2023年1月6日(金)〜29日(日)、大阪・平野で知的障害のある人が集い創作を行う「アトリエひこ」と、隣接する「となりの三軒長屋」にて、展覧会「UPPALACE〜暇と創造たちの宮殿〜」が開催された。開催までの経緯は、以下のニュース記事に詳しい。本記事では、企画の中核を担った詩人・辺口芳典、そして展覧会に参加した建築写真家・大竹央祐の視点で、解体と創造の風景を切り取る。
本展開催のきっかけは、アトリエひこの制作を見守ってきた石﨑史子が、メンバー作家である松本国三の作品集をどのように制作したらいいか、詩人の辺口芳典に相談したことに遡る。そこから、編集とデザインを写真家の秦雅則に託すことで『手紙 松本国三 春夏秋冬』(A組織×アトリエひこ、2021年)が完成。同著に触れてもらう機会づくりを企画するなかで、導かれるように「となりの三軒長屋」に出会い、その空間を生かす今回のアイデアにつながっていった。
参加者にはアトリエひこの作家に加え、関西で活動する建築家の浦田友博や写真家の大竹央祐、美術家の黒瀬正剛ら。また、秦とともにBEPPU PROJECTの一環であるアーティスト・イン・レジデンス「清島アパート」に参加した、神谷紀子や東智恵、森本凌司といった面々も名を連ねる。先のYouTube予告編の字幕にも登場する、室町時代には交通の要所として賑わったという平野郷の文化交流的な特性にもなぞらえられるような、多彩なラインアップだ。
ラララララララララララ
この社会に信じられるものを見つけることができず、信じるに足るものは自分でつくるしかない。
そうやって私は詩に行きついて、詩人としてデビューしたのは2000年に刊行されたWasteland。
(荒れ地)を通り過ぎて、向こうに見えてきたひとつが松本国三さんでした。
“アール・ブリュットの驚くべき世界”と題された芸術新潮(2005年)で国三さんを知り、
カレンダーなどに書き連ねられた原初的な文字の作品が取り上げられていて強く惹かれました。
国三さんの新世界での暮らしぶりが垣間見えるポートレートも何枚かあって、
その佇まいやファンキーな表情にこの人って完璧やなと感じたことを思い出します。
自分がそうなりたいという憧れではなく、信じられる他者を見つけたという納得のようなものを
そこから読みとっていたんだと思います。
私は国三さんの描いたものの実物を見たくなりました。
そういう流れがあって、国三さんの通っていた“アトリエひこ”につながります。
それから15年以上が経ち、
国三さんに関係する作品やスナップ写真をまとめた
“手紙 松本国三”の出版に関わらせてもらう機会にも恵まれて、
国三さんのこと、アトリエひこのこと、国三さんのともだち、
うれしさ、くやしさ、ままならなさ、あったかさを想いました。
大切なものがどんどん追いやられていく姿も見ました。
助けてほしいという気持ちで仲間に呼びかけたのかもしれないし、
どんなにささやかなものだとしても信じられるものがこの世界に生きている
それをみんなで祝いたかったのかもしれません。
アッパレ
アッパレ
アッパレス
さまざまな作り手によって
UPPALACEは立ち現れました。
掘り当てたといった方がしっくりくるような空間
水脈のような暇と創造たち。
信じられる他者がこんなにいる。
胸がすく。
市井が息を吹き返す。
辺口芳典
僕にとっては、大阪、平野、アトリエひこやUPPALACEを含めてすべてが歴史であり、その潮流に身をおいて、この歴史の一端を写真でとらえたいと思い、今回の展示に参加させてもらった。
アトリエひこさんにはじめて伺ったとき、皆の創作の集中力や躊躇いなく表現する姿に衝撃を受けた。その根源を近くで見たいと思い、展示がはじまる少し前から通わせてもらっている。
ひこさんたちは日々、筆や釘などのさまざまな道具を持って、何かを目の前から削り出しているようだ。たとえば、町工場の職人がモノと対峙し、それを磨き上げ、生活を営むように。黙々と、ひたむきに、迷いなく日々を積み重ねている。
ほかの皆も同じなのではないか。
切実に自分のできることで、世の中に伝えるべきことを伝える役割を担っている。
つけられた名前や立場で価値や表現が決まるのではなく、表現した自分たち自らの手で民主化していく。
かつて大阪平野の環濠都市で商人がすでに持っていたような自治の強さが、日々を削り出すつくり手たちの想いと呼応し、UPPALACEが立ち上がったのだと思う。
地面から湧き上がるこういった動きは歴史のように力強く、自然で当たり前の風景になっていくのではないだろうか。
大竹央祐
会期:2023年 1月6日(金)~ 29日(日)
会場:アトリエひこ となりの三軒長屋
関連イベント
2023年1月7日(土)18:00~
疋田実(よろず淡日)× 浦田友博(建築家)
大阪を掘る。平野を掘る。
ひこくんらを真ん中に置いて。2023年1月14日(土)18:00~
秦雅則と参加作家たちによる観覧と考える会2023年1月21日(土)18:00〜
辺口芳典とLVDB BOOKSによる
“2221年のことば”2023年1月28日(土)18:00~
UPPALACEの音楽会
参加者:
家入健生(cemi-tu’pui)
石田貢大(アトリエひこ・文字)
稲留武史(アトリエひこ・絵)
伊吹 拓(未来絵)
今井佑規(アトリエひこ・漫画)
上田紗瑛(アトリエひこ・絵)
浦田友博(建築、室礼)
遠藤倫数(neo projects・壁ぶち抜き)
大江英明(実業・ひこくんの弟)
大江正彦(アトリエひこ・絵画、立体)
大竹央祐(写真、月の光)
神谷紀子(BAR海草・?)
河﨑 崇(アトリエひこ・絵)
川崎美智代(絵)
木下明美(アトリエひこ・絵)
金昌裕(アトリエひこ・絵)
黒瀬正剛(絵と文字のあいだ)
佐藤春菜(アトリエひこ・詩、絵)
佐野佳世子(アトリエひこ・絵)
芝田一絵(shibataie・○○)
嶋谷歩美(アトリエひこ・絵)
菅原広司(映像、記録)
杉本道隆(アトリエひこ・絵)
谷口嘉一(アトリエひこ・絵)
竹平洋基(絵と言葉)
茶谷節子(アトリエひこ・絵)
中正人(アトリエひこ・絵)
西山広志(表札・ポスト・チューニング)
秦雅則(言い出しっぺ、写真)
東智恵(絵)
疋田実(よろず淡日・モノ)
久田あず紗(アトリエひこ・絵)
久田奈津紀(アトリエひこ・絵)
平田安弘(アトリエひこ・絵、立体)
弁弾萬最強(でんぐり返し)
藤井慎二(書肆ゲンシシャ・文字)
辺口芳典(コーディネート、詩)
松本国三(アトリエひこ・文字、絵)
水田雅也(動物)
宗久典高(大きい人・塗りステンドグラス)
森田敏裕(アトリエひこ・絵)
森善之(ナナクモ・写真)
森本凌司(縫う)
山田繁(山田たたみ店・畳造作)
米子匡司(音楽と・トロンボーン)