作品制作を求めており、今後自分がもう少し自然のある場所でレジデンス受け入れができれば、広がりをもてるというのもわかった。
2023年は、私が「MAHASARAKHAM MID-FIELD ARTSPACE」に受け入れてもらいイサーンで共同プロジェクトを行おうと考えている。そういった意味で今回の「Mind wandering」は、はじまりの展覧会。今後も交流や日本での活動を継続できるような動きにしていきたい。
オープニングでは、アーティストトークも行われ、多くのお客さんが来てくれた(感謝!)。彼らもどこに向かって制作しているのかわからないまま展覧会当日を迎えたが、それに対して多くの人が反応してくれたことに驚いていた様子。会場に設置した簡易キッチンでタイ料理をつくり、お酒を飲み交わし歌い、素晴らしい交流が生まれた。料理が辛かった……。
AIRΔ vol.4 展覧会「MIND WANDERING」
Sittikorn Khawsa-Ad and Chaiyapat Yachay
日時:2022年12月9日(金)〜12日(月)、 12月16日(金) 〜18日(日)
会場:FIGYA
主催:TRA-TRAVEL 共催:FIGYA
助成:大阪市、BANGKOK ART AND CULTURE CENTER
協力:Adisak phupa、Duangpohn p-pimai、Jun、MAHASARAKHAM MID-FIELD ARTSPACE、Penwadee Nphaket Manont、Waan、片岡拓海、山本雅史
関連イベント:
12月9日(金) 17:00〜19:00 オープニングパーティー
12月9日(金) 19:00〜20:30 アーティストトーク(TRA-TRA-TALK vol.3)
12月10日(土) 18:30 〜 上映+演奏会 出演:山本雅史