関西を拠点とするギタリスト、歌い手のAZUMI。移住先の生駒の地でライフワークとして紡がれる「生駒ギター」シリーズ最新作『Country in the City』を、大阪・淡路の自転車屋「タラウマラ」店主の土井政司がレビューする。
昨年、奈良の異色喫茶店pleased to meet me(以下、プリトミ)で見たAZUMIさんの弾き語りライブでは、それまで自分のなかに揺らいでいた漠然としたものが、AZUMIさんの力強い声と演奏によって、はっきりと肉付けされたような気がした。十八番「AZUMI説法」に於いて、稀代のブルースシンガーは勝新太郎主演のヤクザ映画『悪名』を巧みに取り込んで、観客である私たちの前にはっきりと戦地を炙り出した。河内音頭の革命児、三音家浅丸によるそれとは別種の、音頭ともブルースとも異なる、しかし同時にどちらの要素も多分に含んでいて、確かに説法としか言いようのない音と言葉が私の心の奥底に沈んでいた澱のような感情を根こそぎに浚っていく。
「人間は殺したらあかん」
「自分で死んでもあかん」
「争いそのものを殺したらええんや」
大袈裟ではなく、本当に息が詰まりそうになった。プリトミ店主セックスピストル光三郎氏から「急に花粉症がキツくなったんかと思うた」と勘繰られるほどに私は人目も憚らずに鼻水を垂らし、涙を溢れさせた。AZUMIさんは歌の始まりと終わりに何度も同じ言葉を繰り返した。「戦争は嫌やけど、何よりも自分自身に一番腹が立つんですわ」。
同年、AZUMIさんは長年住んだ大阪の地を離れ、生駒へと居を移した。それを機に意欲的に制作されている「生駒シリーズ」と銘打たれた私家版CDがあまりにも味わい深い。本作は同シリーズの3作目で、ライブ会場と一部の店舗(プリトミ、タラウマラ)のみで購入することができる。カバー曲もオリジナル曲もインスト曲も、すべてに於いてAZUMIさんの息づかいが聴こえてくる。それだけじゃない。耳をすませばその背後にある日々の営みこそが各楽曲を支え、彩りを添えていることに気づかされる。いまだにまともに挨拶を交わせていないという隣人家族との微妙な距離感、真夏に跳梁跋扈したアシナガバチとの格闘、寒波の日に動作不良を起こした冷蔵庫、南正人の75年のデビューアルバム『回帰線』、そのオリジナル・ゲートフォールド・ジャケットに貼られたリサイクルショップの値札……。そんな日々の欠片たちがAZUMIさんの喉を通って歌になり、年輪の刻まれた指先を通じてメロディとなる。
生駒に越して半年が経過した頃、AZUMIさんは自宅にお茶碗がないことにふと気がついたそうだ。まるで息を吸うようにギターを弾き、飯を喰らうように歌う人が荒々しくも繊細に吹き込んだ日々の記録、これをブルースと呼ばずに何と形容すれば良いのか。離婚を目前に控えた私の友人に向かって「幸せになってください」と優しく言葉をかけてタラウマラを後にしたAZUMIさん。今日も電車やバスを乗り継いで、ライブ会場へと向かう。もちろん傍らにはギター。あなたの街の馴染みの場所で、ぜひとも本作と出会ってほしい。
AZUMI『Country in the city』
価格:1,000円
収録曲:
1. パフ
2. 父のワルツ
3. イコマラグ 1
4. イコマラグ 2
5. 春がいっぱい
6. HOME
7. 家路 PARTⅡ
8. ホーボーズララバイ
9. ブルーベリーヒル〜シーオブラブ
10. 家路PARTⅠ