北浜のNEW PURE +にて2023年1月28日(土)~2月12日(日)にかけ、死後くんの展示「内なる恵方」が開催された。私が訪れたのは南南東に向かい恵方巻を食べ終わってから数日後の2月9日(木)。入り口から小さな恵方が出迎えてくれた。
死後くんは東京を拠点にイラストレーターとして活動している。今回節分をテーマに選んだのは、ちょうど2月3日が会期に含まれているからだと予想できたが、恵方巻が大阪から広がった文化かもしれない*という歴史背景も含めていたらとても興味深いなと思う。
最初に目に入ったのは今回のメインビジュアル。恵方巻が顔に埋まったインパクトのある鬼は、顔ハメパネルにもなっている。くり抜かれた恵方巻の中身は反対側の壁に貼り付いていた。この方角が展示の恵方かもしれない。
恵方巻や鬼、豆、蟹など、節分に合わせた縁起のよいモチーフたち。幸福感のある色合いで着彩された作品たちは、奥行きのある丸窓の箱に額装されている。ふと、恵方巻視点の穴から昔話を覗き見ているような感覚に陥った。箱のなかには一つひとつツッコミどころも癒されどころもあるシーンが広がり、ついつい無言で恵方巻をかじるように時間をかけて眺めてしまう。この世界では「鬼は外」でもリラックス。
赤・黄色・緑を基調とした着彩や金銀の額装、おめでたくてきらきらとした展示空間に、パリッとした海苔で巻かれたようなシンプルな作品群があった。
そのひとつに、展示タイトルと同じ《内なる恵方》を見つけた。海苔のフレーム(勝手に呼んでいる)のなかはまっしろである。もしかして光の加減で見えたり、炙ったりすると浮き出てくる……のかな?と思って数分見つめていたところ、NEW PURE +の大井さんが「作品が間に合わなかったのでまっしろなんです」とこっそり教えてくれた。
ぽっかりあいた余白を見ると、人は答えを探したり想像したりする。自分なりの「内なる恵方」が見つかればそれでいいんだなと感じてしまった。パソコンの画面がふと暗くなった瞬間ににこやかな自分が映ってしまうことがあるが、そんなときに感じてしまう現象に近いかもしれない(?)。
「ペンネームの縁起が悪い」という理由で仕事が決まらないことがあるという(NEW PURE +の展示プロフィール抜粋)死後くんだが、そんなエピソードも吹き飛ばすような縁起のよいものを見せてもらった。
* 恵方巻については諸説あるが、大阪の繁華街で節分の時期にお新香を巻いた海苔巻きを恵方に向かって食べたのがはじまりとも言われている。
死後くん
イラストレーター/1977年生まれ
東京在住雑誌POPEYE(マガジンハウス)、「母の友」(福音館書店)、書籍『失敗図鑑』(大野正人著/文響社)、絵本『ごろうのおみせ』(ごろう作/岩崎書店)、NHK総合『おやすみ日本』他、紙媒体を初めTV、webなど様々な媒体でイラストや漫画を手がける。著書に漫画『I My モコちゃん』(玄光社)。絵本『ぽんちうた』(ブロンズ新社)。
「ペンネームが縁起が悪い」との理由で仕事が決まらないこと多々あり。
平川かな江/Kanae Hirakawa[デザイナー]
1992年福岡県生まれ。UMA / design farm所属。グラフィック、空間、企画開発などなど担当。自分のご機嫌を取る方法は食事にあると仮定して、美味しいものをつまみ食いする日々を送る。夏はコーヒー、冬は紅茶派。
会期:2023年1月28日(土)〜2月12日(日)
会場:NEW PURE +