大阪・平野に場を構え、知的障害のある人が集い創作を行う「アトリエひこ」と、そこに隣接する「となりの三軒長屋」を舞台に、2023年1月6日（金）から29日（日）にかけ、展覧会「UPPALACE〜暇と創造たちの宮殿〜」が開催される。

アトリエひこは1994年に開設。その名は、1965年にダウン症と重い心臓疾患を伴い生まれた大江正彦（通称ひこくん）に由来する。彼が誕生した昭和40年当時の平野は、商店街や映画館が大いに賑わっていた。しかし、養護学校を卒業した大江に居場所はなく、彼の母は「好きな絵を思う存分描かせてやりたい」という願いから、同じように障害のある仲間を迎え、自らこの拠点を開いた。

そして、そんなアトリエひこが位置するのは、中近世に環濠都市として栄えた平野郷が存在したエリア。「UPPALACE」展のYouTube予告編では、その歴史背景が字幕で表示されるとともに、展覧会場となる、アトリエひこに隣接する築80年の長屋の壁が突き崩される様子が映る。それは、かつてこの地を発展させた町人の自治意識や創造性を、現在地からとらえ直そうとする試みともとれるかもしれない。

本展開催のきっかけは、アトリエひこの制作を見守ってきた石﨑史子が、メンバー作家である松本国三の作品集をどのように制作したらいいか、詩人の辺口芳典に相談したことに遡る。そこから、編集とデザインを写真家の秦雅則に託すことで『手紙 松本国三 春夏秋冬』（A組織×アトリエひこ、2021年）が完成。同著に触れてもらう機会づくりを企画するなかで、導かれるように「となりの三軒長屋」に出会い、その空間を生かす今回のアイデアにつながっていった。

参加者にはアトリエひこの作家に加え、関西で活動する建築家の浦田友博や写真家の大竹央祐、美術家の黒瀬正剛ら。また、秦とともにBEPPU PROJECTの一環であるアーティスト・イン・レジデンス「清島アパート」に参加した、神谷紀子や東智恵、森本凌司といった面々も名を連ねる。先のYouTube予告編の字幕にも登場する、室町時代には交通の要所として賑わったという平野郷の文化交流的な特性にもなぞらえられるような、多彩なラインアップだ。

ある人は新聞の文字を一つひとつボールペンで消し、ある人は日めくり暦にぎっしりと覚えた文字を書き込む。忙しく働く家族の側で、身近なものを用い、膨大な“暇”に向き合いながら切実な仕事を編み出してきたアトリエひこの作家たち。彼らの創作は、移り変わる時代のなかで、失われうる土地や先祖の記憶を表出するすべでもある。

「UPPALACE」展が今回長屋に出現させるのは、そのように表裏一体となった、喪失と創造との接点が生じる場としての宮殿だ。この土地や場、時間に邂逅するつくり手が、各々に直面する“暇”からなにを立ち上げるのかを目の当たりにしたい。